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Alive Applicants  作者: 澱味 佑尭
ここから1章でええんか?
16/28

流されるままに

気分転換に泥水から澱味澄に名前変えてみます。理由は聞かないでください。

起床。


と言っても、静かな起床。寝ぼけながら水を汲み、顔を冷やし、まぶしさに縮んでいるまぶたを開き、朝日を浴びる。意識の整理にしばらく、寝ていたベッドに腰掛ける。


昨日は溶けるようにベッドになだれ込んでしまったようで、凝り固まった感覚が少し抜けない。自分の手荷物の置き場所が分かりやすいと言えばわかりやすいのだが。


……気味の悪いじいさんだった。あまり試練の内容はわからず、ようやく掴んだものがかすんで消えたような後味の悪さ。そして煽られた不安を吹っ飛ばした肉。それから……


……どうせ疲れているから聞いてないでしょ。明日については紙に書くから……


メモがあるかもしれない。


視線を室内に巡らせていた。配置されているのは簡素なベッドで、先ほど水を、水は?


水はどこから汲んだんだ?


床には湿り気がある。……気づかないうちに【水運操作】で水を集めていたのだろうか。便利な技能を手に入れたことを良しとしよう。でも、寝ぼけて宿を壊した、とかは嫌すぎる。


ドンッドンッ!


「準備はいい?」


よく二部屋取れましたね。っうそやろ!?


細かいことは気にしないとでも言わんばかりに小型のリュックを投げ渡される。中には、水筒とパン、そして破かれたページが数枚入っている。紙は丸まっており、紐をほどかなければ読むことはできないようになっている。


「前に渡してみた本があるでしょ?あの中から一部抜粋、道中行き詰った時の魔法のスクロールって考えておいて。中身は気になるでしょうけど、本当に使わないといけなくなった時だけ使うこと。って言っても気休めだけれど。」


