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Alive Applicants  作者: 澱味 佑尭
ここから1章でええんか?
13/28

環状湖淵街ソルベーレイ編開始

「ガッハッハッ!それ食べたのか!」


「まぁずいったらありゃしねぇ。裏路地のの澱苔食った方がましってやつよ。うし、おばちゃん酒もう一杯!」


「あいよ!ったく失礼だねぇおい!そこ隣!飯は寝ながら食べるもんじゃないよ!客は詰まってんだ。動かないねぇ……やりな!!」


「「あいよっ!鼻からスープの刑!」」


「ンッごっフゥッ、ブベラっつ!何してくれてんだあんたら゛!!」


「おぅ兄ちゃん。……ここで道草食ってる暇なんてあるのかなぁ?帰れなくなってもしらんぞぅ?」


「……っ!?うるせぇ!これからなんだよ!これから゛ぁ!」


「見ものだねぇ。……さぁさぁ今日は、飲むんだろう?今日だけでもいい夢、見とくんだよ。」


トクトクと液体が注ぎ込まれる。喧騒広がる酒場の客席、を眺める2人の影が雑踏に流れる。


「アイツは?」


「ダメだな。ダメダメだ。あれはもう時を忘れちまってるよ。明日には潰れて、この砂漠じゃあ生き残れんわな。」


「ひ〜世知辛いねぇ。もう少し情をかけてやってもいいだろうよ。うまっ!この砂肝おいしいわぁあ!」


「砂遊魚に劣るたぁ浮かばれねぇな。まぁいい、こんな夜更けだ。俺は分かってるお前……夜が寂しくなったんだろう?」


「あんた竹串食べる趣味あったの?刺されて喜ぶとか、つくづく変態ね?」


「俺はいつでもオープンなのさ。蜜に釣られた虫は、俺の中でみんな生きてるのさ。俺は誘蛾灯なんだよ。」


「ほんっと嫌い。……うわぁ、吸い込むにしてももうちょっと品とかないの?グネグネして気持ち悪っ!寄るなウケモチ!!」


「お互い様だろうよ、ネクラ。さっきから食べてるそれ、綿みてぇなカビ生えてる。それこそ気持ち悪い。」


「わかってないわね〜。食べ物は腐りかけが美味しいじゃん。この微生物ちゃんが旨み成分を……うっま!おっ次の飯あれなんかどう?」


「ふぅん、程よく混ざってるな。素材そのものより味付けの方が濃そうだが、だからこその美味しさか。さあ、俺が手に入れてきてやるよ。」


男は店と店の間、人気のない路地裏へ滑り込む。そして、冷たい壁に身体を押し付ける、泥酔した女に声をかけるのだ。


「なぁ大丈夫か?ここなら風邪をひいちまうよ。なんならそこまで送ってくよ。なに、心配するな。帰り道が行きがけにあるんだ。だから、」


酩酊した女はその言葉を船こぎのように快諾する。女は見ているのではない。鼻で聞いているのだ。嗅覚で感じ取っているのだ。目の前から漂う安心感を。


「だからどうしようというのだ!」


言葉が響く。落雷が迸る。無精髭を携えた男が砂埃たてながら間に割り込む。街路の騒ぎを遠くへ置き去りにし、静けさだけが狭い路地を満たす。


「おぅ!こんな夜更けまでご苦労サマ。ご老体を働かせるほどこの街は難儀しているようだな。この栄華の真意は造花ってところか、なぁ?」


「幽玄の者と語り合う必要はあるかね?して、答えならばお主もわかっているだろうに。意地悪い童を年寄りの1人として説教してやろうではないか。」


「では、ご巧拙を伺いましたら御食事に御同伴してもいいですか?いいですよね?いいですね!ふふっ!ずるいわー、ずるいずるいズルいよ〜ウケモチ〜。1人で食べるなんてさぁ〜。いい腐れ具合だよ〜。」


