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Alive Applicants  作者: 澱味 佑尭
ここから1章でええんか?
24/28

教習所での話はしっかり聞こうな


『 旅装束:……少年少女は連れられ着替えさせられた。びしょびしょに濡れていたのもある。なにより掃除する人が溜め息をついていた。』


『 旅装束:神官の1人が少女に「時間ですよ」と優しく語りかける。ゆっくりとした言葉だった。短かったが、印象の残る一言だった。』


『 旅装束:言葉が生活ににじみ出るとでも言うのだろう。少年の生活、けたたましく早口で、足取りもすばやいガヤガヤとした生活とはかけ離れていた。背中がむずむずとしたものだった。』


『 旅装束:通る廊下や階段は珍しいものでもない、しかし視界に入るものがきらきらしたもの、価値あるものに見えてしょうがなかった。』


『 旅装束:祭壇の間……と呼ぶことにしよう、装飾された品々があるわけではない。また、祭具のようなものがあるわけでもない。何もない広い空間。外に解放された、広い場所。』


『 旅装束:太陽は真上に、神官らが立ち止まり、彼女だけが前に歩いていく。整えられた砂上を歩いていく。歩きながら両手を空に伸ばして。』


『 旅装束:舞う』


『 旅装束:戸惑った。その行為になんの意味があるのか、お腹がふくれるわけでもない、のどがうるおうわけでもない。最初はそう思っていたが、』


『 旅装束:一挙一動、その指先にかけて光が反射する。目を凝らしてみれば、水滴が躍動するようについていく。舞が速くなり、粒は一筋になり、』


『 旅装束:まるで水が舞に同調するように踊るかのようだった。水竜、そう形容してもいい。太陽に照らされながら踊る姿は、広い空間を独り占めするかのような輝きに満ち溢れていた。』


『 旅装束:空間が笑ってるかのような不思議さに、思い出した。この舞踊は年に一度の祭事で行われる演舞、それとそっくりそのまま、おなじ動きをしておった。』


『 旅装束:そうして、彼女の周りの水が踊り疲れたかのように落ち、砂を湿らせる。その湿った砂には光り輝くものが幾つもあった。』


『 旅装束:星空の砂浜、そんな言葉が頭をよぎる。いや、声に出していたのだろう。1人の神官が「言い得て妙ですね。」などと口に出した。』


『 旅装束:神官が困惑する少年に、「忘れて下さい」と言い、その言葉が聞こえていたのか少女が「この星はどんな形をしていると思う?」なんて尋ねてきた。』


『 旅装束:「ほしって?」少年は疑問を返した返答をする。「私もわかんない」少女はまるで明日が待ち遠しい子供のように、柔らかい微笑みをたたえていた。流れている時間が心地よかった。』


『 旅装束:それから外が見えないカゴ付きの砂遊魚に乗せられて、元いた場所まで送り届けられた。不思議と降りた辺りは誰もおらんかった。』


『 旅装束:別れに神官は、自分の長身ほどの棒を渡してきて、「再びお会いしたい場合は、祭に出られるようになってください」と押し付けてきた。』


『 旅装束:日は暮れ始めていた。当時世話になっていた親方に、それはもう絞られての。「どこほっつき回ってる!てめぇを探した奴らに謝ってこい!」耳を震わせる怒鳴り声は優しかった。』


『 旅装束:翌朝から、空き時間を見つけては棒を振り回して、同じ動きを真似ようとした。はっきり言って、まったく上達せんかった。』


『 旅装束:だが続けていると不思議と縁があるものでの、ある夜、深酒したノンダクレに絡まれ、「よしよし、俺ちゃんが捌き方を教えてやらぁ。」なんて言う。抱きつかれた時の酒の匂いはこりゃ酷いものだった。』


『 旅装束:「ぼーず、かせぇ、ほらぉー」貸したくなかったが、しぶしぶと差し出す。渡した瞬間、ノンダクレの顔が少し冴える。再度少年を見て、少し離れとけと言い終えるとすぐ、棒の両端に炎を灯す。』


『 旅装束:驚きは続く。何も無いところから燃えでた炎は回転する。男は操者だったのだ。棒を手繰り踊るさまは苛烈さを増し、次第に見もの客が円をつくる。』


『 旅装束:ひときわかがやく。大輪の花が咲いた。拍手が湧いた。指笛も聞こえる。男は「1杯よこせぇ〜」と見物人に下劣な笑みを浮かべつつ、少年に棒を持たせ、伸ばさせた腕を掴む。』


『 旅装束:「コイツがさっきの正体。練習してりゃそのうち精霊サマらが助けてくれるこったな。精進しろよぅ!コイツはいいもんだからな!売るなよ!お兄さんは酒飲んでくっからな!」……神殿の奴らには内緒にという言葉と共に、酒飲み仲間との戯れに混ざっていった。』


