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Alive Applicants  作者: 澱味 佑尭
ここから1章でええんか?
19/28

徹夜明け

神に招かれた者。

神に祝福されし者。

神に寵愛を受けし者。


私たちは、教え上そう呼ぶことになっている。教えとは、この世界において常日頃の常識とされることで、まるで信仰のように、教義的にそう呼称することになっている。


一方で、私たちは彼らをこう呼ぶ。


神に攫われた者。

遭難者、と。


彼らは何も知らずに渡り歩く。その旅路の果ての結末も知らずに。その最期すら、分からずに。


そして、その神とされるものは、神、と呼称せざるを得なかったのだと、らしいとしか。


知らない者は、私たちも。私たちは何も知らずに、与えられた役割を果たすだけなのか、どうしてその役目を与えられたのかも疑問を持たずに。


或いは。







翌朝。


喧騒と呼ぶには激しい騒動が明けてしまうほど、まとめるべき報告書、調査書などを整えるのに時間が掛かってしまい、徹夜明け。


景気づけに背すじと腕を伸ばし、くぁっと息を吐きながら、しょぼしょぼとした目をしばたたかせる。一段と目が細くなってしまっている気がする。


ドアのノックと開く扉の向こうには、眠気覚ましの温かいココアの気遣い。


「ありがとう。久しぶりの大騒動って感じよね。被害の大きさからして、聖地に居候中の龍様にちがいないんだろうケドね。あぁ〜あったかい。フフん、また腕を上げたね、メリア!」


苦笑いしつつ、これまた眠そうにあくびをしてしまう少女。隠そうとしつつも、年相応に照れくさそうにしている。


「あくびがうつったじゃないですかぁ。それに居候中なんて言い方、この都市の護り主様にっ失礼ですよ!でも、居住区を壊されるたので……仕方がないかも。」


「まぁ、今は協力的に修繕の手伝いをして貰ってるし、聖地深くの珍しい素材も提供されるんだからっどう動いても儲けものよっ!さ、て、と、もう遅いって言っても朝なんだけども、メリアは一休みしてきなさい。」


ご好意に預かりまして、ありがとうございます、と言いつつも、まぶたが開けにくいだけで、実は頭は冴えている。これから休むにしても、少し小腹がすいてしまっているので、何かお腹に入れたい。


それでも食堂が開くのはもう2刻ほど進んだぐらいで、ここ、砂漠横断キャラバン隊『石華』の本拠地を構えるのは、環状湖淵街ソルベーレイなのです!ばばばん!


ソルベーレイの中心地には、大きな湖である聖地が存在して、中心地ほど深くなっているみたいです。その最奥は誰も到達したことがない綺麗な景色があるって伝説があるけど、伝承があるなら誰かが見たってことで、誰もいないは言いすぎだと思うんだよね。


そしてそして、その聖地には、天空に昇る白龍さまがお住まいになりまして、私たちが住むソルベーレイを護ってくれています。星月夜に昇る龍様はまるで流れ星のようで、見ることが出来た日は何かいいことが起こるかもだったり、起こらないかもだったり……


私たちキャラバン隊の倉庫は湖に近い区域でした。そんな方が私たちキャラバン隊の倉庫を壊されてしまったようでして、その理由というのも、あまり大声では言えないようなものでして、


アレですよ。

ここだけの話ですよ。


大切な贈り物が壊れてしまったそうです。

あの白龍様に贈り物、なんですよ。

一体どんな人だったんでしょうね。


そのショックから、ブレスがポロッと出てしまい、その延長線上に私たちの倉庫があったらしく、倉庫内の物品が、それはもうバラバラと吹き飛んだわけです。


白龍様が現れたかについてですか?


私と同じくらいの背丈の少女が現れましたね。こんなはずではなかったんです、って私たちが困るぐらい深深と頭を提げていましたよ。……想像していたおごそかさというか威厳みたいなのがくずれてしまった瞬間でしたけどね。


ただ、そのですね、品々が吹き飛びましたから、やはりというか盗難もありまして、損失の補填として、湖の深淵にある珍しい品々をいただく話に落ち着きました。


この話はこの街を統べる「委員会」が立会人になっていただけたので、この騒動の詳細が街の中で賑わうことはないでしょう。あることないことちょっと違う話としてお酒のツマミにされて、なかったかのようにするそうです。……おそろしいですね。


