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Alive Applicants  作者: 澱味 佑尭
ここから1章でええんか?
21/28

思い立ったが吉日とは言うがモラルは守ろうな

また明日。


その言葉通りに受け取って、いつも通りに仕事に取り掛かるほど、俺はできた人間ではない。


気になる。


エフェメラルはまだ秘密を持っている気がする。それを知っていそうなのは、あの少女、メーアだったかメリアだったか、名前はこの際どうだっていい。


知見を耳に入れたい。別段なんでもいい。


今まで暮らしていたこの街で、砂掻きと同時に聞こえてくる話声から情報を仕入れていたため、もはや知らないことなどない、とふんぞり返っていたが、全く知らない多くの知識に追いかけ回されている。


人の会話だけでは情報も限られるのだろうか。いや、単に気にしていなかっただけかもしれない。


だからこそ、何か糸口が掴めればと思い尾行、エフェメラル、やつに関わる人物から、『溶暗スル光芒』、街いっぱいを水没させるその正体の背後に迫ろうとしているわけなのだが、


「おう、ススピロじゃねぇか!今日は随分と余裕そうだな?へへっありがたくコッチはノルマがおわるってんよ!ガハハっ!」


ネコグルマいっぱいの砂を見せつけて耳を麻痺らせる声。


仕事仲間のガラバッド。


ジャングルのゴリラと張り合う上腕筋。女性よりも優しさを兼ね備えているハリのある巨乳。割れた腹筋の美しい段々畑。いや、暑苦しい。


「今からは掻き込むのはちときびしいぜぇ?最近は羽振りがいいから、普段の砂溜まりは取られちまってるだろうよ。回収所から離れた人気のない区域、そうだな、『枯れ錆びた大通り』に行けば残ってそうだがな。まぁ、たまにはのんびり遠回りしてけよ。ガハハっ!」


『枯れ錆びた大通り』、掻き集めた砂を捨てる場所から遠く、あまり人も少ない。賑やかな場所から声が聞こえてくるような、静かな通り。


まるで時間から取りこぼされてしまったような、静かな大通り。


……誰も寄りにくい、ということには理由があるかもしれない。


たまには気の利いた事を言う。


「おい!」


首を掴まれるような、引き止めの声。投げ飛ばされる何か。どうにかその鋭利な物を受け取る。


「面白そうな目をしてやがるからな、コレは餞別だ。どうもどこかに嵌りそうな構造だとは思うんだが、俺には見つけられん!貸しの返済、コレで手打ちにしてくれ!宝を見つけたなら、分け前を寄越せよな!ガハハっ!」


なんだこれ?


鍵か?だが一般的なものではなく、なにかのつっかえ棒のような代物だ。特別意匠が施されているため、なにか意味ありげに思われる。これから役に立つかもしれない。


それにしても、貸しってなんだ?


訳を聞こうにもネコグルマは遠ざかり、轍だけが取り残されていく。


俺は俺の轍を残すとしよう。


まぁ、ガラバッドと話したため、エフェメラルの行方は分からなくなってしまった。


情報探しがてら、ついでに組合からネコグルマを借りて小遣いも稼ぐことも忘れない。


と思ったのだが、借りる前に呼び止められた。


「すみませーん、す゛み゛ま゛せ゛ん゛!?それ、それです、手に持っているもの見せて貰えませんか?」


肩をグバァ、とつかまれる。視線の先にはガラバッドから渡された鍵。そして、好奇心の圧がすごい目の前の学者に引いてしまう。


しかし、現在場所が場所だ。受付中なんだ。


「情報が集まる都市、と聞いていたものの、私が知りたい情報とは少し異なったり眉唾物だったり全く見当違いなものだったり全くと言っていいほど成果なしであったのですが、ここにきてようやく、ようやくです。因果ですよ!因果!こうして巡り合えたのですから~。」


待ってくれ。


『お待たせしました。ご希望のネコグルマの大きさ、作業道具のセットをお選びください。』


「すみません。LLサイズ、スコップとブラシのセットで、はい。ありがとうございます。」


「待ってください~。知りたくないですか?知りたいですよね?私のような、THE学者、的存在がこうして興味関心を引くユニークアイテム。その詳細について知りたいと思いますよね?思わずにはいられませんよね?」


待ってください。


『はい、ではこちらのタグをあちらで見せてお受け取りください。今日も頑張って下さい。』


「はい、ありがとうございます、それでは。あの、……歩きながらでもよければどうぞ、譲られたもので、俺もよく分かってないんで。」


「い〜え〜。ありがとうございます!あ!私タンランと申します。ご拝見させていただく機会を下さりありがとうございます。では!今!すぐに!見せて貰えませんか!?」


押しが強い。人差し指身体を薬指にかけて波立たせるように艶かしい手つきで今か今かとご飯を待つ犬のよう。尻尾をブンブンと振り回しているに違いない。


まぁ、そうだな。ガラバッドから受け取った物、これについて何も知らない状態。目の前に専門家がいるならば、聞かせてもらおうじゃないか。


「これはざっと見300年以上は昔ですかね?建築模様が50年毎に変わるんですよ。私が知ってる柄5つとは異なるので暫定、としか言えませんがね。……なにか気づきましたか?」


建築模様が変わる、となるとこの都市は年輪を重ねるように外周に発展してきた。となると中心に向かえば向かうほど、他に建て替えがあまり進んでない所が怪しい。


「……『枯れ錆びた大通り』、か。」


「もしもし?もしですよ?もしよろしければ〜、ご一緒しても〜良いですかね〜?私の知識、役に立つかもしれませんよ!本の虫と伊達に呼ばれてませんよ!ぼっぼっぼっちなんかじゃありませんよ!本が友達とか、そっういうことじょなくてですね、……す゛み゛ま゛せ゛ん゛知りたいんでずぅぅぅう!!ただ知りた゛い゛ん゛でず〜!!」


砂埃に塗れてもお構い無しに泣きついてきて、周りの視線が痛い。それも汚ぇ。まだ組合から出ていないため、一層目立ってしまう。


これ以上はマズイ。やめてくれぇ!