『 旅装束:ノンダクレに掴まれた時、腕に何かを流し込まれたように感じたが、異物のような違和感はしばらく残り続けた。』


『 旅装束:翌日も、腕に流れる砂粒のような流れ、この流れの感覚は持続的に残っており、粒の流れを速くするほど、次の日に練習できる運動量が増えた。』


『 旅装束:そうして粒の流れが一定の速さを超えた時、棒に流れた錯覚を覚えた。武器が体の一部になる。そういった言葉のようだった。』


『 旅装束:その粒を纏わせたまま振るっていると、水滴がついていた。ノンダクレに再び会えば、粒の動かし方で発火や旋風も可能であることが分かった。「食い扶持に困ったら攻撃隊に来いよな?」グリグリする手は好きになれんかった。』


「……俺の使ってる技もその派生なんだよな?でも使っててその流れ?ってのは感じないぞ。」


『 旅装束:そうかの。そうだの。記憶に留めておくだけでいい。そういうものだと。』


『 旅装束:少年はのぅ、焦っていた。このまま練習すれば、以前見た少女のように舞うことは出来るかもしれなかったが、祭りでの他の発表者も同じように粒子を動かした派手な演技をするという。手が届きそうになかったのだ。』


『 旅装束:……そうだったのぅ。祭りの目的としては地鎮祭のような、その土地に住まう神に対して許しを乞うというようなものに近いが、当時は楽しんだ者勝ち、という風潮が強かった。』


『 旅装束:そして水霊龍とは別に、もう一匹の怪物、魔物と言ってよいと思うが、「溶暗スル光芒」という魔物がおった。身体の管から猛毒の液体を放出するという魔物での、ただそこに居るだけで脅威となる存在だった。』


『 旅装束:吐き出す毒の効果は、精神錯乱、意識障害、どれもこれもアタマがヤラれる。本当にどういう訳か、魔物が住む湖の周りに街を作り続けた。まるで魔物を抑え込む形に円状に街が拡張されていった。』


『 旅装束:前触れはなかった。突如として水柱が上がった。クジラが海上で飛び跳ねるように、その異形の姿はどこからでも見えた。そして、猛毒を吐き散らした。……街は毒水に浸されていった。まるで街の建築物が防波堤になったような光景だった。初めての景色だった。』


『 旅装束:後から聞いた話だった。永い間、水霊龍が湖の底に溶暗スル光芒を押さえつけていたのだ。食い止めるものの、あふれ出る毒液が湖に広がっており、島の中心を目指す者をむしばんでいた。湖の水死体の理由が分かった。』


『 旅装束:当然、祭りは中止となった。巻き込まれた市井は、紫色に染まっていた。時折街で見かけた紫色の壁染めは、この魔物の名残だったのだろう。いままで災害は何度もあったのだろう。』


『 旅装束:少年は歩いた。以前の街並みを辿るように歩いた。出会いの日、湖の中心に泳いで行った、その場所へ。』


『 旅装束:薄紫色に染まっていた。少年は錯乱していた。猛毒に染まる水の中へ、少年は止める声も聞かずに飛び込んだ。』


『 旅装束:水中では今までの息苦しさが何倍にも膨れ上がったかのような圧を感じた。一方で自信に流れる粒に反発する感覚もあった。』


『 旅装束:行けると思った。』


『 旅装束:流れ、纏わせ、薄紫色に霞む水中を以前の記憶と擦り合わせながら進んでいく。……流れが速くなった。』


『 旅装束:異なる動きをしておった。記憶は役に立たない。また、霞んだ水中で流され、上下左右も分からなくなりつつある。棒で小突きながら進むのも時間がかかってしまう。息苦しさは増すばかり。』


『 旅装束:両手で掴んだ棒に、流れを纏わせ、伝わせる。棒の先端に渦を巻かせ、推進力にしたのだ。少年はもがいた。もがき続けた。』


『 旅装束:壁にぶつかれば、衝撃が手を痺れさせ、握力を無くそうとさせてくる。興奮状態であるものの、粒の流れを維持するには精神力が必要だった。時間との戦いだった。』