何に必要かと言いかけて、気づく。一連の出来事から、嫌でも頭に思いつく。


「さて、行先は向こう側、出発よ!」


試練を受けなければならない。


どうやら勘定は前払いらしい。いってらっしゃいの微笑みに送り出され、通り道へ出る。


会話はない。


ただ、エイリスを追って、人の往来の隙間を縫って行く。目前にそびえる壁は、空が恋しくなるような圧迫感を放つ。


けれど、試練の壁にプレッシャーを受けているのに、不思議と人の視線に気にならない。


音もない。


静か、という訳では無い。寝起きで意識がボーッとしている訳でもない。むしろ目が覚めてる。欠如だ。生活音のような、聞き慣れたはずの、あるべきはずの、音がない。


違和感。


今まで過ごした時間をあるがままに受け入れてきたこと、当たり前のようにその状況に対応してきたこと、感じていなかった感覚への違和感。


「……ここの穏やかさは、気に入らない?」


瞳。


振り返ったエイリスの瞳。


気に入らないわけではない。見慣れない土地、見慣れない衣装、見慣れない文化、それらに接することは好きだ。


だがしかし、心の底から楽しめているわけではなく、どこか自分の中で感じている違和感を気にしてしまっている。問題は自分の中にある。


見つめる瞳が映すのは、秘めた感情なのか、自分の心か。建物の影に入ることで、表情が怪しく見える。けれど、瞳は反射光を映して、いたずらっ子みたいに笑顔になって、


あ、


「準備はいい?」


手を握られていた。

引っ張られていた。


唐突で、

前のめりで、

踏ん張りはもう利かない。


影に踏み入ってしまう。


「まっすぐに……


通り道の真ん中で、

あったはずの壁は透明で、

魂だけを剥がし、


試練が招く。


浮遊感に包まれる。


痛み。


痛み。


痛い。


痛い、


目が開き、肺に息が入る前に、意識が痛みから始まる。手のひらで胸を押し付けるが、発生源は内側から刺す。


無駄であっても胸を抑える力を強める。悶える体に、地面の感覚で紛らわせようと擦り付ける。


咳が出る。むせる。呼吸は続けようとする。何かを吐き出したいけれど、吐き出すものがなく嗚咽するしかない。


手は汗で冷たく、身体中が汗ばんでいた。呼吸が深くなり始め、現状を理解することに努める。


手を握られる。


「何も言わなくていい、大丈夫だ。」


吸った息を吐きながら、差し出された手の方を見る。その相手は酷く怯えていた。


自分の苦しみに対してでは無い。何か別のもの。苦しんでいることは些細なことで、息を吐く瞬間、握られる手に力が加わる。


「あの、」


「大丈夫っ!?大丈夫ならもういいかいっ!?これで終わり!!でもっ!!あぁ!!でもっ!!どうすればいいのだっ!!」


乱暴に手を放り投げられる。冷静になる。目の前にだ、自分より先に居た者が、自分より酷く情緒不安定で危ない人間、それでもまぁ、助けられたし、


「……助けて頂き、ありがとうございます。安心し「ぁあ!!べつに、別に別にいいのさ!!代わりにかわりに教えて欲しい、ぁあ!!ダメです!!これ以上は、これ以上は耐えられない。何か教えて欲しいことはははは」


多重人格


まるで複数の人間が中に入っている不気味さ、演じている訳では無い、互いに互いを押し潰して、自我を表しているよう。


「そうだ。利用、利用するんだよ。ナマエさ……君の、名を名前を教えて」


その言葉には、先程までの軽さがなく、酷く重く耳に響く。教えてしまいたくなる妙な圧力があり、自分の身体的痛みより、目の前の危険から逃れたいと思ってしまった。


教えてしまったんだ。


「ハルト」


「ん……ふふっ……ふふふっ……ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、ふ?


止めろっ!!ち、ちがうんだ!!良かった!!ちがった!!これ以上はダメだっぇ……名前を、俺の名前は!?名前は!!名前は?俺が塗りつぶされたくないっ、消えたくな゛い゛!!僕に、私はなりたくなどっ、消え、たい、たくない、ない、たくない、ない、たく、たくたくたく、ぁあ!!


ここから抜け出すんだ!!」


奴は、ひどい走りで闇に消える。


その足跡は、地面の白い砂を巻き上げて残っていた。もう人影は見えない。自分の体に付着した砂は、無意識に暴れた時についたのだろう。


空は、黒い。

が、日照りを感じる。

空の青さだけを黒に染め上げてしまったようだ。


行先、頼れるものは、狂人の足跡。


向かう先から風が吹く。

砂粒が浮きはじめる。


はい。


そうですね。


……狂人って言ってすまんかった。寝起きに悪すぎた痛みもどうでもいい。ゆっくりジワジワと心を削る変わらない景色の方が堪える。


歩いてどれくらいだろう?


ん?


向こうで砂煙が上がっている。

近づいてきて……バッチコーイ!


人は寂しい兎なのさ。


ぼっちの悲しみにジワジワと心を削られ、人恋しくなってしまう寂しさの兎。1人では息しづらいから、隣に誰でもいいから酸素ボンベのように据えておきたいのさ。たとえそれが危ないヤツだっていい。人は脆い。壊れやすいからこそ繋ぎ合わせることで強固になる。初めは行き違いもあるだろうさ、しかしそんなのはただ出会いが悪かっただけ。人はそれを、友達って言うんだろう?


さぁ叫ぼう!


We are friends!


「るっせぇ!!【Rising Upper/龍翔】!」


うぐふっ……暴力的な好意もありますよね!


「きっめぇ、顎を響かせたのに笑っていやがる!?思わず止まっちまったじゃねぇか!ってか変人しかいねぇのか!」


立ち止まってくれったってことは、ほんの少しでも自分に気にしてくれたってことでいいってことですよね!つまり、ここから親しい関係を作ることだってできるはず。喧嘩するほど仲がいいとも言うだろう。目と目があったらバトルしようぜ!そんな言葉ができたくらいだ、俺の名前はハルトだ、さぁ試合うぜ!


