3話:あ、どうもはじめまして
ズルズルと引かれ擦られ引き摺られ、この体勢が1番楽とだと思えるぐらいには景色下から上へ過ぎ去ったものだ。目の前に「スキップ」という文字がエビ反りの小躍りするぐらいには耐えてみたが、何も始まらない。
「……見られても構わん」
「わかりましたっと」
大地がめくれる。何の変哲もない両木から生えた根っこが大地ごと持ち上げる。天高く生えた2つの木の間で、パラパラと土と砂がこぼれているが、あまり気にすることでもないように進んでいく。
俺も含め3人と戦利品が中に収まった瞬間、真っ暗になる。しかし頭から感じる擦れ具合から、この暗闇の中真っ直ぐどこかに向かっているのがわかる。正直自分の頭を疑う。
そして自分も目が慣れ始めたか、と思ったがそうではないらしい。この洞窟の中で蛍のように淡く光っている部分が所々ある。その中で琥珀に入った虫のように蠢くナニか。洞窟に響く足音に反応して脈立つように回る。
「……精霊どもが騒がしい。」
「私はまだ見えないんですがねチーフ、ですがソレって大丈夫なんすかね。この変態動物連れてきて良かったんですかね。悪いモノ、連れてきてませんかね。これ。」
「このようなさざめきは思い出す。春眠姫様が眠りに入った時のことを。しかして天啓樹に実りが溢れたが次第に不作になりがちになり、供物として他の生命力を捧げるが……森の生命が消耗されていく。」
「私たちは知らなんだがあの方ぁ、ホントに本物ですかい。当時におけるご任命の際、他の候補者が次々と消息を絶ったって話じぁないですか。きな臭いってのが村中噂ですよ。」
「……ライ、あの方は天啓樹に受け入れられた。天啓樹が選んだのだ。我らの考えなど到底及ばん。納得するしかあるまい。それに加え今日は祭事でもあるのだからな。」
「それでこの作戦ですがねチーフ、当の本人は何も知らされていないってのは本当なんですかい?それとこの作戦、場合によっては……」
「もちろん戦争になるだろう。我らが生き……」
だがそんなことより、あの光の正体の方が気になる。中でも一際(個人的)に輝いて見える溢れんばかりの魂動がこちらを追うように近づいて来るのが気になる。
「……出るぞ」
日差しのような眩しさが目を刺す。突然切り替わった視界の中で、その村の様子がありありと浮かび上がってくる。
苔がびっしりと生えた樹木の街路樹、全体的に中心にむかって窪地となり、その中心には洒落にならないほど大きな切り株が残っている。
その切り株の根が放射上に拡がり、その根の中で明かりが灯る。切り株に近づくほどその灯りは少ないが。
何故か、民族衣装を纏った子供たちが顔をじっと見つめてきている。そんなにワクワクした顔で見られても何もでないんですよね!その虚ろな目をした仮面俺にもくれよ!
と、そんな調子で見世物のように集まって来ていた人々が立ち止まり、根の中に入る。見た目は継ぎ目のないログハウスみたいな建物。どことなく監獄のように思われる。
そして小部屋に放り出される。
「……あとどれ位で?」
「樹枝の揺れが3程」
「外套は此方に」
「ワニの口内整備は」
「樹脂のしたたりが約12滴」
「後は代わりとするコイツを眠らせるだけだの」
「では離れますよっと」
枝葉を纏めたものに着火される。煙が立ち上り部屋の中に煙が回り始める。白い煙が上からだんだんと下がってきている。
彼らの足音が遠ざかる。考えようによってはこれはリアル脱出ゲームに近いものだろう。こういうのはどこかに脆くなってる所って、木目がねぇ!
唯一あるのは天井近くの空気窓。ジャンプしても届きそうにねぇ!だがしかし、しかしだ。今の俺は滑るのだ!滑る技術を体得したのだ!ゴリ!部屋に凹凸がなく、少しの緩やかな傾斜があるのならば、俺はこの部屋の中をスケボーすることができるだろう!
【両手剣:アホだな】
【旅装束:アホだの】
芋虫状態から跳ねる!その後に加わる位置エネルギーは摩擦度係数を無視してボンレスハムを転がす!
そして直後に重心を移動させもう一度跳ねる!度重なる跳ね上がりが室内の煙をさらに循環させるが、お構い無しに縦横無尽に室内を転がる!ソレはまさに金網バイクのように中心に渦を産み煙は中央に!
そして無理矢理重心を移動させようとした体に悲劇!空気窓の側面に体を打ち付け!上空に吸い込まれるように射出!