『 旅装束:運が良かった。』


『 旅装束:進行方向が明るくなり、浮上することができたのだ。その先に広がる光景は、』


__ピリリィ!ありがとうございました!これで砂遊魚の扱いについて学んでいただけたと思います。皆様、楽しいキャラバン生活をお楽しみください!感想など記入していただけると嬉しいです。


『 旅装束:時間かの。続きはまた今度にしよう。急ぐ話でもないしの。』


__質問がございましたら遠慮なく質問下さい。もちろん砂遊魚の申し込みはアチラからです。少し失礼します。……えー、これから商業用免許を受講する方は、当該施設サービスカウンター左手でお待ちください。繰り返します……


「今の話、ソルベーレイの話なんだよな?」


『 旅装束:まぁ昔のことだがの。砂遊魚は当時もおったし、現代では品種改良も進んでいるのではないかな?』


『 旅装束:「溶暗スル光芒」も聞かない。森からここへ渡るまで魔物という魔物も見かけんかった。この街では魔物という言葉さえ使われていないように感じる。』


「森の化け物、あれは魔物じゃないのか?」


『 旅装束:魔物だの。魔物とは、人の思いから産み落とされた魔性の産物、と聞いておる。かたちだけの空虚な怪物。存在する意味も理由も理解されることない哀れな獣。獣ゆえに情を解せず人の形する者すべてに害なす。』


『旅装束:ノンダクレの所属していた攻撃隊、それは街周辺の警護の役割を担うとともに、魔物の殲滅も兼ねておった。ケガすることも少なくない。なにせ種類が多かったのだ。』


「例えばどんなのが居るんだよ。初めに出会ったゴリラみたいなのか?」


『 旅装束:うむ。石巨人やサボテンモドキ、夜にのみ現れる幽馬や瞬きの間しか見られない光蠍、先ほど話題に出たスナジゴクも、そのどれもが魔物であった。』


「そんなに多くの魔物がいたのに、今じゃ全然見かけないってのはおかしな話じゃないか?」


『 旅装束:魔物はの、生殖しない。自然発生する。しかし同じ個体は一度のみ。再度生まれても、記憶はなく動きを理解していれば、誰でも倒すことは可能だの。』


『 旅装束:攻撃隊の役割は、討伐した魔物の部位を剥ぎ取り、街の見世物にすること。打ち倒すことができる存在だと周知の事実になれば、しばらくすると、その魔物が姿を消してしまう。剥ぎ取ったものは残り続けたがの。』


『 旅装束:過去に存在していたはずの魔物、それがなぜ消えたのか、それはわからなんだ。だが魔物がいなくなることは良い事だから、攻撃隊が存在し、彼らの帰還を皆で喜んだ。』


「そうやっていって、今のような時代になった、ってことか。聞くだけだと別世界のこと、本当にあった話には聞こえないけどな。__ジジイの時代の名残、あんだろ。そんときにまたいろいろ聞かせてな。」


『 旅装束:うむ。これがなにかに役立てばよいのだが。』


会話を終えても、機械的な声が頭の中に響くことはなかった。


試しに[水運]を使ってみるが、腕に砂粒のような感覚は得られなかった。


[理解度上昇]の条件は何なのだろうか。


ヒントを得ようにも『両手剣』はうんともすんとも言わない。


考えても仕方ない。


疑問は浮かぶものの、砂遊魚の乗り方は学んだ。


これからエイリスと会う予定の宿は、噴水近くの鳩印が特徴だっただろうか。


歩いていると、その看板らしきものが見つかり、店主と話せばすぐに通された。俺の持ち物は特徴的であるらしい。


入った部屋には誰もいなかった。エイリスはどこかに出かけているのだろうか。明日の出発までここで待つのは退屈だし、俺も少しこの町を見歩いたって罰は当たらないだろう。


再び、通りを歩いていく。


歩いていくと、見覚えのある建物が見えた。


教会のような場所。蔓の化け物と初めて戦った建物に近いものを感じる。


通りを歩く人が年齢を問わず何人も出入りしているため、誰でも入れるのだろう。少し様子を見てみようか。


木製のトビラ、石造りの建物、礼拝堂のような椅子が揃っている大きい空間もあれば、しっかりとした家具が揃っている生活している空間、子供たちが走れるほど開けた場所もあった。


元気な声が聞こえてきた。


「ちゃんねぇはいつになったらくるの?」


「そうですね、私たちがいい子いい子していれば、やってくるのも早くなるかもしれませんね。」


「騙されないぞ!クッキー焼くのに時間かかるって言ってたもん!決まって30日ずつにくるから、あと、ん?何日だ?」


「俺しってる!明日の明日の明日の明日の明日、の明日の明日の明日の!」


「ハイハイ、もうすぐお祈りの時間です。『 精霊』様にちゃんとお祈りしましょうね。……あれ、あの、あなたもご一緒しますか?」


聞いたことのある声だった。


見たことある顔だった。


森で見た子供たち。


蔓の化け物に襲われていた子供たち。


「どうされましたか?顔色が宜しくないようですが、温かい飲み物をおもちしますか?自然と落ち着いてくるので、あ、寄進は大歓迎ですよ。」


知らない人を見る目をしていた。


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