再脱走はお手のもの
「俺は無実だ!!」
ガシャン!
俺だ。今冷たい鉄格子の中にいる。何!?他種族の脱走犯がこの騒動の前にいただって!?俺が捕まっている理由は不平等である!断固としてここから出すことを要求する!
「エイリス様、ご無事でなによりです。」
「私を心配するのなら顔を背けないで。」
「エイリス様、大切な御身を守るべく、あちらの席へお願いします。」
「どうしてわざわざ風上側を移動するの?」
「エイリス様、我儘言わないでいらしてください。」
さてはあのライとか言う野郎、ワニの下準備が実は出来ていなかったにちげえねぇ。もしくはあいつの鼻がひん曲がっていたか。お気の毒様ってやつだな。
「何?何か言いたいなら言いなさい。ロリコン冒険者殿。」
うっ。くせぇ。わざわざ風上側に立ちやがる。自分の臭さを理解して利用する確信犯だ。俺は周りを同情するね。どうして姫様は……まさか、なんて噂されちまうのも時間の問題だろうよ。
「どんなに貴方が言い繕っても公衆の面前での行動は取り消せないわ。吼えられるのは今のうちよ。」
可哀想すぎて怒りなんて湧いてこねぇ。今お風呂に入りたいなんて言えば、民衆はこの事態になんてことを言い出すんだ、恥をしれと言い出すだろうよ。それを見越して姫さんは臭いまま。あぁ可哀想な臭姫様。
「ぐぬぬぬ。」
おいおい仮面が取れちまうぞ?クローゼット女。いや、エイリスちゃーん?
「街の復興が終わるまで貴方はその中。先に独房に入れてしまいましょう。お願いします。」
くそっ俺は諦めないからな!必ず自由を取り戻してやる!絶対に!絶対にだ!クソォォォ!!
「なんであんなフリをするのか理解に欠けるわ。どうしてあんなやつの友達に……」
「エイリス様、彼とは友人関係なのですか?」
「チーフ様はどう思います?」
「……エイリス様、苗木はどうされたので?」
少しの沈黙の後、何かを諦めたように呟く。
「盗られちゃった?」
「なんですと!?」
▼△▼△▼△
俺だ。
以前抜け出した独房にいるの。
あとは、わかるだろ?
滑る!滑る!一回転する!
そして射出!
『水運』発動!
ジェットスライダーの如く滑り降りる!
壊れた木箱を粉砕!
異形の生き残りは螺旋槍!
一般ピーポーも危ねぇ!
「テメェどこ見て滑ってんだ!」
「すんませんしたぁぁぁ!?」
しっかしあれだな、あんちゃん逞しい腕してここで何してんだ?鍛えてんのか?お?
「そんなもんだ。今店で仕込み中なんだよ。あの化け物が色々かっぱらっちまったからな。」
食料難って不味くね?怒涛の勢いで運んでたしなアイツら。ぜってぇー許さん。許されへん。
しかしあれだな、仕込みって言う割には外で何してんだ?
「見れば分かんだろ?暖簾を作ってんだよ。あの化け物が壊して行ったのか、こいつぁもう使えねぇ。床に落ちちまったのを流石に客に潜らせるのは飲食店の俺の心が持たねぇ。」
そう言ってうす汚れまとまった布を指さす。洗えばもう一度使えると思うのだが。
「分かるぜその考えは。だがなぁ、汚れは人のくぐった歴史でもある。だからこいつぁ洗うに洗えねぇのさ。」
「これから街並みはまた新しくなる。一斉に徒競争だ。そんとき以前行ったあのお店としてわかりやすいように掲げる。暖簾は客の信用。来るか来ないかで自分の程度が知れるもんよ。ま、坊主にはまだ早ぇ〜か!若者は他んとこ手伝ってこい!しっし!」
1つ勉強になった。
次はどこへ行こうか?
