2話
殿下の生い立ちの話ですが、ご都合主義全開なので深く考えずにお読みください。
世界観は『乙女ゲーム』です。
そういうゲーム設定です。
レオンハルト殿下はわたくしの『所有物』である。
そう、彼はお父様の言葉通りにわたくしへの『プレゼント』なのだ。
レオンハルト殿下の生い立ちは複雑なもので、第2王子でありながら王位継承権は第1位。
これはレオンハルト殿下のお母様である正妃様より先に側妃の方がお子を身籠もられたから。
これはまぁ、仕方がない事だと思う。
長らくお子に恵まれなかった陛下と正妃様が国の重鎮達とで話し合い、側妃を据えたという話だ。
世継ぎを残すのは国の為だし、相思相愛と評判の正妃様との間に側妃の後とはいえお子が宿るのはとてもおめでたい事だと思う。
正妃様のお子であるレオンハルト殿下が王太子になって、もし万が一にもレオンハルト殿下に何かあった時は側妃のお子である第1王子が王位を継ぐ。
王家の未来は安泰だ。
問題ない…はずだった。
レオンハルト殿下のお兄様である第1王子が出来が良すぎた事以外は。
第1王子はレオンハルト殿下より一つ上なだけなのに、何をやらせても完璧に他者の考えより上の結果を叩き出すのだ。
それこそ年相応以上の結果を。
これによってどちらを王太子にするか重鎮達が揉め始めた。
ここでまたこの関係を複雑にするのが、正妃が第1王子を側妃がレオンハルト殿下を王太子に推していることが挙げられる。
どちらも自分のお子ではない方が王太子に相応しいと主張しているのだ。
異母兄弟である出来の良すぎる兄がいること、実の母親から王太子に推されないのに、何故か側妃からは王太子に推されていることによってレオンハルト殿下の生い立ちを一層複雑にしていく。
どれか一つでも違っていたらここまで複雑にならなかっただろう。
そしてここで登場するのがわたくし、イヴェルローズである。
レオンハルト殿下と同い年で公爵家出身。
しかも他の公爵家には年回りの近い女子が存在しない。
複雑な立場であるレオンハルト殿下の婚約者として、わたくしという存在は非常に有難いものだった。
正妃派、側妃派どちらに転んでもなんとかなる存在それがイヴェルローズ・ラグナルシュなのだ。
この優良物件が売却される前に王家はお父様にわたくしとレオンハルト殿下の婚約を打診した。
打診といってもほぼ勅命なのでお父様に断ることは出来ないわけなのだが、わたくしを溺愛しているお父様は何と王家に婚約にあたっての条件を出した。
本来なら不敬罪になってもおかしくない。
しかしお父様は不敬罪にならなかったし、王家もその条件をのんだ。
その条件とは
『イヴェルローズが言うことにレオンハルト殿下は絶対に逆らってはいけない』
である。
こうしてレオンハルト殿下の意思とはなんの関係もなく彼の意志、主張、価値観は彼の知らぬところで潰されてしまった。
そしてわたくし、イヴェルローズは欲しかった自分の思い通りになる都合の良い王子様を手に入れたのだった。
「本当、最低だわ。」
鏡に映る自分を見つめながら小さく呟く。
薄紫の艶のあるまっすぐな髪につり上り気味の大きな深い紫の瞳。くるんとカールした睫毛に紅を差したような艶やかな赤い唇。つり目だから真顔だと少しキツめの印象になるが、ニコリと笑うと非常に華やかな印象の美少女がそこにいる。
我儘の限りを尽くし、人を物のようにプレゼントされて喜ぶ『悪役令嬢レディローズ』がそこにいる。
娘を溺愛しすぎて世迷言を言うお父様は最低。
その世迷言を肯定して王子を差し出す王家も最低。
そのプレゼントを突っ返さずに受け取るわたくしは___
「一番最低。」
鏡に映るわたくしは嬉しそうに笑っている。
ゲーム内でのイヴェルローズは、レオンハルト殿下自身に興味がなかった。
彼が『王子様』という事が重要だった。
イヴェルローズは『王妃』になりたかった。
レオンハルト殿下を王にして、裏で国を操る王妃になりたかった。
だからレオンハルト殿下を王太子にさせなくてはいけなかった。
彼が王太子になれればレオンハルト殿下自身はどうでも良かった。
何もしないで良い。
むしろ何もしないで欲しい。
中身のない空っぽのレオンハルト殿下をイヴェルローズは望んだ。
だからレオンハルト殿下は何も決められない。
そういう人物だったのだ。
…忘れるなイヴェルローズ。
イヴェルローズがこれからやる事はレオンハルト殿下のすべてを否定する。
殿下の意思も主張も価値観もすべてを否定して、自分の思い通りの王子様をつくるのだ。
『ゲーム』と『現実』で殿下の扱いが少し違うだけでこの願いが
「『正しく悪逆非道』だと、決して忘れてはいけないの。」
正統派王子様が見たいなどと魔が差したというだけでは、弁明出来ない行いだとわたくしだけは理解していないといけない。
それを理解してなお、わたくしはこの道を進む。
理想の王子様をみたいから。
その姿を目にできたら、わたくしは自分の行った罪を生涯かけて償う。
その覚悟をもって
「悪役令嬢になるのよ、イヴェルローズ。」
笑え、笑えわたくし。
どんなにレオンハルト殿下が辛そうでも、苦しそうでも。
いつでも楽しそうに、嬉しそうに笑え。
わたくしにレオンハルト殿下を哀れむ事は許されない。
わたくしが全て悪いのだから。
思いの外、イヴェルローズが真面目になってしまいました。
前回ギャグっぽかったのに…。
書き表せていませんが、前世を思い出したイヴェルローズは夢見がちですが真面目な良い子です。
魔が差して、正統派王子様のレオンハルトがみたいと思ったことを悪いことと受け止めてそれでも自分の欲望を貫き通してしまう王子キャラに並々ならぬ情熱を持っていますが、すごく良い子です。
おそらくこれからも何度も鏡に映る自分を見ながら「忘れるな、わたくしの罪を忘れるな」と言ってると思います。
責任感も人一倍あります。
さぁ、悪い事をこれからするという罪悪感を背負って、次回から王子育成スタートします!