表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Alive Applicants  作者: 澱味 佑尭
ここから1章でええんか?
22/28

レキシショータイム?

タンランによって、見慣れたようで見慣れない土地に飛ばされ、診療所、とされる場所に同伴もとい、そして椅子に腰掛け待つことしばらく、


「入って。もう既に挨拶は済ませてるから。いいこと?絶対に逃げないで。」


逃げない?


誰がだ。診療所だからといって、脳みそかっぴらくわけでもあるまい。……臆するな俺、ほんの少しだけビビったって仕方あるめぇさ。先に入れと急かされてるので、否応にも逃げられないと思うんですがね。


扉の先にはおばあさん。


診るための道具、非常に物騒なものも見受けられるのだが、脇に寝台、簡易な白いベッドがある。


「そこに横たわりなっ。」


口調はおばあさんではない。おばちゃんだ。恐れるものなどない覇者のおばちゃんだ。


しかしいいのだろうか?汚染水に浸かったため、体が汚いと思うのだが気にしないのか。遠慮はしない。気分的にも横になれるのはありがたいし、指示通りに動く。


硬すぎないちょうど良い寝心地は、自分の心にゆとりを生じさせる。視線は薄汚れた天井だ。


きゅっ、となにかが縛られる音。足首に束縛感がある。


『 逃げないで』


嫌な予感というか、既に目の前に凶器が手にされている。振り下ろされているハンマー。


「痛みが走ったら叫ぶんだよっ!」


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛っ、……?、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


「うるさいっ痛みがないなら騒ぐんじゃないよ。ふん、左右の瞳に異常なし、記憶の齟齬あり。但し、異人にも夢見の雫による悪影響を受ける……と。さて、リリエラ、コイツで何人目だ?」


顔の平手打ちに眩む間に、両目に光を当てられたり、一問一答に答えたり、……異人ってのは自分のことだと思いつつも、痛みがない理由に頭が追いつかない。


現実感の存在が希薄に感じられるのだ。とりあえず叫んでみるものの、叫ぶことによって平静さを取り戻すための要素を探しているとか、たぶんそんな感覚。


「6人目です。この男もですが残念なことに、どうしてここに居るのか分かっていない、という顔をされていますね。降って湧いたソンビ戦力ですので、戦争の爆弾歩兵に起用してしまうのが良いと思いますね。」


「ここは治療の場さね。……仕事の量が減ると言うなら聞こうじゃないか。ルドルフの若造が無茶してまぁ、目の上のたんこぶ叩いてやりたいねぇ。」


戦争?どこか他国とやり合ってるっていうのか?それにルドルフと言えば、ソルベーレイの委員長じゃねぇか。


「アンタ戦争のことも知らないのかい?顔に書いてるよ。……手違いで討伐しちまったって訳でもなさそうかい。なに戦争相手、溶暗スル光芒、聞いたことぐらいあるだろうさ。」


溶暗スル光芒、それはエフェメラルが伝えてきたあの怪物のことだろう。


「戦争って言い方、あまり好きじゃないけどね。溶暗スル光芒をどうにかしようとしてんの。アンタが浸かってた夢見の雫だまりもその戦争理由。この液体の毒性さえどうにか出来れば、私たちの生活がうんと楽になるって言う話。お分かり?」


いったいどんな生活すればあの化け物の話が抜けるんだろうね、なんて聞こえてくる。そんな言葉を聞けば、誰だって知ってておかしくない存在ってことだ。


「討伐隊の首尾はいいのかい?それと、実験の進み具合もだ。どこもかしこも人手不足でやってらんないよ。ったく、実験の成果は出てるんだろね?」


「可能性論でしかないけれど、概ね好調らしいですよ。ただ、これ以上失ったもの以上に富を得られるのか、私には理解できないですけどね。交易の品とかどうするんです?」


戦争は溶暗スル光芒との戦闘行為だけではないのか。


「戦争って?」


「なんだい、戦争すら知らないとは幸せもんだね……後になって知らない顔しても無駄だよ。戦場は三箇所、ソルベーレイ中心溶暗スル光芒牽制部隊、ソルベーレイ南部封印結晶開発部隊、ソルベーレイ周辺地域及び魔物討伐部隊、今開発部門で扱う魔物は、サンドゴーレムさ。」