この街は復興途中とはいえ初めての土地。
まだ見ぬ世界を求め路地裏を覗いて……
白い幾何学模様が目の前で蠢き見慣れた漢字が交通事故を起こしている。
『精霊』め!
ここであったが数時間前!
パワーアップした俺の力を思い知らせてやる!
『破砕の剣』!『螺旋槍』!
【fumble:対象に打ち消されました】
【熟練度を上げてください】
何故……システマチックなモノなのか!?俺はお前の玩具じゃねぇ!戦略的撤退!破斬剣!からの地面スクロール!
チィ!奴ら同じスピードでケツを焦らせやがる。直角カーブは『水運』でほとんど速度を保ったままだってのによ!
右へ曲がれ!
右に曲がれ!
右に行くぜ!
右に見せかけて右!
クッ!どうしたら人通りの多い所に出られる!?しかし出たとして俺は脱走犯。新たな厄介ごとを引き寄せるに違いなく、困ったものだ。
あの小さな影は!!
我光明得たり!
ちびっ子!助けろ下さい!!
「ひゃだ!年上なんだから自分で何とかしてよ!?精霊様に襲われるなんてやっぱりあなた邪悪でしょ!!」
襲われているんじゃあない。懐かれていると言え!誰が邪悪だゴラァ!!
「大人は年下にそんな感情をぶつけないわ!それと着いてこないで!今来たら後悔するから!」
心の声を止めることが大人になることなら、俺は大人になんてならない!声をかけることでしか伝わらないことがあるからなぁ!
「そういうのはケースバイケースって言うんでしょ!?だからあなたはもてあそばれるんでしょ!」
お、俺はそこまで精神が子供じゃねぇ。愛と勇気を志す、少しわんぱくが過ぎる少年ってだけだ!
「子供でしょうが!あ!?」
よーし!!いつぞやの小屋に着いたぜ!
『精霊』の野郎ももういねぇことだ。
俺は寝る!
「ここで寝たら体痛めるよ!?あ、エイリスお姉ちゃん来ちゃダメ!?」
「……どうして外にいるの。あんた。」
スヤァ……
▼△▼△▼
ピピ……
ピピピピ……
ピピピピピピピピピピピピピピ!
カチッ!
……流石夢、なんでも出来るな。
んん……お、パソコンがまた点滅してる。
どれどれ?
『ファイル__03:693KB』
『ファイル__04:715KB』
『SalvagePicture:2枚』
新しい物が増えている。
『ファイル__03:693KB』をクリック。
鏡をバックに少女と写真に映る小さな少年。
少女が少年の後ろに隠れるように立っている。
鏡に俺のアニメテーシャツの後ろのロゴが映っている。昔はよくこのゲームで遊んだものだ。
『ファイル__04:715KB』をクリック。
夕暮れに沈む太陽とその光に照らされた木々。
門限までに間に合うようにこのぐらいの時間帯によく走ったかな。
『SalvagePicture:2枚』をクリック。
1枚は薄蒼の刀身を杖にしてその剣をどこかに腰掛けながら眺めている。見たことない木と数個ある月を背景に刀身が反射するのは少年心を揺さぶる。
1枚は地平線が見えない程広がる海のようだけどとても透き通っている水辺に星屑の貝殻を頭に装飾した少女が朗らかに顔を緩ませて座っている。腕の乳白色のガントレットも随分似合っているが、この国は地球のどこにあるのだろうか。
こんなに透明度が高い水はほとんど空にいるのと変わらないくらい透き通っていて、魚が泳いでいたら空を飛んでいるように見えるだろう。
この『SalvagePicture』を見ていると何かを思い出せそうでそうでもない。この写真が嫌にリアルで本当に存在するとしたら有名な観光地になっている事だろう。インスタばえとか言ってニュースに取り上げられる事だろう。
この画像を見た後ならこの景色の世界を夢の中で見ることが出来てしまうんじゃないかと想像して、それは面白そうだと思った。
よし。
もう一度寝よう。