「あ゛り゛か゛と゛う゛〜」


了承した覚えはない。諦めて欲しい「止めてくれ」が、こいつの頭の中ではOKサインなのだろうか。どういうことなのだろうか。


「えっへへ、わかりました、わかりましたとも!もうダメと言ってもついて行きますからね!」


……先程までの聞くに耐えないわめき声はどこへやら、一転して快活な一声。俺は視線を寄越す野次馬と合わせようとする。しかし、目をそらされる。お前もか。


他のやつも同じような反応を繰り返す。知らない手が肩にのせられる、首筋が嫌にひりつく。


「兄弟、ソイツはよぅ……常習犯だぜ。」


常習犯、常習犯ってなんだ?知的好奇心が底なし沼というやつなのか?待て、待てぇえ!底冷えさせられるような薄ら寒さに居心地が悪い。


……タンランとの、仕事が始まる?


【去きて】


風が吹く。


【去りて】


室内で。


【去ぬ】


何が……起こっている!?


「【紡ぎし縁、時繋ぎ】【過去にあまねく軌跡を此処に記す】【轍を辿りて歴史をなぞれ】【累積した再認識/stack re wards】」


光が、溢れる。


「歴史の旅路に、ゴショー☆タイム!」


眩しくて、反射的に目を閉じる。


暗闇。


身体は、動かない。


金縛りにあって動かないと言うより、そもそも動かす身体がない、という感覚。今、自分が地面に立っておらず、上下左右に回って漂っているような無重力感。


風に押し上げられるような感覚、身体に浸かっていた液体が引いていく。波にたゆたうような穏やかさ。


さざなみの音。


非連続的に水の冷たさが何度も当たる。太陽が出ているのか、陽射しの温かさが心地いい。


お分かりいただけただろうか。


石になっている。


湿った砂の上を歩く音。歩幅は小さく、子供のようだ。ようだ、と言ってしまうのは聞こえてくる声はどこかあどけなさを感じるからだ。


「お、お、お、お?」


声とともに近づいてきた足音が、ピチャッと水面を弾けさせて止まる。


一瞬の浮遊感、感じるじんわりとした温かさ。


「……ゴミ?」


ゴミじゃない。


「ゴミだぁ。」


ゴミだった。


「お、お、お、……お、……お゛っ」


ブラブラとブラつかせる片手に握られているため、グワングワンしてくる。


「そおっい!!」


水面を何度か跳ねて沈む。


こぽこぽと。


冷たい水の中を、沈んでいく。


「んなわけあるかぁぁあいっ!」


ざばぁ、と水面を破る。

両足は砂を踏む。


子供がコチラを凝視している。

数滴、水が滴り落ちる。


「あ、危ないやつだ!」


子供が遠くへ行ってしまう。

どうなっているんだ?


見たところ景色が変わっている。知らない建物が多く、俺の知っている建物は少し真新しく感じる。


景色だけじゃない。先程着ていた子供の一張羅だってそうさ。まるで制服だ。1子供が1個人で着ているようなものじゃねぇ。


それを置いてさらに見るべきは、この手に触れている水だ。透き通ってやがる。ここまで透明な水は厳重に管理されて、誰もが簡単に手を触れていいようなもんじゃなかったはずだ。ましてやあんな子供が入ってくるような場所だ。自由に使えるんだろうさ。


その水の中に俺はいる。


笑えてくる。


今浸かっている水は洗浄用ではなく、飲み水としてなのだろう。そう決めつけていいだろう。


……本当に飲料水か?


よく見ればこの水、淡い薄紫色がついているような……。


「君っ!早く上がりなさいっ!死にたいの!?」


死に、死に、……え?


危ないヤツ……危険な水に全身浸からせ、水面から浮上してくるヤツ、ははん、確かに危ないヤツだな。


視界が眩んでくる。


「これに掴まってっ!」


何言ってるんだ?


両足がつくぐらいの浅い場所だ。このぐらいの立ちくらみ、別にそんな命綱みたいなもの必要じゃない。


掴まりますね。


この紐みたいなやつ浮いてね?

というわけでたどり着いた。


「診療所で診てもらうわ。キツかったら1度吐くこと。……これだからよそから来た人はあまり入れたくないのよ。何するかわかんないし。」


ひとことふたことよぅ、手厳しい。


歩きながら道中景色を楽しむが、やっぱり知っている街では無い。同じような雰囲気、同じような景色、であるはずなのに、どこかなじみ深さが感じられない。別の街に来てしまったかのようだ。


「はぁ、運良く子供がイタズラに石を投げたのが当たって、酒に酔い潰れたアンタが意識を取り戻したって聞いたけど?まったくソルベーレイに何しにやってきたんだか、寄越してきた国も、案外役に立たない人しか抱えてないってことなのかな。」


……ソルベー、レイ?この街がか?


うん。


うん、


タァンラァァァァァァァアアアアアアン!!


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