私事ですが本日引っ越しました。
私事ですがこの度引っ越しました。
23区で職場の近く。見晴らしの良い2階で南向き、角部屋でないのは残念だが家賃は前より1割安い。一人暮らしで2Kの広さ。破格だ。
午前中の引っ越しは安いと言われ、怒涛のように引っ越しが終わった。
まだ午後になりたての春のよき日。ベランダから見える満開を少し過ぎた桜は、命短し我生を全うせり、とでも言わんばかりに風に吹かれて吹雪のようだ。
「綺麗だなー」
部屋の中から外を眺め独り言つ。
隣の部屋にはまだ片付けきれていない段ボールの山。外には青空と桜吹雪。窓からは気持ちのいい風が入ってくる。
とりあえずベランダに出て、手すりにもたれながら眼下に広がるお墓を見下ろす。
「桜って綺麗だなー」
ーーおーい
「日本人はやはり桜だよな。散る姿が美しい。いやでも、実家の近くに天満宮があったから梅も好きなんだよな」
ーーもしもーし
「梅は食べられるってのもポイント高いね。梅干しは甘くないやつが好きだなぁ。母さんが作ったあのしょっぱくてすっぱいやつ」
ーーあのー
「また母さんにLINEして送ってもらおうかな」
ーー音読するぞー
「…さ、桜って綺麗だなー」
ーー『ーー江戸時代ーー
寺の境内で小さい子供が数人遊んでいる。
賽銭箱の上に座った十代半ばと、、、
』
「やめろおおおおお」
俺は、ベランダから居間に転がり込んだ。部屋の真ん中の座卓の上に置かれたガラケーを掴みとる。いや、最早これをガラケーと呼んでいいのだろうか。少なくとも俺が知っているガラケーは喋らなかった筈だ。AI機能?いやいやいやいや。
俺の手にすっぽり収まるこのサイズ。高校時代にずっと使っていたからか、久しぶりのガラケーの筈なのに手に馴染む。引っ越しの際に実家から送られてきた荷物の中に入っていた。
俺は恨めしげに隣の部屋の段ボールを睨んだ。
姉さんが結婚して旦那さんと俺の実家に住むからって、俺の部屋の荷物を全部送ってきやがった。いやそりゃそうだよ?マスオさん状態とはいえ、部屋がないわけにはいかない。俺の部屋が潰されるのも仕方ない。これは八つ当たり、八つ当たりなんだ。
次の部屋が2Kあるとか言ったもんだから、俺の部屋にある物を全部送ってくるのも納得できる。
だからこれは八つ当たりなんだ。
俺は、手の中でカパカパいっているガラケーに向き直った。