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あるバーのマスターの話  作者: 刹那玻璃
マスターの章
8/66

『卒業写真』

 今日のマスターは本気で困っていた。

 普段はマスターが曲を選ぶのだが、不定期にやって来る宣子のりこが珍しく、


「マスター! 今日はこのCDをかけて!」


と出してきたのである。


「え?えっと……」

「お願いします! 新年だし、暗いのは解っているけど……お願い!」


 差し出してきたのは荒井由実さんこと、現在、松任谷由実さんのCDである。


「……仕方ありませんね……と言うよりも、私も好きな曲が多いので、ありがとうございます。かけさせて戴きますね」


 いそいそとデッキに向かう。

 曲が流れ始める。


「ねぇ……マスター? 葛葉くずのはに会う?」

「葛葉さん……ですか?」

「あぁ、しのよ? 苗字が篠田しのだ。名前が葛葉」

「あぁ……いえ、お会いしませんね……」


 そう言えば、あの日以来会っていない。


「フフフ、聞いちゃってごめんなさいね。あのね、篠。会社を辞めて、留学したのよ。婚約者だった信一しんいちは篠の後輩と結婚してね? でも、信一と篠の家族は本当に近所で幼馴染みだったから、篠の従兄の保名やすなが特に怒ってたわ。それにね、信一、篠と共同で貯めてたお金を使い込んだりしてたから、信一のご両親が必死に頭を下げているわ」

「……お元気ですか?」

「篠? 元気そうよ。前は信一のことばかり心配して、尽くして尽くして……で浮気でしょ? もう、参ってて……今は、好きな事が出来るって語学学校に通っているみたい」


 ふふっ


嬉しそうに微笑む。

 そしてポケットの中から一通の封筒を出すと、


「マスター。ごめんなさい。灰皿良いかしら?」

「宣子さんは、煙草をお吸いになられましたか?」

「いいえ……あ、そうだったわ。ライターを貸して下さいな」


曲は『卒業写真』に変わっていた。


 マスターは思い出したようにライターと、作っていたコーヒーを差し出すと、ロワイヤルスプーンを渡した上に角砂糖を置きブランデーを染み込ませる。

 その横で宜子が灰皿にビリビリと破った紙を広げている上に、同じくブランデーを少したらし、ライターで二つに灯をともした。


 薄暗いバーに、淡く青い炎が宣子とマスターを照らす。

 なめるように炎は次々と紙を呑みこみ、少し焦げた臭いが広がる。


 そしてしばらくして、


「……信一が、篠の行方を教えてくれって言うのよ……。自分が捨てておいて……笑えるわ」

「……良いのですか? 手紙だけじゃなく……」

「あぁ、私と篠と保名と信一の写真よ……もう幼馴染みなんて卒業。あいつがどうなろうと、私も関係ないわ。それに保名もようやく動くみたいだし……」

「保名さん……ですか?」

「篠の従兄妹よ」


炎が消えるのを待って、コーヒーカップを見る。


「これは? アイリッシュ・コーヒー?」

「いえ、カフェ・ロワイヤル(cafe royal)ですよ。この専用のロワイヤルスプーンに角砂糖を、そしてブランデーをたらして灯をつけて……砂糖が溶けたら混ぜるのです。ハッキリとはわかりませんが、ナポレオンが愛飲したとか……」

「まぁ……じゃぁ、コーヒーカップだけれど……『篠と保名が幸せになりますように……』」


 宣子はスプーンでよく混ぜ、微笑み口に含んだのだった。

・カフェ・ロワイヤル


コーヒーを注いだデミタスカップの上に、先端部にひっかかりを設けた専用の器具ロワイヤル・スプーンを渡し、スプーンに角砂糖をひとつ乗せ、ブランデーを注いで染み込ませる。

スプーンからこぼれない程度にブランデーを注いだら、角砂糖に火をつけ、溶けかけたもしくは溶けたところでコーヒーに落とし、かき混ぜて飲む。

ブランデーの香りと青い炎の演出を楽しむ飲み方だが、炎は淡い色なので、明るい場所では見えにくい。

やや暗い場所の方が、青い炎の演出を楽しむには向いている。

なお、カフェ・ロワイヤルはナポレオンが愛飲したことでも知られている。


・アイリッシュコーヒーは……。


アイリッシュ・ウイスキー - 30ml

ホット・コーヒー - 適量

角砂糖或いはブラウンシュガー - 2、3個

生クリーム - 少量


作り方

グラスにホット・コーヒーを注ぎ、角砂糖或いはブラウンシュガーを入れる。

アイリッシュ・ウイスキーを注ぎ、ステアする。

生クリームをフロートさせ完成。


です。


よろしくお願いいたします。

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