そんなこんなで、私の脳内まちニュースをお伝えしているところで、目的の市場にやってまいりました。


いい匂いがします。

それも、格安です。


この時刻は、掃除屋の時間帯です。


風で運ばれる砂をそのままにしてしまえば、そのうちこの街は砂に埋もれてしまいます。


なので、委員会により、砂掻き掃除屋が公式な仕事となっています。人通りがまだ少ない今の時間帯に、砂掻きが行われるんですね。


業務は砂を履くだけではなく、点検整備の意味合いもあります。


子供にもできるので、お小遣い稼ぎになっているんですよね。給金はそれほど高くはありませんが、その代わりと言ってはなんですが、彼らのための屋台がここにあります。


私も利用するんですよね。


「オジさん、いつもの下さい!」


「あいよ。いつもの砂遊魚の軟骨炒めだ。ついでに楯鱗はいるかい?」


「はいっ!」


砂遊魚の筋肉は、砂を掻き分けるために非常に引き締まっていて、栄養価も高いんです。そのため骨の部分が余る傾向があり、安く売られているんですよね。


3時のおやつ感覚。


食べものを受け取り、これから始まる実食。

1口。

このコリコリした食感が、いいんですよね。


楯鱗は何に使うかというと、砂を泳いでいるため、頂いた楯鱗ごとに、粗さが違うんです。ヤスリとして使うにはもってこいなんですっと。


……視線を感じますね。


あれは、砂掻きの掃除屋ですかね。それも本職になりつつある。ああいう人は、入り組んだこの街を我が家のように知り尽くしていますから、街案内もできてしまうんですが……彼の瞳は曇っています。近づかない方がいいでしょうね。


まぁ、こうして時間を潰しているのにも、理由がありまして。


「メリア!久しぶり!」


声をかけてきたのはエフェメラル。彼が人間じゃないってことを知ってるのは私だけ。危険じゃない魔物がいるってことを私は知ってるし、誰も気づかないことが、何となくほこらしい。


「久しぶり!エフェメラル!いつも以上に砂まみれで、何か大きい仕事でもあったの?」


彼は少し苦笑いを浮かべて、わざとらしく砂を落とすようにしながら話す。


「これがまったくひどくてさ。人通りが少なくて使う人もいないからホントに砂が溜まってて、」


「またまた〜、その重労働に見合って稼ぎも良かったんじゃない?」


彼の顔の苦味が増す。


「誰もやらないってことは稼ぎもあまりってことなんだよ、それに気がついたのは全てが片付いてから!……受領書と一緒に貰ったのはコレだけ」


エフェメラルのポケットから取り出されたのは、この街で3番目に価値ある銀硬貨!?ん、銀硬貨?