「ふん。これから食事仲間で二次会というわけか。しかし道中拾い食いされても困る。なにぶん人手不足なものでな。」


「へいへい。ルールはルールだ。この街はまだ俺らを必要としていねぇし、ネクラ。お前も待て。どうやらソイツは役割持ちらしい。」


「……はぁい。不本意ぃだなぁ〜。食べ頃なのにぃ。だからさぁおじぃさん、もうちょっとだけぇ熟れていてねぇ?またねぇ。」


2人は背を向け堂々と歩を進め陰りを増して消えゆく。無精髭の男は面倒そうに宙を眺め、呟く。


「あぁ、なんだって自分勝手な星が増える。流れ星が群れてらぁ。嫌な巡りが来ちまった。そうは思わないか、タルス。」


「気づいていたかルドルフ。何時でも出れるようにはしてたんだが、どうやらただの気苦労に終わったな。それより地樹都市から封書が届いとる。」


ルドルフの立つ背側、どのようにしてその屈強な体を隠していたのか、タルスと呼ばれた男が封書を差し出す。


「いつぶりだ?地樹都市も災難よなぁ。忘れられない祭りの名残が悪さをしたってんだから。どんな名だったか……今度の祭りの名は、」


「「Alive Applicants」」


「……ふむ、報告によれば、若造は自覚が足らず、定着も仕切っていない。前夜祭はまだ始まっていない、か。どうやら西方での祭り、Mother Gooseが伝播してしまったようだな。」


「銀閃の騎士は最期に仇討ちを果たしたそうだ。永い闘いの果て1つの物語は終わり、これから新たな物語の始まりを告げようとしている。」


「未だ経過観察だがな。かつての歴史が紐解かれるか、新たな歴史を刻み込むか、タルスよ、今度はどの星に願いをかける?」


「……ふむ。一等星や二等星は輝きが強すぎる。あまり見えない星を気にかけるのもまた一興。酒場のあの酔いつぶれがどうにも……な」


「……あの者」『すみません!』


視線を声に移せば、夜更けに見かけるには珍しい、民族衣装に身を包む少女が息を切らし、少しばかり涙目で何かを伝えようとしている。


「……えっと……その勲章っ……委員会の方ですよねっ……私達キャラバン隊が管理する倉庫が、何かに壊されっ……」


「よかろう、環状湖淵街委員長、このタルス、直々に調査しよう。ルドルフ、ついてこい。」


「ひっ!?」


「お嬢さん安心せい。長生きしとる分そこいらの若造より頼りになるぞ。」


「……ではっこちらにっ!」


街灯に照らされた路地の合間を三人の影法師が吸い込まれるようにして消える。店の明かりも消え始める頃、酒場の客席、酩酊した思考、暗くなったカウンターで、男は空のジョッキを宙に掲げてガラス越しに星を見る。


ガラスに、反射する煌めきに魅せられるように、混濁した瞳が星に願いを望むように、口を大きく開けて、ジョッキの端から水滴が一筋、落ちる。


男はその口に含んだ1滴を噛み締めるように味わい、喉をひくつかせ、カスれた声を滲ませ、静かにため息を吐く。


「……砂かき人生……」


砂漠の風は砂を運ぶ。放置すれば砂は溜まり続ける。景観を保ち、都市機能を果たす上で砂かき仕事は大切なのだが、この都市ソルベーレイでは、最下級の仕事とされる。誰でも出来る仕事で子どもたちの小遣い稼ぎ、かつ市場勉強として利用されるため、賃金はそれほど高くない。一方で、今の男は砂かき名人としての需要があり、街の一掃除屋として名を馳せてしまっているのだ。


「……ないものねだりか?」


男は他の酔いつぶれ共の獲物を噛み締めるように見る。何もかもぶっ潰してしまいそうなハンマー、ギア式多変形ジャベリン、自分の目の前にはない、残された残飯。


人それぞれが得意の武器を持ち、連携して高給取りの化け物退治。中には、相手が使う能力を自分のものにする者がいるという。


「……抜け出してやる。絶対に。」


男は目を閉じる。


同じ暗闇を共有する がいる。


周りは全てが水辺、環状湖淵街ソルベーレイのその中心、波がたたない砂浜に、鱗をもつ少女はやや焦り気味に鼻歌を交えて、冷たい水と砂が足先の隙間をすり抜けるように足を動かすことに専念している。


現実逃避、


その言葉が適切に思えるぐらい動揺していた。少女の手の内には、部分的に欠落してしまった星屑の貝殻。経年劣化、とも言うべきその割れ方に少女は困惑の色を隠せない。



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