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第21話 気取った語りと消えた狩人

 


 立ちはだかるは怨嗟の潜む人骨でその身を装飾した白い狂者たち。

 立ち向かうは少女を小脇に抱えた狩人がひとり。


「止めろ、狩人だっーー」


 ーーハグルッ‼︎


 魔法が一発。


「時間を稼げぇえー‼︎」


 ーーハグルッ‼︎


 魔法が二発。


「<<汝穿つーー」


 ーーハグルルッ‼︎


 魔法が三発。


「ぁーー」


 ーーハグルルゥッ‼︎


 魔法が四発。


 白き狂宴の使徒たちは多勢。

 高い神秘力を秘めた魔の使い手も少なくはない。

 されど戦力差は歴然。

 長く厳しい研鑽、積み上げられた人間の(わざ)


 業を持って人となり、業を持って人を超えた狩人よ。

 あぁ、人間のなんと素晴らしいことか。

 対し偽りの信仰で己を騙す愚者に勝機無しーー。


 ー


 狩人アーカムは智慧の棺の支持者たちをバッタバッタとなぎ倒し、チゲっては投げ続けた。

 無双も無双、もはや無双すぎて夢想転生しそうなほど無双したアーカムとテルマンティの2人組は、いよいよ地下遺跡の最深部らしきエリアにやって来ていた。


 地下遺跡にも関わらず、地面に水脈のようなものが流れる路が設けられていたり、石畳みの敷かれた地面がより緻密なデザインのものに変わってきていたりする遺跡深部。

 これまでの遺跡よりも壁面や地面に施された彫り物に、神聖な印象を抱かせる働きが強くなっている。

 無信仰者のアーカムには大した興味はないのだが、狩人の知識として、これらが信仰対象への信仰心を煽る働きがあることは知っていた。


 さらにアーカムは仕事柄、地下遺跡の探索などはそれなりにやっている方ではある。

 彼の様ローレシア魔法王国は有数の遺跡国家なのだ。かの地にはかつて神々と共に共生した文明の片鱗を思わせる遺跡が大規模に展開されている。

 その大きさは未だ専門家たちの間でも予測ができないほどに、大きいと言われる程だ。


 地下遺跡でなにかあった、あるいは起こると推測されて時は間髪入れずすぐに暇してる遊撃狩人が送り込まれる手はずになっている。だからこそアーカムは遺跡に強いのだ、仕事柄で。


 そのため彼は経験値で得た独自の知見、その傾向から、この遺跡は「何か」を祀っていた、あるいはその「何か」のお墓であるものと推測していた。


 まぁ、「何か」については十中八九「智慧の悪魔」とやらで確定だろうと予測できる。


 薄暗い闇の中で気配の動きに注意しつつ、アーカムは小脇に抱えた、持ち運びに便利なテルマンティのポジションを調整する。


 少女はとても不満そうな顔をしてアーカムの方を見ていたが、しばらくすると自分が足手まといになっている事を自覚したのか観念してうなだれた。

 可哀想だが、それがベストなのだ。


「む。なんか空気が変わったな」

「ですね。近代文明の面影を感じますよ、シバケンさん」


 幻想的な「智慧の棺」アジト最深部を進んでいると、場の雰囲気が変わった部屋に辿り着いた。

 広さは高校の時を思い出させるような教室程度か。

 場の雰囲気が変わったーー。

 それは具体的に言うとそれまでギリシャで見れそうな石造の遺跡だった空間の中に、急に現代異世界人が使いそうな物が紛れ出したのだ。


 地下遺跡に後から置かれたと思われる木の棚、そこに煩雑に突っ込まれた数多の蔵書。

 金属製なのか、サビの目立つ不衛生な寝台に木机、何やら怪しい汚れたガラス製容器の数々。

 灯りは魔力灯の類いなのか、怪しく青白く光るランタンがいくつか規則正しく地面に直置きされていた。

 地下空間だというのに飛翔する虫が何匹か確認する事できる。


 錆びた金属製寝台といい、生臭さ、はびこる湿って淀んだ空気、それからどことなく石造の地面も泥が溢れ湿り気があり酷く不衛生だ。


「この臭い……」


 刺激臭が狩人の鼻を感知した。

 アーカムは鼻をつく嗅ぎ覚えのある臭いに眉をひそめる。


「うーん、私が魔導書盗んだ場所はもっと綺麗な感じの書斎でしたけど、ここは汚いですね」

「金属の寝台......何かの実験でもしていたのか?」


 小脇に抱えられたままテルマンティは青白く照らされた部屋の感想を述べた。

 アーカムは内心で少女に同意しつつ、暴力と負の感情渦巻く部屋に警戒を高めた。

 より一層きつく脇を締める。


「ん? アレは一体なんでしょうか……?」


 テルマンティは自動的に移動する視界の中、腰の高さの目線で「何か」を捉えたようだ。

 アーカムの操縦によって、その「何か」の近くに寄っていくカメラ・テルマンティ。

 暗い部屋でだんだんと全体像が明らかになり始める。

 少女視界に入ったのは黄土色に黄ばんだシミのついた寝台だ。いや、さらに上に寝かされている者に彼女は気がついたようだ。

 少女は同時に声にもならない悲鳴をあげていた。

 年齢を考えれば当然だろう。


「ッ‼︎ ぁ、あ、し、シバケ、シバケンさんッ‼︎」

「あぁ大丈夫だ。わかっている」


 バタバタともがくテルマンティ。

 アーカムはただ黙って少女を離さないようにし、手のひらを少女の視界を覆い隠すようにして被せた。

 この光景はあまり子供に見せるようなものでは無いからだ。


 狩人は黄ばんだ金属寝台の前で背筋をピン伸ばした。

 意識したからではないだろう。

 彼の誇りが自然と彼自身にそうさせたのだ。


「……遅くなった。ラオ・ファンデル」


 狩人は(ささや)くように、喉元から絞り出すように言葉を紡いだ。

 そしてそれだけ言うと瞑目し口をぎゅっと結び、ただただ黙してその場に佇んだ。



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