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貴族令嬢なんて、辞めてやりましたわ!  作者: 綾野 れん
幕間 リゼと私と
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幕間 第8幕 はじめてのおともだち


 ――お父さまとお母さまは、いつもとってもおいそがしい。


 お兄さまは学校にいって、もどってくるのがおそいから、私はいつもひとり。

 ひとりは、なんだかさみしい。だけど、今日からはそれもおしまい。


「えと……はじめ、まして。メルセデス、さま。私は、リーゼロッテです。今日から、ここでおせわになります。あの、よろしく……おねがい、します」

「りーぜ、ろって? じゃあ、リゼね! これからあなたと私は、ここでいっしょにくらすのよ! まずは私がこのおうちのことを、ちゃんとおしえてさしあげるわ」


 お母さまは、きょうからこの子といっしょにあそんだりべんきょうしたりできるって言ってた。二人ならさみしいきもちははんぶんこに、うれしいきもちはずっと大きくなるって。だからこの子にあえるのを、私はすっごくたのしみにしてた。


「リゼ、ここが私のおへやよ!」

「わぁ……あっ、とってもおっきなおふとん! いつもここでねてるの?」

「そうよ! リゼがねてたおふとんは、もっと小さかったの?」

「うん……ほかの子たちとね、いっしょになってねてたの」

「ふぅん、リゼのおうちはこじいん、だっけ。そこにいたんだよね?」

「そうだよ、私とおなじで、みんなお母さんやお父さんがいなかったの」


 お母さまが言うには、リゼはこじいんとかいう名前のおうちにすんでいて、いもうともいたけど、リゼがここにくるよりもまえに、ほかのおうちにいったみたい。


「ねぇ、リゼのお父さんとお母さんは、どうしていなくなっちゃったの?」

「まえに、ずっとあめがふっていた時にね、近くのお山がくずれて、私のいた村をのみこんじゃったの。その時、私と妹はアジサイっていうお花がたくさん咲いているとこを見にいっていて、だいじょうぶだったんだけど……おうちがつぶれちゃってた」

「そう……なんだ。ねぇ、リゼはお花、好きなの?」

「うん、きれいなお花とかとっても好き、だよ」

「ふふ、ならおにわにつれていってあげる!」


 ――おにわには、色んなお花がさいている。

 

 お母さまもお花が大好きで、ほかの国のお花のたねをもらってきて、このおにわでいっしょに育てた。お母さまは言ってた、お水とひりょうと、おひさまと……あと、やさしいきもちがあれば、どんなところだって、お花はきれいにさくんだって。


「わぁ……お花がこんなにたくさん! お花ばたけみたい!」

「いいでしょ! いつもは、にわしさんって人がおせわしてるんだけど、私もときどきてつだっているのよ!」


 おうちで一人でいるときは、よくこのおにわにあるベンチにすわって、お花を見てた。ここにいれば、さみしい気もちがどっかにいっちゃう感じがしたから。

 それに私のおはなしだって、ちゃんときいてくれてるみたいで。


「ねぇ、これは何ていうお花?」

「それは、バラというお花よ! 私とお母さまが一番好きなお花なの」

「ばら……そうなんだ、とってもきれいなお花だね」


 バラはきれいだけど、ちゃんとお手いれをしないとすぐだめになっちゃう。

 前に私が水をいっぱいやりすぎちゃった時も、げんきをなくしちゃってた。

 だから今は、お母さまがつくったお薬もつかって、だいじにおせわしてる。


「ふぅん……じゃあ、こうしてきれいに咲かせるのって、むずかしいんだ?」

「うん。でもお母さまは言ってたよ、私たちとおんなじだって」

「ん、私たちと……おんなじ?」

「まいにち、だいじにおせわしないと、すぐにかれちゃうって」

「すぐに、かれちゃう……」

「そう。水やお薬をやりすぎてもいけないし、ひりょうをいっぱいあげてもかえってだめになっちゃうこともあって。ほら、私たちだって、おやさいをたべずに、おいしいものやあまいものばかり食べてたら、びょうきになっちゃうでしょ?」


 ――それに、お花だってひとりでさいてるより、こうしてみんなといっしょにさいているほうが、ずっとうれしそう。はれの日も、あめの日も、いつだってみんながそばにいるの。


「だからね、リゼ。私はこれからリゼのこと、たいせつにするから!」

「え……? メルセデスさまが、私を?」

「うん。だからリゼも私のこと、たいせつにおせわしてね!」

「メルセデスさま……うん。私、これからメルセデスさまのこと、たいせつにおせわする!」

「ふふふ、これで私たち、もうおともだちよ!」

「うん! 私とメルは、おともだち!」


 ――リゼ、私にとってはじめてのおともだち。

 私がリゼを、リゼが私を、いっしょにおせわしあうの。

 そうすればきっといつでも、一人じゃないっておもえるから。


「じゃあ次は……ひみつのばしょにつれてってあげる! こっちよ!」

「あっ……」


 にぎったリゼの手は、とってもつめたかった。

 だけど、つないでたらどんどんあったかくなって。

 なんだか、うれしいきもちがおおきくなっていった。


 ――お母さまが言っていたことはやっぱり、ほんとうのことだったんだ。

 リゼもきっと今、私とおんなじきもちなのかしら? そうだと、いいな。

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