『月に嗤う』4
「バカっ! ぼさっとしてんな、近いぞ!」
耳元で士度の声がした。
ハッと我に帰る。
(そうだ。もう五月母さんはいないんだ)
真理は一瞬顔を曇らせたがすぐに引き締める。
「今どこだ?」
「100m弱」
用件のみの会話だがこれで充分だ。この4人は小学校からの付き合いである。
「準備は」
「OK。力使う準備しとけ」
5、4、3、2、1、
ヒュッ
士度と真理は走り出す。枝から枝へと跳び移る。
パンッ、パンッ
背後で小さな爆発音がいくつか起こった。
士度は走りながら口笛を吹く。
「シュー。いきなり力使ってくるかよ。爆発能力か……」
「チッ、私らまだ15歳だぜ。殺す気かよ。あと士度、また口笛吹けてねーよ」
「うるせーよ。野性星同士の殺しあいは罪にならねーからな。何人だ?」
「あーっと…4、5、6…人か」
真理が振り返りもせずに答える。
「政樹らが言ってた強い奴ってのも2、3人混じってんだよなぁ。」
士度が面倒臭そうに言う。
その途端、目の前に人影が2つ現れた。
真理はニヤリとしながらスピードを落とさず、前の2人に向かっていく。
「お兄さん達、弱いくせに私の前に立たないでね」
目の前の気配が膨らんだ。
力を使う前の特徴だ。
だが真理はそれより早く2人の後ろに回り込んでいた。振り向く間を与えず、真理の鉛入りの靴が首と鳩尾に入る。蹴られた勢いのまま2人は落下していった。
士度の方を見れば、彼の立つ木の根本にも2人転がっている。
「っつーことは」
「残り2人か……おいっ!」
士度が突然真理の方を見た。
「封呪陣だ、くそっ」
真理が回りを見ると、真理達を囲むように無数の文字が揺らめいていた。
その文字を瞬時に解読した真理がひきつった声で叫んだ。
「時間異動能力者か!」
「俺はこの陣を壊してみる! お前はこれを作ってる奴を頼む!」
「どっちが作ってんのかわかんねーよ!」
と言いながらも士度と共に力をため始める。
「火柱!」「水矢!」
2人の声が重なった。
ギャーッ…
人の悲鳴が聞こえた。しかし陣は消えない。士度の水の矢も弾かれていた。
「……外した」
1人倒しきれなかった。自ずと、残った方が陣の構成者ということになる。
士度と真理を囲んでいる文字の光がいっせいに膨れ上がった。青白い光に飲み込まれながら、2人は腹を括った。
「ま、ジタバタしてももう間に合わないわな。政樹達が能力者を倒したら帰れるだろ」
「あぁっ……時間が勿体ない。あいつらに任せるのかよ。一週間位かかるんじゃねーの?」
「伊沢が帰り次第カタつくだろ。ま、ここはひとまず……」
2人はぼやけかけていく視界に佇む人影に向かって声を揃えた。
「「てめーに地獄みせてやる!」」
その一言と共に青白い光に包まれた2人は姿を消した。
青白い光も分散され、後にはただ月明かりに照らされた森だけが残った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい、終点だぞ」
士度がどんどん近付いてくる時空の穴を指差した。
「あぁ……、何時代に飛ばされるんだろうなぁ。縄文時代は嫌だ。言葉通じないだろうし」
穴が引力を持っているかのよう2人を引き寄せる。
スポッ
2人は穴の外へ放り出された。
辺りを見回してとりあえず互いの存在を確認する。
「こっちも夜みたいだな」
「……ってか……江戸時代か? 時代劇そっくり」
「あぁ、修学旅行で行った日○江戸村…」
きてちょんまげ。
などと呟きながら2人は立ち上がった。
夜の寝静まった町を歩き始める。
どこかで番犬が鳴いている。
このような時間を丑三つ時とでもいうのだろうか。
ふいに士度が立ち止まった。
顔が険しい。
「ん、どうし……」
真理の言葉が止まった。
…嗅ぎ覚えのある臭い。
錆びた鉄の…
ーー血の臭い。
2人は顔を見合わせると、臭いの方向へ駆け出した。