『月に嗤う』3
『日光寮』
何らかの事情で親が育児を行うことが難しい子供達が集まる場。いつの頃からかこの寮は、真理や士度達のような人とは違った力を持つ子供達のための寮になっていた。
しかしこれは非公式だ。
このような力を持つ者を国が正式に保護するということは法律で定められている。力を持つ子供達は国により一つの施設に集められる。そこでエリートとしての教育が行われるというわけだ。
今の日本を動かしているのは、その施設でしっかりと教育を受けた者達だ。
施設には幼稚園から大学まで揃っており、一つの町と化しているらしい。しかしそこにいるのは教職員も含めせいぜい500人程度。いくら特殊な力とは言えそれでは少ない。つまり、国に登録されていない者がまだいるのだ。彼らのことを『野生星』と呼ぶ。
野生星の数は1000とも10000とも言われている。しかしどんな噂にも共通するのは、彼らにはいくつかのグループがあるということだ。大体10~30人が集まり一つのグループとなっているらしい。
つまり『日光寮』の者達も一つのグループだったということだ。
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日光寮
そこにいたのは、仲間であり家族だった。
国に認められた者(野生星は彼らを学園星と呼ぶ)とは違い、正式な「力」に対する教育を受けていない。
彼らは公立の学校に普通の者として通い、独自に「力」に対するルールを作っていた。
そこにいたのは家族以上の存在だった。
小学生が6人、中学生が5人、高校生が4人。そして彼らを育ててくれていた、「力」を持たない五月母さん。
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政樹と竜侍が中学生になり、初めての夏休みを迎えた日の事だった。
士度と真理は2年目の夏を、伊沢は中学生活最後の夏を、それぞれ部活に費やしていた。
空が赤から紺に染まり始める頃。5人は皆で帰路に着く。
喧しい程に蝉が鳴いていた。
初めての夏休み、丸一日部活で終わった満ち足りた徒労感で政樹も竜侍もアイスを咥えながら軽口を叩きあっている。
後ろから、伊沢、真理、士度が部活鞄を抱えながら夕飯の話をしている。
日光寮の門の前に着く。
いつもの通り。
……だが何か違う。
いつも門外まで聞こえている小学生の声がしない。
それを叱る五月母さんの声もしない。
夜が近付き蝉の声がおさまってきている。
それと調和するかのように、寮からは不気味な静けさが漂ってきていた。
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