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Alive Applicants  作者: 澱味 佑尭
プロローグ
5/28

5話:度重なるリアル

木の枝を下りながら村の様子を眺める。祭りでもやっているのか、鬼灯のような提灯が屋台から垂れ下がっており、人が行き交う雑踏を子供が隙間を縫うようにかけていく。


蜂蜜のようにどろりと溶けた液体から作られる、金色に輝く糸を束ねたような黄金綿あめ。


漆色の木製のコップの中で透明の液体に浸かるキラリと光る硝子玉。その硝子玉の中には琥珀に閉じ込められた昆虫のように何かの生物が描かれている。


圧力をかけた後、木箱から蒸気を放出し、木箱の中から現れる蟹の身のようにぷりぷりとした弾力性に富んだ、エビのような甲殻類を蒸し焼きにした食べ物。


見たことがありそうなもの、無いもの、それらをひっくるめて見ても賑やかさが悩み事を忘れてくれるかのように心躍る。


足を滑らせる。


光がささない暗い小道。体を打つように落ちたと思ったが特に何もない。頭に被せた仮面は大丈夫なようだ。


物音


すぐそこの小道の奥から聞こえる人の賑わいが遠く感じ始める。同じ空を眺めているはずなのに遠い。何もないところへしきりに目を泳がせてしまう。歩行者の影が異国の見知らぬ人に思えてしまう。仮面に手をかける。


白い光で縁取られた生き物が壁を這っていた。


その光は洞窟で彼らに『精霊』と言われていた蠢き。2次元的姿は壁画のようで、民族のようなシルエットは太古の雰囲気を醸している。白い光が目の前で踊っている。


好奇心が抑えきれないように、敵意など全く感じさせないようで、愛想の良さそうな印象で、恐る恐る光が近づいてくる。


自分の好奇心が打ち勝ち、その光に手で触れようとした時、


光が一段と強く弾け手に感じる痛み、


認識出来ないはずの地面に引きずり込まれそうになる感覚。


踏ん張りが利かず体ごと家の壁を流される。


腕先からの鈍痛に負けじと反対側の手で両手剣を出し、地面に引っ掛けるように耐える。


それでも突き立てた剣ごと引っ張られ、剣より腕がもたない感覚。


強光から回復した僅かな視界から見えた鈍痛の原因。


白い幾何学模様が目の前で蠢き、


流動する模様は見慣れた漢字を嫌に変形させた文字郡で、


魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命、死、魂、命……


突き立てた剣を引っ張り上げ加速する体、腕先の虚空を切るように体を捻る。解放された腕から伝わる本当の痛みを振り切り、走ろうとするが、


もう一度咀嚼するように先ほどと同じ場所、今度は剣を振れないようにもう片側も噛まれる感覚。急かすように引っ張り上げようとする力に対して、この白い光に引きずり込まれてはいけないという脳信号が加速する。


目の前の小道の先で影が動く。


なぜか腕の痛みが和らぎ、その瞬間に影の方向へ転がり込む。


「おねぇちゃ!……ちがう……あなたはだれ?」


子供特有のハイトーンボイスが聞こえる。聞こえてしまった。


この子供も俺のように暗闇へ引きずり込まれてしまうのだろうか。それはダメだ。俺が逃げてどうすんだ。どうするかは二の次だ。ああ!


首元から込み上げる衝動を行動に打つように、調子の整わない呼吸を荒らげ、覚束無い腕を剣に当て振り返る。


しかし何もいなかった。暗闇で存在感を主張していた光群は跡形もなく霧散していて、自分の呼吸が耳によく聞こえるだけだった。


「あの……だいじょうぶ……ですか?」


声のした方向へ跳ねるように体を向ける。自然と手は剣を構えていて、及び腰で力の入らない腕を向ける。


一見普通の子供。この村の子供。祭りを楽しんだのだろうか。仮面をつけている。先ほどよく目にしたプラチナブロンドの髪。服装も祭り用の服だろうか。特に危険なものは持っていないように見えるが……


「……こわがらないでください。私は子供であなたより力はないのです。わたしはあなたが経験したことはわかりません。ですが、わたしにだっていまのあなたの気持ちはわかります。まずはそのケガをなおしましょう。めだたないようにコチラを通りますが……手、つなぎますよ」