「……絶滅したはず。」


「ハッハッハ!お前さんが()()することが、この作戦の成功を裏付ける。私たちは止まらないよ!いいかい、未来から来た者を、()()、と呼んでるのさ。何も出来ないよ。リリアナ、拘束具を外しておやり。」


「……これでアンタは自由。過去に求めたところで、得られるものは人の罪過しかない。知ってしまったことを恨むなら、過去に飛ばした人間を恨む事ね。」


上体を起こす。歪だ。俺の知っているソルベーレイとは在り方が違う。


「……討伐隊に参加するかい?」


「参加、させて下さい。」





それから話が進んでいく。あまり頭には入ってこなかったが、数刻後の再出撃に参加することとなった。ある程度の訓練を受けてから出撃するのが普通だが、異人ということで色々省かれた。むしろ囮としての役割が強いらしい。


ふと、移動中にソルベーレイの中心が見える場所を通りかかった。澄んだ中心の湖は、薄紫に濁り円を中心として大小の堤防が途切れ途切れに拡がっている。


まるで抵抗してきた歴史のように、残骸だけが残されている。俺の時代では何も残っていなかったはずなのだが、これもまた、忘れられた記憶なのだろうか。


その濁った液体のなかで、一筋の閃光が浮かんでは消えていく。その不気味さは、静かに水位を上げている恐ろしさを際立たせていた。


理解はした。だが、分からない。


お前らが未来人だと言うのなら、この土地は過去だという。過去だと言うのなら、エフェメラル。お前はどうして、現在(いま)を助ける。


仇じゃないのか。俺たちはお前らを滅ぼした敵じゃないか。その知識を知り、動けるのが自分しかいないからって動いてんのか。自分ならどうでもって、そう考えてんのか。


エフェメラル。


数刻至る前に、空に土煙登る。


その当事者たち。


「はいはーい!この危機的現状を打破するために私タンランめは奇想天外奇々怪々、よるの寝る間も惜しんで仕込みダネによって、新たに未来から人質を取らせて頂きました!ご招待したのは、数十名の選ばれしもの達。全く話に関係なさそうなMOBから重役まで取り揃えるのもなかなかに一苦労を掛けましたが、彼らの表情、たまりませんねぇ?あらららら、時と場合における人の感情たる電気信号、その規格が一致した人身交換、楽しんで頂けましたか、ハ〜ル〜ト〜君?」


「はっ!長々と長文失礼ごめんつかまりこうむるって言え!前と同じで時間制限付きだろっ、そんでもって知らん人間はどうでもいいっ!さっさと返せっ!」


「酷いにんげんだ!……別にそれほどタブーでもないと思うんだけどな〜。だって出会い頭にも言ったよね、君の心が形成される前の記憶だよ?曖昧で、不鮮明で、口の中で噛み締めないと理解し難い絶縁領域。でも、それに応えて君は焦がれてる。焦がれて、焦がれて、憧れに届きそうなほど強い発露!……私としてはもう十分堪能してしまったのさ。そして、この記憶がなくなると同時に君の冒険は終了だ!あははは!あははは!君も失って初めて気づいたんだろう?この世界は記憶が全てっ!知識によって完成される世界っ!」


「うるせぇ!頭が忘れても体は覚えてる、大事なんは経験値だっ!だから心が叫んでる!応えろっジジイ!」

【Connecting】

「私は女!知識麗しお姉さんって呼べ!」

【Accepted】

「お前じゃねぇ!【水運・氷晶裂刃】」


異質なる魂は、輝きを魅せてくれるのか。

因果の理由は知らねども、在りし日の再来は、二度とない機会であるからこそ、この瞬間、この現在を必然にしなければならない。


思い出せ、自分の名前を。


思い出せ、自分の魂を。


約束を破った儂、その事実を変えることは難しいが、今動くのは、存在しない彼等。彼等が存在して尚、世界が廻るというのならば、


誰のおかげかな。


この奇跡に感謝を。

この時間に救済を。


儂を振るえ、振るい続けよ、ハルト。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