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帝国の反攻

「霊剣操だけではジャクラン達に対抗できない」

 一年半前から、西姫は国術院の錬成館の中で自分との戦いを繰り返していた。そしてようやく完成したのが、霊剣操結界複合共振。霊剣操の三型とも言うべきもので、すなわち結界内励起と結界間共鳴だった。一つの霊剣操による結界内励起、外縁へ染み出す波動、隣接結界の共鳴。これらにより、すべての結界を共鳴させ、結界内の武器を意のままに従わせる技だった。


 ………………………………………………


 西姫は、絶姫に深手を負わされた左腕がまだ完全に治ってはいなかった。

「このままではジャクランには勝てない。絶姫も取り戻せない」

 悩みの中にあって剣のわざを磨き、新たなわざを編み出す。内なる混沌の中にあって陰陽二極を洗練させ、新たな動きを生み出す。それらを繰り返し探し求めたのだが、その中に答えはなかった。

 剣の形に沿って技の形を変える。構えを変え、動線を変え、振り抜ける終局点を変えた。そこにも答えはなかった。

 初心を思い出し、生き方を変え、今を心に刻む。そこにも答えは無かった。

 西姫はふと心の奥に刻まれた今までの自らの生き様を思い出した。


「あなた……」

 その言葉は、西姫として生まれる前に九尾狐クビルが幾重にも重ねて来た輪廻の旅ごとの苦しみの記憶、悲しみの記憶だった。それによって西姫は九尾狐クビルという本性の中に技のきっかけを見出した。前世の記憶、つまり心をえぐる愛する人との別れと戦い。思い出した前世の記憶は、もう一度その悲しみを経験させる現実感を伴っていた。その時、手に握りしめた剣が周りの結界を巻き込んで共鳴し始めていた。そのとき、西姫はクビルの本性と姿に変幻し、さらにはクビルとなる前の人間だった時の姿に変化した。その姿になって西姫はやっと結界内励起と結界間共鳴を手にすることができた。

 その時から、西姫は技の発動ごとに身を切る様な前世の記憶と感情の波の中に己を沈ませ、前世以前の異なる姿に変幻しつつ練習を繰り返した。それは、九尾狐クビルという複数の輪廻を経た化け物のみが、前世の苦しみ悲しみによる苦悶の姿を晒しつつ発動できる禁断のわざだった。それが帝国のクビルのみが完成させることのできた新たな技だった。


 帝国内府陰陽太一局の鳴沢は、西姫が自己鍛錬を始めたその時から、その戦術的意義を見逃さなかった。その時から煬帝国軍総司令官となって一年半をかけ、様々な建造と製造そして組織の連携に努力した。

 彼は、まず彼は多数の神邇を組織化して連携させた。彼らによって形成された渦動結界を多数接続させたまま移動させる。そこに西姫による結界内励起と結界間共鳴を適用すれば、結界中の敵や味方の武器を全て意のままに無力化したり、意のままに魔装とすることができることができると計算していた。

 それらを効果的に活用するには、アサシンや魔装集団レッドカトリックの武装強化に加えて陸上機動部隊、海上に展開する大火力打撃艦隊、支援の航空打撃戦力が必要だった。鳴沢は、そのために帝国各地で軍備増強の動きを本格化させた。帝国本土沿岸各地の造船工廠のみならず、東瀛南岸やインド亜大陸各沿岸地域の造船工廠では、強襲上陸艦、火力打撃艦隊群の建造に総力を挙げた。また、帝国各地の航空工廠では、アサシン用移動機や支援打撃航空機群の製造が急がれた。また、それと合わせ、西姫の結界内励起と結界間共鳴の業の発動も磨きをかけていた。


 煬帝国の軍備増強の動きは、鬼没旅団を通じて倭寇の各集団の知るところだった。彼らも台湾や沖縄、マラヤ、アチェ、マジャパイト、ペルシアの各地で対抗的な建造と製造がおこなわれた。

 ………………………


 ビアクトラ王国の帝国スパイから絶姫と秀明とを再び見つけたという知らせが届いた。西姫はそれを聞き、すぐに波斯へ行こうとした。

「まだだ。権西姫」

「師匠!」

「絶姫が私たちを裏切り、今また秀明も裏切ったと聞きました」

「そうだったな。だが少し待て。波斯には堅固な守りと戦いに慣れた鬼没旅団の工作員たちが多くいるという。俺たちはいま、軍団を再編成している最中だ。これにはお前の剣の技の発動が力となるのだ。これを活用すれば、彼らを捕らえることができる」

 

・・・・


 春先の台湾は、まだ肌寒い。その季節に限らず、台湾や沖縄では定期的に戦略会議が開かれている。この日の戦略会議にも、倭寇の司令官たち、旅団の各支部や工作員筆頭たち、そしてジャクランが出席していた。

「ロンボク海峡海域の哨戒艦より一報あり。煬帝国の艦隊動きあり」

 それは、これから始まる紛争の序曲だった。

「ロンボク海峡哨戒艦より続報。ロンボク海峡通過の後続艦影多数。強行偵察艦、強襲上陸艦多数、火力打撃艦多数。いずれも我々の1.5倍の大きさ。その数は我々の十倍。インド洋に向けて航行中」

 これに加えて、インドア亜大陸の荒れ野を進軍する機動部隊集団も報告された。それらが意味するところは明らかだった。

「これらの動きからすると、今、彼らは要衝バンダレ・アッバースィーを目指しているとみています。我々は、その周辺に戦力を集中すべきでしょう。現地ではすでに防衛体制を固めています」

 すでに、バンダレ・アッバースィーの軍港には波斯軍の主力が集結したということだった。そのほか、マラッカ海峡からはアチェやマラヤ、そして台湾からの支援部隊、水上艦隊がバンダレ・アッバースぃーへ急派された。


・・・・


 煬帝国の上陸作戦は、旅団側の裏をかいたものだった。

 旅団側は軍港を守る艦隊陣形を取っていた。煬帝国艦隊はそれに構わず、アブムサ、大トンブ、小トンブの三島を急襲すると、前線基地を構築してしまった。その後につづく、三島からの長距離砲撃とアサシンやレッドカトリックの戦士たちによる強行偵察。旅団側は、次第に疲弊していった。

 旅団側が疲弊したころに帝国側の大規模な上陸作戦が動いた。一気に展開した煬帝国の渦動結界。そして結界内励起と結界間共鳴。旅団の水上艦隊や陸上部隊のすべての武器が、次々に封じられていく。展開していた艦隊は、帝国艦隊の砲撃の前に壊滅。旅団の工作員は帝国のアサシンに次々に無力化され、旅団側の陸上部隊は壊滅した。

 

「今はここから西方へ逃れよう。そして、捲土重来を期するのだ」

 生き残ったのは、少数の工作員エージェントたちだけだった。彼らはペルシアの国中にチリチリになり、ある者は仲間たちを西へ西へと導き、またある者は個々に逃れていった。

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