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ドッペルゲンガーの家【2分で読めるミステリー】

作者: やまもん

 ガチャリ


 リビングにいた僕の耳は、敏感にその音を拾った。

 間違いない。これは玄関のドアが閉まる音だ。何千何万回と聞いてきたのだから、間違いようがなかった。


 しかし、おかしい。僕がリビングにいる事を考えると、玄関にいるのは誰だ?

 素早く思考を巡らせた結果、僕はドッペルゲンガーの存在を確信した。


 ドッペルゲンガー。特定の人や物に化ける妖怪だ。それだけなら問題は無いが、奴らはタチの悪い特性がある。

 すなわち、化けた対象とドッペルゲンガーが顔を合わせた時、本物は死に、奴らは本物に成り代わる事だ。


 玄関からリビングまでの距離は5m。僕はサッと壁に目を走らせ、リビングに窓がない事を再確認した。部屋の出口はただ一つ、玄関から伸びる廊下へのドアのみ。

 つまり、ドッペルゲンガーが5mをつめた時、僕は死ぬ。


 過去に戻ってこの家を選んだ自分を殴り飛ばしたい思いを堪えつつ、生き延びる術を模索する。

 幸いにして奴はドッペルゲンガー、玄関からリビングまでの移動にとてつもなく時間をかける事は僕と同じらしい。ギシリ、ギシリと廊下の床板が軋む音が静かな家に痛いほど響く。


 僕の普段の行動を考える。奴はドッペルゲンガーなのだから、行動原理も僕と同じハズだ。

 と、いうことは僕の行動原理を基にすれば、必ず生き延びる手段が見つかると思うのだ。


 ——耳を澄ます。


 そうだ、僕は家に入る時、耳を澄ます。床板の軋み、電化製品の稼働音にドアの開け閉め、そういった音を慎重に聞き取り、違和感は無いか、不自然な生活音は無いか、逐一確認するのである。

 もしも違和感を感じた時は、すぐに背を向け、家の外に出ることにしている。ビビりとは思わないでほしい。僕はいつでもドッペルゲンガーの存在を心配しているのだ。

 そしてそれは、こんな所で役に立つ。


 「ワッ!」


 口に手を当て、叫んだ。もしもリビングからこんな声が聞こえたら、僕は迷わず家の外に出る。僕が家の外に出るならば、ドッペルゲンガーも家の外に出るハズだ。その隙に僕は玄関から飛び出し、一目散に逃げれば良いのだ。


 ドンドンドンドン!


 しかし、僕の予想に反してドッペルゲンガーは足音強くリビングに向かってきた。一枚の扉を隔てたすぐ向こうに、奴はやって来た。

 僕は悟った。否、本当は分かっていたのだ。奴がこういう行動に出ることを。


 なぜなら……、いやよそう。どうせすぐに分かることだ。

 とにかく、僕は急速に縮まる5mに死を予感し、諦めの表情を顔に貼り付けて奴を出迎える事にした。


 ギギギとギロチンめいた音を立てて扉が開く。玄関と廊下とリビングが一体になった瞬間、僕は最後の悪足掻きを試みた。


 「おかえりなさい、私は以前助けてもらったツルです」

















 「泥棒だあああああぁぁぁぁ!!!」



 僕は(社会的に)死んだ。

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