ラスボスみてぇなやつはどうすればいんだ
一見風にも倒れてしまいそうな一反木綿のような揺らめきが、渦を巻いて花開き玉ねぎのような形に降り、その中からモノクロの繭に包まれた種が芽吹く。
『雲幽』
まるでゲームのように名前が下から上へとスクロールして消えていく。
種から伸ばす体はサナギから孵化するように枝状の翼を開く。合計6つの翼に人型の異形。
【両手剣:ネームドってマジか。こいつは干渉してくるっ!!ちったァ足動かせ!!】
6翼の枝葉が成長する。初めにやってきた枝に両手剣を叩きつけるが、引っかかるように衝撃は吸収され両手剣ごと体を押しのけられる。
体を滑らせながら受け身を取り顔を拭った手の甲に血がついている。見れば枝に引っかかれた所から血止まらず少しずつ流れている。
【旅装束:気をつけい。干渉出来るということはコチラも手段によって干渉出来るということた。『想剣』を取り出すのだ。】
【fumble:『想剣』の発動に失敗】
「だぁあらぁぁああ!?!ヒントくれよ!!ヒント!!こいつ的確に狙ってきやがるんだけど!?」
「教えれば使えるの?」
俺の後ろに誰かがいる。そしてなんか臭い。
「誰だテメェ!!いつから並走してやがった!?ってか生臭!?え!?誰だよ!?なんで!?」
「……貴方をクローゼットに入れたのは間違いだったようね。レディの扱い方がなってないわ。」
「通り過ぎたときワニの口内の臭いしているようなレディ(笑)は淑女とは言わない。」
「ソレは私だって気にしてるの!待って!?今なんでワニってピンポイントなの!知っていることはキリキリ吐け!」
「HAHAHAこの女、凶暴につき。いや血が止まんねぇなこれ。これじゃあ落ちちまうよ。」
【両手剣:逃げ道進路速報!このまま行くと避難中の集団にぶつかんぞ!】
「いい?足を踏み外すときその時付いた泥は落ちないの。どれだけ拭こうとも浸透してこびりつく。1度流れた水は全て掬いとるなんて出来ないし、一息ついた空気の1部にさっきまで自分の中に篭ってた空気が霧散してく。
世界に混じり合う覚悟は出来てる?」
「混じり合うってのが何意味してるか分かんねぇが俺は今日もこれからもレールなぞぶっ壊して後悔しねぇで生きる!!」
【Accepted:『想剣』の発動に成功】
【『想剣・破砕の剣』】
【Connected】
両手剣の形状が変化する。刃は歯に、見た目の質量は増加し、まるで獣の大牙を彷彿とさせる。
踵を返し、振り下ろした衝撃を枝葉の塊は耐えきることが出来ずに自壊していく。
そのまま剣を地面を引きずるようにして中心へと向かう。
人型は繭の種から栄養を取り出すようにして困惑している。体に何かしらの不具合が生じているらしい。逃すな!
「道をひらけ!!破砕の剣ィ!!」
踏み込み繭ごとぶち上げる。
やったか!?
今のでつっかえが取れたらしい繭が砕け散る。そしてどうやってそこまで詰まっていたのかと言わんばかりに膨らみ、枝より、茎より、根のその先、塊根が脈立っている。
今まさに森を相手取っている。
神木の龍がいたなら雲のように広がる目の前の巨体に挑むようなモノだろう。
「手助けしたようなもんだけどよ!?目の前に弱点ぶら下げてるもんなのに全然近づけねぇ!」
【旅装束:ならば儂の話を聞くかの?
昔は儂もやんちゃだった。それはもう七湖揺らしの尻賢者と呼ばれる程にな。七湖については後でな。
儂にとって三の湖がいる街ソルベーレイが初めての一目惚れだった。今はどんな名前だったか。あぁ、湖とはある魔物が契約しているところでな?
その時儂は酒に潰れていてな。理由は今は聞かないでくれ。その日お腹いっぱいに食べ、残金で毒は持つがとても美味であると呼ばれていたフングを食べようと歩いていたらな、
それは美しかった。今尚鮮明にあの感動を思い出せる。乳白色の鱗がの、貝殻見たく虹色に輝くのだ。水柱を上げ天に昇るあの輝きは天使が祝福しているかのようだった。
三の湖の魔物は水霊龍と皆に呼ばれていてな。ソルベーレイの守り人と呼ばれていた。
儂は酒の飲みすぎかと思うたが心の奥底でその光景が忘れんかった。まるで夢の中で見た女性に恋した気分だの。
だがしかし彼女は湖の奥底。湖はとても広く深い場所。探すには肺が持たなかった。
そこで儂は水中でも呼吸が出来るように努力したのだ。】
【__】への理解が深まる。
【__】との親和性を確認。
【__】の技能を一部開放。
『水運』の獲得を確認。
「いや今水関係ねぇだろ尻賢者!?この変態耄碌ジジイめ!?どうでもいい暗い過去なんて要らねぇ!!」
【旅装束:『水運』を舐めるでない。水とはすなわち万物の基本、大気中に満ち、生命の調停である。大いなる力は必ず理由があるのだ】
「堂々としていますが貴方がセクハラしていたと解釈しても?」
【旅装束:癒し手のお嬢さんに介錯して貰えるなんて、お世話されるのは楽しみだの!】
【両手剣:じいさん……首に注意しとけよ?】
「現状全く改善されてない件についてはどう思われますか!?破斬剣!」
『破砕の剣』を色んな種類に変わる剣みたいに扱いたい。どっかの漫画に似たものがあった気がする。
【両手剣:避難民と遭遇!3秒前!!】
少しぐれぇ心のケアさせてぇくれぇ!!
──きゃゃゃやぁぁぁあ!!──
幼女の声!?今行く!!
【両手剣:審議中】
【旅装束:審議中】
俺はただこの子の笑顔を守りたいだけだ!!
【Accepted:『水運』の発動に成功】
【『水運・螺旋槍』】
【Connected】
剣を槍に見立て滑るように伸びる枝葉を粉砕する。行ける。これなら密集した群生層を超えることが出来る。
俺は振り返り少女の身の安全を確認する。
「お兄ちゃんの……バカ……」
「はいはいギルティ警察が通りますよ〜おい少年何をした!!吐け!!今ならあの化け物と共倒れで許してやる!!」
この女……まだワニの生臭さがとれてねぇのかよ。俺の手は自然と鼻をつまんでしまう。目の前のクローゼットぶち込み女が何か喚いているがさておき、
……俺は今、悲しい。
何を水運操作したかなんて涙に決まってるじゃねぇか。
【両手剣:……後で磨けよ?】
「黙れ!!破砕の剣!!」
ギザギザをスパイクのように地面に噛み合わせ推進力に!
地面を滑りそのまま
「螺旋槍だ!おらぁぁぁああ!!」
塊根を貫く。モノクロが破片へと散り霧散する。
なんだこの呆気なさは。
待ちに待ったラスボス戦が実は前座のはずだったみたいなこの気持ちはどうしたらいいんだ。
教えてくれぇクローゼット女!
「……お姉ちゃんは臭いからヤダ!」
ダメみたいですね。
ラスボスがいた。
エラ呼吸ジジイ助けろ。