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偽勇者として生きる  作者: 玉亀
序章
1/2

二人の勇者

―――この墓には、誰もいない。


 墓というには粗末な石塊に青年は何度も剣をぶつける。ガキンと耳障りな音が辺りに反響する。その度青年の後ろで傍観する者たちは顔をしかめる。


「ねぇ、もう行こうよ」


 誰かが青年の背中に声をかける。


「なぁ、聞いてんのかよ」


「人の話を聞くときは相手の目を見るのが常識でしょう」


―――うるさい。


 青年は一心不乱に剣先で石塊に何かを刻んでいる。否、彼は刻まなければならないのだ。この村の人たちはこの村を救った勇者が()か知らない。そして勇者の()()を知らない。

 そして、誰も《彼》の死を悼むことはない。そう、彼を最後に見たのはここにいる中では青年だけだ。《死体は見つからなかったんだ、もしかしたら生きてるかも》と希望を抱ける仲間を羨ましいとさえ思っているだろう。

 彼の形見とも言える剣はまさに聖剣の何ふさわしいほど刃こぼれ一つしていなかった。


 《親愛なる我が友 勇者リュート 永久なる安らぎを》


―――死んだなんて書きたくなかった。もしかしたら生きててくれるなら。


「今度は幸せになれるといいね」


 書き上がった文字をなぞる。先をせかす仲間を振り向き()()は頷いた。

 目の下には隈があり、泣きはらした瞼は腫れて、涙を流してふいてを繰り返した頬は赤かった。


 さて、この世界の話をしよう。この世界には倒すべき魔王はいない。

 ただ世界を救う聖剣があるという伝承のみ。いつからあるのかなんのためにあるのか。それすらもわからない。

 この世界は五つの種族が存在する。鬼族、神族、魔族、精霊族、そして無能。無能と言われる一族は何もできないわけではない。ただ、鬼族のように力強いわけでもなければ、神族のような再生能力もなく、魔族のように火や雷を自由に操れるわけでもなければ、精霊族のように地震や洪水を起こせるわけでもない。たったそれだけだ。故に4種族から無能と呼ばれている。

 だが、どういうわけか、この聖剣が選ぶのは無能と呼ばれる一族だけなのだそうだ。


 これは、勇気と呼ばれるにはふわしくないクズが聖剣を持ってあてのない旅をする物語である。

人類皆変態

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