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ノンフィクション

その高校は私服高校だった。

自由な校風に惹かれすぐに決めた。


中学時代と違いいじめもなかった……と思う。俺的には楽しい高校生活だった。


……俺的には。




その高校には文芸部がない代わりにシナリオライター同好会なるものがあった。

中学時代から詩やら書いていた俺は、物が書ける似たような部活に入った。


人は見た目で人生がほぼ決まる。

そんなことないって?

それはうまくいった奴が言えることだ。


男5人のシナリオライター同好会は、所謂オタクの巣窟のような風体であった。

2年生の部長1人と、俺を含めた新入生4人。3年生はどうしたのか、今となってはわからない。


2年生の筈の部長の風貌は、旧世代のオタクといっても差し支えなかった。それはもう漫画に出てくるような。


小太りの決して高くない身長。真ん中分けの髪に厚底の眼鏡。

何よりまずかったのは服装だ。チェックのシャツとジーパン。流石にシャツインはしていなかったが。

私服校じゃなければここまでオタクを体現したような服装にならずに済んだだろう。でも本人は好きで着ていたのだから大きなお世話だ。


見た目がいまいちでも服装さえ清潔ならまだこの世界で生きていける

俺はこの高校で学んだ。

だが1年生のときは色々はき違えており、龍のプリントされたパーカーやだぼだぼなズボンを履いて登校していた俺が言える台詞は何もない。


とにかく新入生の俺は、この部長を大変下に見ていた。


「あーはい。」

「そーじゃないっすかー?」

「興味ないっすねー。」



……社会人になった今思う。いや、大学時代から気付いていた。俺、最低だ。


俺は、この部長とは違う。

変なプライドでひどい態度を取っていた。


極めつけはこの原稿を渡す時だ。


部長は、俺の教室に原稿を取りに来てくれた。

別に友達でない女共が、部長を見てくすくす笑っていた。そう言えば体育祭の徒競走で、部長が走ったときも誰かが笑っていた。俺は見ていられなかった。

きっと笑っていた奴らはこの女共みたいな奴だったんだろう。

仕方ないだろ体育祭なんだ。全員参加なんだ。俺だって出たくなんかない。

笑うな。人の真剣な姿を笑うな。


と、今なら思うさ。


でも当時の俺は、

部長と一緒に見られたくなくてひどい言葉をかけた。


「あー、わざわざうちの教室に来なくてもよかったのに。別に俺から届けに行きますよ。」


と満面の営業スマイル。



最低だ。俺は最低だ。


こんな汚い字の原稿を、部長はパソコンで入力し冊子体にしてくれたんだ。


今思えば、同好会の奴らも俺に対して白い目で見てた気がする。

部室での態度もよくなかったんだろう。





「部長……本当に本当に申し訳ありませんでした」



ーーえっ、どうしたの一体。


うりぼうは、さっき床に倒れ込んだ俺が今度は突然謝り始めたので面食らったようだ。


「こっちの話だ。っていうか……まさか黒歴史って、小説だけじゃないのか?」


ーーいや? 聞いたことないけど…というより小説じゃない黒歴史って?


「フィクションじゃないノンフィクション! 実際に俺がやっちまってるやつ!」


ーー一応うちの図書館は創作物しかないよ。人間が行った言動なら管理は人財部になるけど……。


「人財部?」


ーーそうそう。最近、人事課と給与厚生課が統合されて人財部って名前になったんだ。


うりぼうが大きな鼻をふんふん鳴らす。


ーーやっぱホワイトカラーっていうかエリートって感じ。現場を知らないっていうかさ。


どこも色々ありそうだ。

ちなみにうちの職場の人事課は、陰で訓読みをされている。ひとごと(他人事)か、と。


ーーギャッ


突然、ベランダを見ていたうりぼうが声をあげた。


ーーね、猫が……手すりを歩いている。


あっ確かに、カメラが欲しいな。大きな桜の木をバックに1枚撮りたい。


「猫可愛いじゃん」


俺はそう言いながら、ポケットからスマホを取り出す。


「高校の時も飼ってただろ? ほしっていう」


今回の引っ越しの理由の一つは、冬にその猫が死んだからだ。

社会人になったときに、まあ色々理由があって実家から連れてきた。御歳20歳の大往生だった。


ーーほしのお陰で猫が苦手になったんだよ。何で家のベランダに猫が来るんだよ?


うむ、なかなかいい写真が撮れたぞ。

俺は愛想よくしてくれた猫に、御礼の意味で手をふる。なかなか馴れた猫だ。


「お墓のそばって猫が集まるよなー。安いし、(お墓が南にあるから)見張らしもいいし、猫が集まるしむっちゃいい物件だぞ」


ーーお墓?! 嫌だよ、怖いじゃん。何か出てくるとかないの?!


いや、今まさに目の前で喋っているうりぼう(ガラケー)が出てきてるけど。


というか、悪魔に九十九神がいるんだから幽霊がいてもおかしくないよな。ま、俺は見えなければ気にしない人。

事故物件みたいに、明らかに恨みがあるとかだとちょっと嫌だけどね。


「俺的には猫より俺の過去の方がよっぽどしんどい」


ーーえっなんで? その時その時で自分の中でベストだと思っていたから行動したんでしょ?


「後から思い出したら失敗だと思うことだってあるわ」


ーー過ぎたことを悔やむのって時間の無駄じゃない?先に進む方が建設的だよ。


ぐぅ。正論過ぎてやはり腹が立つ。


ーーだいたい、さっきの小説だって何でそんなに嫌がっているのかやっぱりわからないよ。


こいつ、最近の流行りとか知ってるくせに常識とかはないのか?

自分で解説しなければいけないのか?

拷問だ。俺が何したっていうんだ。


わかった。さっきまでの部分でどれだけ突っ込みどころが多いかみっちり教えてやる。


鉄の乙女に入っていく気分だな……。



裏タイトル

ノンフィクションは間違っているだろうか

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