世界中の人々から足蹴にされることに成功したドMな賢者はここにいます
魔物が闊歩し、人々を蹂躙していた世界を救った勇者パーティーがあった。
そのパーティーの一員だった偉大な賢者は、地球という異世界から来た男だった。
世界が救われた後、男は人々から惜しまれながらも、元いた世界に戻っていったのであった。
賢者としての異能を携えたまま。
「俺の賢者の力があれば何でもできる……! 一体何をしてやろうか……!」
男の賢者としての異能は本当に何でもできるほどに万能であった。異能を駆使すれば、金持ちになることも、魔法という武力で世界を手中に収めることもできたであろう。だが、一つだけ問題があった。
「なんてことだ! 地球ってところはどうしてこうも魔素が少ないんだ!」
賢者としての異能を発揮するのに必要な魔素が、異世界とは異なり地球には少なすぎた。
勿論、賢者である男は自らが大量の魔素を貯蔵しているため、周囲の魔素が少なくても、魔法の行使は本来は造作もないことだった。
しかし、地球に戻ってくる際に大量の魔素を消費したため、男の体内にはもうほとんど魔素が残っていなかった。
「残った魔力では大魔法を一回使うのが関の山だ……。ちくしょう! 折角、魔法を使って地球でやりたい放題しようと思ったのに! これじゃあ、世界中の人々に踏まれるという俺の夢が叶えられない! くそう、可愛い女子高生に、年端もいかない小さな子どもに、ダンディーな紳士に、荒っぽいギャルに……! あぁ、ありとあらゆる人から踏まれたかった!」
男は悔しさのあまり拳を地面に叩きつけ、オンオンと泣いた。
しかし、男はふと気がついた。
「待てよ……。常に世界中の人々から踏みつけられている存在があるじゃないか……!」
男が思いついた方法、それは……
「俺が地球になる事だ……!」
男は血走った目で地面を見つめながら、叫んだ。
「すると同化魔法か。それを無生物で多様な物質で構成され、かつ規模の大きい地球という存在に行使するのは難しいが、賢者の俺に不可能はない! うおおおおお!」
男の体が眩い光につつまれ、男は地球と一体化した。
人々が生活を営む地球。その地球が日々の人間活動に興奮を覚えている事を誰も知らない。
「うひょう! あぁ、大きくとも動けない俺を全世界の人間が踏んでいるぅ! おおう、今度は身体が削られているぅ! 俺に地下鉄が作られちゃうーー! アッーー!」
地上の人々にとって、この事実は知らないままの方がきっと良いだろう。