「あぁ、そうね。喜びにくい、かぁ。」


さっき私が買った食べ物が死ぬほど食べられる価値があるんだけど、身分相応というか、自分に合ったお金じゃないと使いにくいし、さらに身の危険まである。


「……どんな仕事受けたらこうなるのさ。」


今の職場で貰える給料よりぜったい多い。でも、私の視線にあまり効果は現れず、有耶無耶にされてしまった。


「……昨日は大丈夫だった?」


エフェメラルの心配はご無用、とばかりに私の奮闘ぶりをアピール。


「ほとんど大人の人達が業務してくれたんだね。」


むむむむ。


「メリアはその間をとりもってたんだね、お疲れ様!」


……べつにもっと頑張ってこともあるし。


ふぁ、とあくびがでてしまった。


「今日はもうゆっくりしたほうが良いんじゃない?思ってるほどより疲れてることもあるよ。他の日にでもこの続きをしようよ。」


バイバイに手を振り返す。

今日はよく眠れそう。





メリアに手を振り、見送る。

本当は、外に出て稼いでた、なんて言えない。

稼ぎとも言えない。

埋まっていたお金をついでに掘り出しただけ。


言ってしまったら、メリアはもうこの場所には来ないだろう。人に紛れているから、彼女はここに来る。


砂掻きが暮らす区域、それは、

生活保護対象にされているから。

生活保護対象にして貰っているから。


彼女の住む世界は、もうキャラバン隊なのだから。役目を果たしている彼女とは違うのだから。


僕はサンドゴーレム、だから。

足掻く為に、砂を集める。


砂の記憶。

誰かが歩いた足跡を、上から砂が覆っていく。

その上をまた、誰かが踏みしめて行く。


メリアと出会ったのも、今までの砂礫の一粒程度にしかならない筈だった。けど、


大切を、忘れてはいけない、


そう、胸の奥から溢れ出る気持ちに突き動かされてしまう。この記憶は、一体何なのだろう。


それを忘れない為に、押しつぶされないために、今日もメリアと会ったんだ。


集めている記憶に、塗りつぶされないために。


今まで集めた記憶からわかったことは、この世界には2種類の人間がいる。


元々この世界の住人と別世界からの異邦人。


わざわざ異邦人と呼ぶのは、この世界にはないものに溢れた異世界の記憶があるから、神とされるものを見た彼らの記憶はないけれど、彼らはその旅路の過程でこの砂上を通る。


彼らの記憶は歪で歪んで取り留めもない曖昧性を持っている。まるで、砂の中から得られるノイズがかった記憶のように。


意図的に細工されているように思う。彼らの記憶が上書きされているのかっていう線もあるけれど。


あとは、神と、呼称される者の仕業なのか、元々そうであるのか、自分に限界があるのか、その理由については分からないけれど、


試してみたいことがある。

先程メリアを見ていたあの異邦人に、ね。


「おじさん、毎日砂掻きしてて、飽きないの?」


ギョッとした反応を返される。話しかけられるのに好まれそうな服装でもないことを、彼は自覚していたのだろう。だから意外そうにしている。


「はぁ、こんなくたびれ引っ掛けるぐれぇだったら、もっと若い女の子にでもアタックしてこい。可愛がって貰えるだろうよ、多分な。」


返答してくれるあたり、それほど心が荒んでもいない。もう少しからかってもいいのではないだろうか。


「フーん。……おいしいご飯食べれてる?」


「おいっクソガキッ!?世の中にはイッチァなんねぇ言葉があんだよ!言葉って意外と刺があるもんだぜ?」


「……自分で言っちゃうあたり。」


「うぐっ。」


なかなか愉快な性格らしい。ならばだ、ならばこんな問いかけにも答えくれそうじゃないかな。


「もし、もしだよ。ある日突然非日常が舞い込んできて、君の日常を塗りつぶしてしまう日常が来たら、君はその日常を送りたいと思うかい。」


彼の顔は困惑に満ちている。

そうだろうね。

だから、すぐに笑ったりなんだり……あれ?


なんで笑ってるのかな、


「……今日、誕生日なんだよ。」


あれ?


「誕生日にした日なんだよ。」


あれれ?


「この世界を知らずに流され続けて、もう忘れるぐらいだが、ようやく報わるってもんなのか!?迎えがようやく来たぁぁあ!これから何か陰謀に巻き込まれるのか!?実はお前が魔物で改造されて人間襲っちゃうとかになるのか!?」


あれれれ?


「酒場のおばさん、言葉は厳しかったけど、俺にとちゃ優しかったよ。酒場のヤジ飛ばしてくるヤツら、あれ、お前らの照れ隠しの叱責だったんだろ。おれ、もう聞けなくなっちゃうんだな。」


「勝手に話を進めないでくれるかな!?」


さすが異邦人、予想に反した動きをしてくるとはなかなか厄介だね。まさか動揺させる魔法でも使っているのかい。いいや、その手には乗らないよ。僕を手のひらにのせようだなんて、あと50年生きてからにするんだね!?


「それで、一体どんなことをされてしまうんだ!?」


年甲斐もなくワカワクされると困るのだけれど!?


「もあぁぁぁ!!!君には『原初の砂』と呼ばれるものを取りに行ってもらいたい。君の予想通り僕はサンドゴーレムだ。砂の記憶を読み取り、風化した過去を識る魔物。僕は創世に綴られた物語を解き明かすことで、この世界の姿を知りたい。始まりからあったとされる『原初の砂』それがこの湖の中心、その深き闇の底にあるとされる。これから僕はその砂を頼りに数々の先へ冒険するだろう。君にはその助手をしてもらいたいんだ。」


「お、おうよ。魔物だったんだな。ちんまいのに。……いや、寝れば育つか。なるほど。」


勝手に納得しないでさ!?おじさん!?


「おじさんって歳でもねぇわ!?俺の名前はダラク。ダラク・ススピロってんだ。ヨロシクなチビ助。」


「僕はチビって言われるほど幼くなんかないぞ!僕はエフェメラル。これから助手としてよろしくね、堕落おじさん。」


「あぁぁん!今違う意味に聞こえたぞ!?そうムキになってんのが子供って言ってんだよ!!」


「明らかな人選ミスだよ。……どうしてこんなしょぅもない人間を選んでしまったのだろう。はぁ、誕生日オメデトウ。」


「ありがとうございますこのクソガキ!」


僕は思う。

上手くいくだろうか。


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