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Alive Applicants  作者: 澱味 佑尭
ここから1章でええんか?
26/28

あなたの名前は?

「騙されたのよ!いいから早くっ!」


ちょっ!?待てよっ!?


︎︎引っ張られるままにふらつきながら自室から出る。服もヨレTシャツから着慣れた旅装束に戻っている。


長いと感じていた廊下をするりと抜け、そのまま参列者のいる広間でぐるりと見回して指を指す。


「ほらっアンタがさっきまで話してたのはあの子?そうね?まったく違う!アンタの中ではどう認識してるかわかんないけど、アンタみたいなやつに話しかけるような子じゃないからっ!手振ってるでしょ!ほらっ!別人でしょ!このまま走るっ!」


だんだんと遠のいていく別人だろって笑顔でこちらに手を振っているガキンチョども。その笑顔の矛先は本当に俺かね?そのまま説明を!


『 両手剣:応っ久々だな少年。先ずはお前『精霊』に食われたろ?下呂したあとみたいにスッキリしてんな?お前特有の何かで記録を整頓しただろ?まるまる全部お前の記憶。お前の魂の記録。』


「アンタにとって『精霊』は所謂ろ過装置。パソコンのウィルスバスターみたいにバスターはしないけど、アンタっていう壊れたデータから必要な情報を汲み出して整頓までしてくれてるって訳。」


おうおう、途中で野良精霊に触ろうとした時、叫んで止めるほどの了見を聞かせてもらおう。道中ちび精霊捕まえて、ジワジワと回復してもいいんじゃねぇの?


『 旅装束:ここに居るのに比べて型落ちしてしまうんじゃ。最悪の場合、欠落しやすい状態で復元されてしまうんだの。』


『 両手剣:というわけで、今の今までお前に必要な情報を与えていなかったのは、俺達の怠慢って訳じゃなくてな、お前の記憶領域が不足してるってこった。一応、伝えようと努力はしてたんだが、沈黙したように聞こえてたな?』


ここに来て俺氏、低性能ロボット説浮上。


さらに精霊の謎が深まるってんだ。食われれば1度意識が落ちる。寝落ち、とすれば睡眠による記憶整理を促すのか?寝ただけで覚えられる量が増えるのか?というかそもそも認識ができない時点でおかしいだろうよ。


「ここで1つ、アンタの名前は?」


あ?


「プレイヤー:ハヤト、おめでとう。アンタが持つ器としての容量が増台したことで、世界の認識力が1段階上がったわ。」


当たり前だろうに、俺の名前がハヤトであるのにどうして名前を聞くのか。


「だからって祝ってもいられない。ハヤトがハヤトであることを形作るのはハヤトだけのものじゃなくて、周りの認識から自己を形作るときだってある。認識力が高まったから影響を受け易くなったってところね。存在に誤った情報を埋め込むことで誤認識をさせる。」


『 両手剣:さっきのお前はな、今か今かと舌なめずりしていた襲撃者に騙くらかされて、お前の記憶をベロベロに舐められちまったんだ。ちょうど精霊も居たから簡単にな。』


「ハヤトが狙われたのは……これは他のプレイヤーにも当てはまることだけれど、認識することで特記事項を満たし、記憶として積み重ねることで認識できないはずの存在、神という概念すら認識できるようになるから、という説があるらしいの。彼ら彼女らはこの世界から抜け出すために認識を高めようとしているのかしらね。」


『 旅装束:波が重なると大きい振幅を示すように、自身の影響力を高め世界を己がモノに改変する。この世界に存在する記憶は相互接続しあい干渉して姿を形作る。記憶が固体として存在しておるのだ。』


よし!頭に全然入ってこねぇわ!


それに特記事項という、俺が他者に与える記憶が存在していることも怪しい。犯人がいたとして、今急ぐ理由も分からない。


『 旅装束:だがの?人がもつ影響力は手段が異なり、干渉する際の記憶を、改竄、消去、交換、複写など多数存在する。既にお主はお主と同胞の輩と相対して影響しあっておるのだ。』


『 両手剣:記憶齟齬って言葉だけなら簡単だがよ、ぶっちゃけ頭だけじゃ理解出来んわな。そこで、お嬢ちゃんが必要になるって訳さ。前にお前を繋ぎ手って言ったろ?言ったよな?嬢ちゃんは癒し手って役割が与えられてんのさ。』


「私の役割は、アンタとハヤトがどれだけ混ざってるか混ざってないか、その判断をしつつ状況に応じて休んだり行動に指針を出したりする。本当は今日休んだときに診る予定だったんだけどっ」