「……っぅふっぐ、こんなぁはずでばあああああぁぁぁぁぁ……」
壁に圧迫された肺が精一杯息を吹き返そうとして、空に恐怖心を押し出すように情けない白い飛行機雲が軌跡を描く。
「こんなはずじゃなかったのにぃぃぃぃ!」
周辺より高い景色が見える窓、カーテンがヒラヒラと揺らす澄んだ冷たい夜風の落ち着きに比べ、幸薄そうなどんよりとした空気が立ち込めている。
その髪の毛は1度染めたのだろうか、金色が抜けてきており、薄い桜色が見え隠れしている。通常、土木族は髪の毛が金髪、緑色なのだが、彼女は瞳が深い藍色である。
「どうして……こんなに普通の人と同じようにして候補から外れようとして……その過程で妥協もしなかったのに……」
背もたれのあるイスにもたれかかり、何もしなければ美人であろう残念が頭を逆さにして脱力感の逆さ火山を表している。
「自己アピールを全然しなかったら他の人より我が強くなくてイイとか……他の人に譲る態度が謙遜的だとか……」
娯楽設備が排除された寒村とした部屋の中で良心だと思っていた苗木を引っ張る。苗木は嫌がる素振りをみせ、植木鉢の中から黄色に光る両目を土から覗かせ、ジト目で彼女を眺める。
「暇だと思って気を紛らわせるために一室に置いてあった種を育てたら変なの生えたし……おて!おすわり!待て!太陽光せっ『ドゴンッ!』……撃て!」
「あばばばばばばばばばば」
植木鉢の住人が今までに溜め込んだ光の粒子が放出され、窓から転がりこんできた不審者を焼く。包まれていた縄ごと照射され、プシュ〜と白い蒸気の中から男が現れる。
「えっ!ちょっと誰!?ごめん、そしてどうしよ!?ってここ外から入れないような高さあるよね!?やっぱり不審者ならOK?いやいや」
【旅装束:わし耐える。わし耐える。わし耐える。わし耐える。わし耐える。わし耐え。わし耐え。わし耐え。わし耐え。わし耐え。わし絶え。】
【両手剣:じぃさん!繊維まで無事だ!だから落ち着け!】
「えっ!?何!誰!どこに!?どこからともなくじいちゃんとおっさんの声が!?きもちわるい!?」
【両手剣:……おっさんって……おっさんかぁ】
【旅装束:お、落ち着け両手剣。まだじいさんではない!】
「苗木……撃て!」
【旅装束:ゑ?ばばばばばばばば】
「あばばばばばばばばばば」
【両手剣:すんません!おっちゃんでおなしゃす!】
「なんで!?声がめっちゃ元気なんだけど!?悲鳴和音の三重奏なんですけど!?」
『ゴンゴンゴン!』
「エイリス様ご無事でしょうか!」
「待って下さい!あ〜……と、よし、すいません!身支度しますので!これでOK……え、なんかこの人焦げ臭っ……土と炭化した葉っぱにまみれてる……あんま触りたくないな……苗木!」
ニュ。持ち上げ。クローゼットにスパコン!
見た感じは大丈夫。外から金属音が擦れるような音が静かに数音重なる。保険として苗木の照射準備はし、扉近くから声をかける。
「お待たせしてしまいすみません。ですがあの、このような夜分遅くにどのようなご要件でしょうか。」
「こちらこそこのような時刻に申し訳ございません。貴方様のお部屋に向かって監獄塔から白い煙が登っていたので、至急急ぎ貴方様に危険がないかを確認しに参りました。大丈夫でしょうか。」
「大丈夫です。階段を登ること大変苦労したでしょう。毎日のお勤めご苦労様です。」
大丈夫なわけ!平常心返して!私今なんてった!?
【旅装束:褒められると照れるの】
っひゃ!れれ!
【両手剣:今、貴方の後ろにいるの】
「それでは我々は付近の警備に回ります。おやすみなさい。」
待って!やっぱり入って!このヘタレ!
無常にも、鎧の擦れる音が遠ざかっていく。
ゆっくり、ゆっくりと後ろを振り返る。しかし誰もいない。あの後ろからかかってきた声の行方が不明。
クローゼットから物体焦げXを取り出し、その頭を床に放り出すように雑に手放す。すると突然、上空にスクリーンが浮かび上がる。
【旅装束:この者の世界における時間の流れで活動時間24以上、流石に脳みそが限界を迎えたようじゃの。気絶したまま寝とる。】
【両手剣:あ、どうもコイツの装備させてもらってます。旅装束と両手剣と申します。こんばんは〜】
「あ、ご丁寧にありがとうございます。私はエイリスと申しまっなんて言うと思いますか!?え!?なにこれ不思議悪魔的!?」
【両手剣:あのいけ好かねぇヤツと一緒にされたかねぇーな!】
【旅装束:すまんの、昔色々やったんじゃ、そんなことよりわしらのことが見えるんじゃ、その貝殻が反射する光の1つ、美しきピンク色、其方『癒し手』の末裔かの?】
「私はこの村で生まれ育っていますが『癒し手』という言葉は分かりませんよ?」
【旅装束:審議中】
【両手剣:審議中】
【旅装束:今の聞かなかったことには……】
「無理です!」
ちなみに主人公の現在のデパフ
【疲労】【興奮】【混乱】【筋肉痛】【火傷】【寝不足】【偏頭痛】【酔い】