「今の偽名だろっ!いい作戦だぁ。しっかし本っ当に出会う奴の癖が強ぇ!イイぜ、オレの名前はそうだなぁ、ドラゴンだ!果し状貰い受ける!!」


両足が地面に着くや否や、真正面から両手を後ろから前へ開くように広がり、何か来る!


【come on!DRAGON!】


竜の顔がオーラとなり、顕現する。そして右拳に合わせ、飛龍として射出しやがった!


竜牙が迫る。弾き返しッ嘘だろ!?この竜自体がただのブラフ!オーラはただの見掛け倒し!攻撃をいなそうとした棒は空を切る!


懐に踏み入れられ、砂が浮かぶ。


「本命はこの左拳だッ!爆ぜろッ【Rising Upper/昇龍】!」


You lose!


……さぁ、話を合わせよう。


先程の偽名ってのはなんだ?何かあったんです?俺も先ほど初めての遭遇を果たしたんですがね、これが普通じゃなくて話が通じなかったんですよね、それはもうロールプレイだったら100点満点の出来でぇ、ここまででどうです?


「おうよ、それはロールプレイの一環じゃあねぇぜ。俺がここに来た時は他にも数人いてな、とりま普通自己紹介って言うと、まぁ名前を言うだろう?それがダメだったのさ。」


……顔近くね?


「このゲーム、物語を知ることでスキルが使えるだろ。その理解ってのがよ、物語を知るって解釈が広くてな、ゲームの参加者も登場人物として扱われるらしい。」


密です。


「まぁ聞けよ。オンリーワンなスキルを持ってるやつがいたらどうだ?別にどうでもいいがよ、中には羨むやつもいる。そんで今回の仕様らしいんだが、名前を言うだけで相手のスキルをコピーするだけならまだいい。だが、取得した際の経験も流れ込んでくる、ここがミソな。」


1歩下がると近づくんすね。


「ある奴が沢山名前を聞いたらしい。まぁ便利そうだからな。」


ほう、それで?


「予想通り頭をヤラレちまった。言動がむちゃくちゃなんだ。考察した奴が言うことにはな、相手の経験した記憶が、いままでの自分の記憶領域を塗りつぶしているらしい。面白そうだからって志願した2人にな、相互理解深めさせたら双子になった。」


相互理解で双子?


「空気が凍ったね、性格も似通っちまった。俺もそこにいて検証してたかんな、ぶっちゃけると、俺も混ざりもん。元々はノリも悪くて、さっきみたい即興は出来ないんっすよね。まぁ、個人的には良かったがな。」


色々教える優しいお兄さんだな、


「各々で考えてな、もうここでやることはないだろうって結論づけて解散。笑える話、参加者同士についてはわかったんだが、こっから抜け出す方法がわからんのさ。」


俺も来たばっかでな、わからんぞ。


「自分を失ったやつは黒化して石になっちまった。それらはずっと動かない。自分の記憶が全部成り代わったら、それはもう自分が死んじまったってことなのかもな。」


ちなみになぜ一人?


「偽名なら、参加者同士で気付ここたァねぇよ。まぁ、ここには参加者しか見かけねぇけどな。」


俺はもう少し、走りてぇ。


そう言って彼とは別れてしまった。話したくないことの一つや二つ、八百万ありますよな。


お?


舞い上がる砂煙。

また、誰かが来たようだ。

俺はコールセンターじゃねぇんだぞ。


「俺の名前はドラゴンΖ!お前に名前を刻み込む者の名だ!」


なんでや!?考える時間をくれっ!?


【『ドラゴンΖの物語』が解放されました。】

【『参加者に関する知識』フラグ完了。】

【ドラゴンΖをレッドリストに追加しました。】


セーフか?乗るしかねぇ!この波に!


「俺の名前もドラゴンΖ!お前に名前を刻み込まれた者の名だ!」


「我が正義は騙されん!!【ドラゴンッビームッ】!」


なんて頭の悪そうな技だ!?


【『ドラゴンΖの物語』の理解が深まります】


要らねぇ!!ドラゴンッビームッ要らねぇ!!


経験値が頭に注ぎ込まれる。


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