襲われてしまったと。


「急いでんのは、アンタから盗られたのがアンタが認識できない大事な記憶ってことよ!取り返さないと、これからハヤトが歪んでいくからっ。反応が戻ってくる。相手が来るっ。」


大通り、他人の目を忍ばす迷惑も顧みずぶつかりながら追いかけてきた。


眼前、通りの向こうから、この風土に似合わない格好の女が、長仗の先に振れるランタンを灯しながらやって来た。


「えぇっと、私の居る先へ真っ直ぐに近寄られると気持ち悪いというか、同じ臭いのする人にストーカーされるの嫌なんですよねぇ。平和的解決……できませんかねぇ?」


真っ直ぐに、ということはコイツが犯人か。


「ハヤト、真っ直ぐにって言ってる時点で、相手がアンタに仕込んだ何かがあるから気をつけて対処して。」


その一言大事よね。俺バカですし?でも馬鹿だからこれから気をつけることも分からない。


「アレ?用があるのではなく?それとも先ほどのお礼でも?廊下を気の抜けた顔で歩いてましたし、汚染されていない部屋で一時的に処置しましたが文句は受け取りませんよ、えぇ。」


……エイリスが見えていない?そもそも汚染ってなんの事だ?


『 両手剣:認識の次元が違うのさ。子供の時だけに見えるものが大人になると見えなくなるだろ?そういうもんさ。そして相手さんは認識しなくていいもんを認識してるから汚染とかって言うのさ。別に何聞いてもいいと思うぜ?』


「俺に何をした?」


「何って本棚の整理ですよ。散らかった本をシリーズごとに積み重ねただけですが何か?あなたにしたのはタダの善意でありまして、えぇ自分のための、駄賃に何冊か読ませて頂きましたとも。」


精霊を使った記憶整理の手段の違いってやつか?本当に違うのか。コイツだけで判断していいか迷う。そして自分の知らないことを知るとメリットがあるのか?


「あなたにはこの場所が、紫色の液体に汚染された荒廃した砂漠には見えていないのですよね?ハルトさん。」


「いいや、」


「否定しなくとも良いのです。ですが知らないことが良いことでもありませんし、これは私からのおすそ分けなのですよ。そろそろ記憶が馴染む頃ですよね?」


認識する世界が違う、それが解るとは思わなかった。


「想像してください。砂に染み込むような毒々しい大海を。魔の大海を生み出し続ける本性の魔物を。討伐されなかった、討伐することのできなかった、封印することしかできない魔物、その悪夢のような存在が生きる紫色の砂漠を。」


世界が粒子化しつつある。世界が再編成される。風が砂を巻き起こすように、砂塵が世界を霞めていく。この砂が、世界を現しているかのように。


「術を知らない無知でも、苦労を知らない無垢でも、これから学べばいいじゃないですか?私、言われたこと根に持つんですよ。あなたの本は薄い。空白も多すぎる。本として形をなしていないのですよ。あなただって欲望を叶えるためにこの世界に来たのでしょう?ハルトさん。」


しかし、世界に対する認識が甘く、景色は先ほどの光景に重なるように、他の砂漠が重なるような、通りの人達が幽霊のように半透明になる。


「もちろん初めましてですよね。お互いに知識を深め合う語らいをすることも良いのでしたが、あなたは忘れているのでしょう?だから目印として付箋を貼っておきました。再び読み始めた時、どれだけ記載されているのか楽しみにするつもりなのですよ、記憶喪失くん?」


それでは、と言って霧に紛れるように消える。景色は元に戻り、通りの人間は普段と同じように過ごしているようだ。


一体誰だったんだ?


なんて気を抜かしたのが間違いだったのか?


「わたしのこと、もう認識して貰えないのでしょうが?あまりにも薄情すぎませんか?わたしに対して、いえ、あなたの周りの人間なんて気にもとめないのでしょう?ハルトさん。」


頭部を抱えられている。外気温に比べて冷ややかな指が、ゾッとするように頬をなぞり、5本指が頭全体を覆うように複数の手のひらに押さえつけられている。本当に人間か?


「その瞳には誰を映しているのでしょう?恐怖ですか?狂気ですか?凶兆ですか?……どうして焦りを浮かべないのですか?」


楽しんでいた調子は崩れたようだ。化けの皮が剥がれたと言ってもいい。俺としてはそんなこともどうでもよく、言いたいことがある。


「俺の名前はハヤトだ!馬鹿野郎!勝手に話を進めてんじゃねぇ!」


「……本当にこの記憶が主人格ということなの?だとしたらどうしてあなたが存在できるの?」


初めて声色が変わったように聞こえる。


「【交換/swap】」


おいちょっと待てや。


あ、



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