第20話 狂人と早撃ちの魔術決闘者
テール作の隠し道洞窟的な雰囲気とは違う人工の通路を行く。
ある種遺跡のような石造の広い通路だ。
プレデターとエイリアンが戦ってててもおかしくはない。
実際には「遺跡のような」ではなく、正真正銘本当に遺跡らしいのだけど。
「うわぁ‼︎ シバケンさん気をつけてくださいね‼︎ 頭ぶつけちゃいます‼︎」
「お、すまん。よしよし怒らないでなぁ〜」
「むむ、ゆ、許してあげます‼︎」
アーカムはテルマンティの頭を撫でなでして機嫌取り。
それで抜群の効果を発揮してアーカムを許してしまうのだから、テルマンティもテルマンティだ。
狩人は大分この少女の扱いに慣れてきたらしい。
アーカムは小脇で小さくなっている桃髪の少女をそこら辺にぶつけないように慎重に歩みを進めていった。
テールにはより深部へ向かう方法を聞いているので、とにかく奥へ向かう、というだけならば彼の案内無しでも可能なのであった。
「気配がこっちにくるな」
「ッ、敵ですか⁉︎」
アーカムは歩くペース崩さずに呟いた。
自身の膨大に張り巡らした知覚で常時把握してる気配のひと組が、自分たちの真正面の通路の角を曲がってくる事に気がついていたのだ。
小脇でだらりとなり、されるがままになっていたテルマンティは慌ててもがき、降りようとする。
アーカムはもがくテルマンティを通路の上に下ろしてやり、どっか行かないように少女の手を握った。
彼としてはエレナからおもりを頼まれてしまっているので、「こんな敵地の真ん中で迷子にさせるわけにはいかない‼︎」気持ちからくる、非常に理屈的な意味合いの手繋ぎにすぎない。
が、乙女な桃髪はそんな風には思わったらしい。
頬を朱色に染めて握り返し、しゅんと大人しくなっているのがその証拠だ。
「よし、とりあえず手を離すなよ」
「俺に付いてこい……? やっぱりシバケンさんって私のことが……」
薄い胸を押さえて自身の鼓動を感じるような仕草で独り言をつぶやくテルマンティ。
高鳴る鼓動は恋の予兆か、はたまた妄想の産物か。
十中八九、後者だろう。
アーカムは完全に桃髪の少女の言葉を聞いておらずなんの反応もしない。
ただ、ひたすらに接近する気配への対処方法を考えているのだ。
さて、どうしようか。
殺しても良い、どうせイかれた狂人だ。
が、最奥までイマイチ距離がわからない。
ここで騒ぎを起こすべきか、どうかーー。
数巡の思考の末、狩人はとりあえず一定のプランを練り終えたようだ。
アーカムはひとつ大きく息を吸って角を曲がってくる2つの気配に備えた。
「ん?」
「あ?」
2人の男がアーカムとテルマンティの視界の先で角から現れた。
すると、狩人と幼女の姿を見るや否や困惑気味な声を出した。
白いゆとりのある貫頭衣のような服を着た2人組みの男たち。
アーカムは彼らが首に掛けている物に注目した。
彼らが身につけていたもの、それは明らかに人の頭骨を加工したと思われる悪趣味なネックレスだ。
あぁ、そうか。
やっぱりそっちか。
狂人どもが……。
狩人ほ目つきを鋭く、心の中で静かな憤りをたたえて、腰の杖に手を伸ばした。
そして彼は敵がイカれていると断定することで、ある種、やりやすくなった、と密かにほくそ笑んでいた。
アーカムの悪い癖である。
「推して参るッ‼︎」
「ッ、誰だ貴様ぁ‼︎」
「まさか、狩人……⁉︎」
2人の男のうち勘の鋭い方がアーカムの正体に気がついたと同時ーー。
狩人は紅い瞳をギラッと光らせ、何百万回も繰り返した慣れた手つきで杖を抜く。
それは人が息をするように、いずれ二本足で歩けるようになるような、ごく自然なモーションだった。
それら一連の動作は、ある面では西部のガンマンたちが果たし合いで行ったとされる早撃ちーーファストドロウにとてもよく似ている。
ーーハグルルッ
独自の魔力のうねりが不可思議が音を発生させた。
その事に周りの人間が気がついた時、そこには魂の抜けた抜け殻のようになった男が2人倒れこんでいた。
瞬間2発、人間の知覚を超えた早撃ちである。
「す、凄い……」
あまりの早業と極めて短いインターバルで放たれた魔法、そしてその精度と威力ーー。
魔術師であればその全てをひとつずつ賞賛しなければ気が済まないであろう場面だ。
高次元の魔法だった。
いや、魔法自体はそこまで難しいものではない。
すごいのはその魔術戦闘力だ。
桃髪の少女はあまりにも狩人の魔法が素晴らし過ぎるが故に、感動して一言だけ言葉を発した。
あるいは一言しか発することが出来なかったのかもしれない。
ただ心に湧いた率直な感想、凄い、としか言葉を発することしかーー。
それ程までにアーカムの魔術決闘者としての実力は凄まじいのである。
「いくぞ。手を離すなよ」
狩人は静かな、されど厳かな声音で少女に告げた。
戦闘に入ったためか、先ほどよりも幾分か落ち着いて見える黒髪の少年にテルマンティは黙ってうなづいた。