ただその手が一条の光に見えた。縋るように手を伸ばして、ゲームでは感じない先ほどの痛みを思い出して躊躇い、手を掴まれる。


未だに抜けない暗闇の中、これからの自分の身の処し方も分からずに、頼りにしてしまう彼女の方が年上に思えた。


迷路のような街路樹を抜け、教会のような場所へ辿り着く。木製の扉が歴史的な厳かな音を立てて閉まり、聖堂のような広場で待たされる。


どこから取り出したか分からない救急箱を取り出し、腕、と言われるがままに差し出す。


「……あの、その仮面、エイリスおねぇちゃんの仮面ですよね?どうしてあなたが持っているんですか?」


それは……勝手に取ってきてしまったからだけど……


「今日、姿を見せてないの。いつもは宮殿を抜け出してその仮面を着けて挨拶してこの孤児院の台風の目みたいな人なんだけどね。昨日も疲れ知らずだったのと、その仮面についてる三本線はわたしたちが付けたの。接点があると思って……」


近くにいた他の見物人が顔を出す。


「エイリスねぇちゃんはな、すげぇんだぜ!」

「ちゃんねぇはねぇ、面倒見がいいんだよ」

「ねぇちゃんは仕事してるときの作った笑顔よりここにいるときの笑顔がいいんだよね」

「俺たち一緒に行こうって待ってんだ!」

「ねぇちゃんのこと何か知ってる?」


静かな空間に声が響く。傷口がしみる。興味を無くした子供達が何人か離れていく。


「……どうしてあなたは先ほどあのように慌てていたのですか?」


「白い光が襲ってきた。洞窟にもいた白い光が。見える人と見えない人がいる。あの会話からしてそのうち誰もが見えるのかもしれない。『精霊』?」


突然、慄くように気まずそうに目を泳がせた。


「……『精霊』様に食べられそうになったの?」

「ニイちゃん、冗談は止めてくれよ」


自分の思っていた反応と異なる。空気が冷えた。


「……『精霊』様に襲われたのですか。すみません。お連れしたはわたしですが、すぐにここから立ち退きをお願いします。死に近すぎる人は未来へ向かうこの孤児院にはおけません。あなたの死の香りが移り、『精霊』様の勘違いで地に返されては、私たち孤児院に住むみんなの将来が絶たれてしまいますので、申し訳ございませんが出てください」


突如として変わる態度は化け物を見るようにとても冷めていて、大きな壁を感じる。


「最後に、あなたの死の香りがおねぇちゃんの死ではないことを信じさせて下さいね。あなたの未来に大地の恵が廻りますように。さようなら。」


扉が閉じられる。


『精霊』が感じとる死とはなんだろうか。リスポーンならすでに何度か経験しているけど……


あとは、この街は『精霊』を様呼びしてるほど信仰が行われているのだろう。異文化ってこんなに孤独を感じるものなのだろうか。


行く宛てがとうとうなくなり、1人ぼっちというのが自発的に思われる。聞こえてくるのは、祭りで溢れる奇声と悲鳴……?


ドンッと土煙を上げ、上から種子のような丸い球体が落ちてきた。クレーターを作るように地面に嵌る球体は真ん中から2つに割れそうで……


ピチッと罅が入るように隙間が空く、その隙間の間から覗く無数の触手。その繊毛は落ちてきた葉を食べるようにして取り込む。


「……なんだこれ。」


その言葉を無視するように、明らかに対象を溶かすような繊毛を紡ぎねじり、四足の蜘蛛のような姿になる。その異形が向かう先は、孤児院。


「……っ!待てよ!待て!」


扉を破壊して入っていく後ろ姿を追いかける。


すでに悲鳴は上がっている。

この街の成り立ち(簡易)

・巨木生える

・果実うまい

・みんなで住もう

・巨木様あざーす

・巨木には精霊が住んでるんやー

・祈る

・果実うまい(例年通りだけど)

〜それからすごい後〜

・祈る

・不作

・なぜ?

・「祝喰」発見

・なんかいろいろあった

・現在

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