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貴族令嬢なんて、辞めてやりましたわ!  作者: 綾野 れん
ドルンセンの町で
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第7話 お母様から頂いた力


 町の水源は、東西にそれぞれある二つの井戸に加え、中央に造られた井戸があり、そしてさらに、町から西に半里ほど離れた所にある湧水泉も一応は数に入る。


 そしてあとは、その各場所から採取した水の内容を確かめれば、私の中にある一つの疑問が解けるかも知れない。

 こんな時、お母様から教わった錬金術と薬草学の知識が、大いに役に立つ。

 やはり実験器具の幾つかも持ってきておいて正解だった。


「メル、言われた通りにベリーの汁をここに貯めておきましたよ!」

「ありがとう。あとは私に任せて、エマたちと一緒にお弁当を食べていて。きっと二人共お腹が空いているはずだから。飲み水は水筒にあるものを使ってね」

「列車内で買っておいたものですね。少し多めに買っておいて良かったですよ」


 ――パルマベリーの汁から水溶性の薬効成分のみを抽出し、それをさらに凝縮することで解毒剤を精製する。加えてその一方で、町の水源から採取した水には溶媒を加えて成分を分離。私の推測が正しければ、この水からは悪気ミアズマではない、純粋な毒の成分を得られるはず。


「ねぇ、リゼお姉ちゃん、メルお姉ちゃんは窓の近くで一体何をしてるの?」

「あぁエマ、メルは今ああして病気の原因を調べつつ、同時にそのお薬を作ろうとしているのよ」

「そうなの? メルお姉ちゃんって、すごいんだね!」

「ええ、それはもう。何といっても私がずっと仕えてきた御方、ですから……」

「つかえてきた、おかた……? それって何のこと?」

「あっレナ、それはね……えっと、難しい話だから、今はお弁当食べよっか!」


 ――全く、賑やかなものね。聞いていても飽きないわ。

 でも、このありふれた光景が今、壊されようとしている。

 自分から乗りかかった船だもの。必ずやり遂げて見せるから。

 

 

 ***



 ――作業完了。


 錬金術で用いる試薬の粉末を、井戸から得た水から特定の成分だけを抽出した薄黄色の液体に注ぐと、それはたちまち青色へと変化した。そしてこの反応は、同液体の中にある成分が人体にとって有毒であることを明確に示す証左となる。


 手持ちの器具だけでは毒成分を特定することは不可能だけれど、エマたちの状態を鑑みるに、このパルマベリーから精製した解毒薬を使えば、今も町人たちを苦しめている中毒症状を鎮めることがきっと出来るはず。あとはその効果を実際に確かめれば良いだけだわ。


「メル、ひょっとして作業が上手くいったのですか?」

「ええ。上出来よ。これから、この町を襲っている病の正体を見せてあげるわ」

「ねぇメルお姉ちゃん、そこに入ってる黄色いお水は、何のお水?」

「ここには井戸の水から取り出した、病気の原因になるものが入っているの。皆、この液体の色を良く見ていてね」

「……わっ、お水が青色になったよ!」

「これはね、人の身体にとって悪いものが入ってると、こういう反応を見せるの」

「あの、メル……これって、井戸水に誰かが故意に毒を流したということですか?」

「確かなのは、リゼたちがベリーを採集している間、私はレナと二人でこの町の水源を調べていたのだけれど、町の外側で採取した水からはそもそも毒成分と思しきものが一切得られなかった、ということよ。むしろ普通よりずっと綺麗なぐらいでね」

「となると……いよいよ、その法外な値段で薬を売っていたっていう商人が怪しくなってきませんか?」

「ええ、でもこれは一人で出来ることではないはず。きっと他にも協力者が居るはずだわ。けれど、今はそれより――」


 この即席の解毒剤が本当に奏功するかどうかを確かめなければいけない。

 まずはエマとレナのご両親に服用してもらって、その有効性を実証しなくては。


「エマにレナ、二人のご両親に、私が作ったお薬を早速飲んでもらおうと思うのだけれど、今から二人のお家に伺っても構わないかしら?」

「メルお姉ちゃん、パパとママの病気を治してくれるの⁉」

「ええエマ、もちろんそのつもりよ。元はあなたたち二人から手掛かりを得て作ったお薬なのだから、きっと良く効くはずだわ」

「ほんと……? それなら今すぐお家に戻って、お姉ちゃんのお薬を飲んでもらわなきゃ。ね、レナ!」

「そうだね、きっとよくなると思う。リゼお姉ちゃんも一緒に行こうよ」

「あ、うん。私も行くよ!」


 ――大切な人を失うことへの恐怖と痛みは、とてもよく知っている。

 だけどあなたたち二人がそんな想いをするのは、何十年も先で良い。

 お母様から頂いたこの力を使って、私が必ず、救ってみせるからね。



 ***



 エマとレナのご両親は随分と衰弱した様子だったけれど、何とか間に合った。

 身体の調子が元に戻るにはある程度の時間を要する反面、症状の改善は割とすぐ確認できるだろうから、その間に他の町人たちにも同じ薬を服用させなければ。


「ねぇエマ、ここでしばらくレナと一緒に、ご両親のことを看ていてもらえるかしら。私はこれからリゼと二人で町中を別々に回って、まだ同じように苦しんでいる人たちに薬を配って回りたいの。一通り配り終えたら、またここに戻ってくるから」

「うん、分かった。じゃあここでレナと一緒に待ってるね! パパとママ、早く良くなるといいけど……」

「きっと大丈夫よ。私たちが戻って来る頃には、二人から良い知らせが聞けるのを楽しみにしているわ。それでは、また後でね」

「ん……いってらっしゃい!」


 ――ここからの行動には、二つの大きな意味がある。

 一つは、一人でも多くの町人に、救いの手を差し伸べること。

 そしてもう一つは、裏に潜んでいるものを、表に引き寄せること。

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