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閑話……『Over the Rainbow(虹の彼方に)』

 祐実ゆみは、何とかわずかに見える片方の目で、エコー映像を見ていた。

 すると、ピーナッツのような小さなものが見えた。


「……えっ? あの、これは……」

「あぁ、奥さん。この小さいのが赤ちゃんですよ。まだ小さいので、この大きさくらいですかね」


 主治医は大きさを示す。


「もう少ししたら、心臓の音が聞こえるようになるでしょう。本当に力強い音ですよ。待っていてくださいね」


 まだこんなに小さい赤ちゃんが、大きくなったら心臓の音が聞こえるようになる。

 なんて楽しみなのだろう。

 いや……なんて……愛おしいのだろう。


「お、お母さん……見えました! 見えました!」


 涙が流れる。


「私達の赤ちゃん……男の子でしょうか? 女の子でしょうか?」

「まだ分かりませんね……それに、運が良かったのでしょう。二つの受精卵は、どちらも着床したのでしょうね。双子だと思われます」

「えぇぇぇ!」


 驚いたのと立っていられず祐実は座り込み、そして号泣する。


「私達の赤ちゃん……ふ、二人も……嬉しい……嬉しい……! 先生、お母さん……ありがとうございます」

「奥さん、大丈夫ですか?」


 看護師がそっと椅子に座らせる。


「写真で残しておきましょう。映像もお渡しできますよ?」

「お願いします。今日来られなかった息子と、日本にいる夫達に見せてあげたいので」


 祐実の頭を撫で、手を握りながら、はるかは微笑む。


「良かったわ〜。でも祐実さん。お願いがあるの」

「は、はい……」

「この子達は私がお腹に預かっているけれど、祐実さんと理央りおうくんの子供なの。でもね? 2人で頑張りすぎたりしないでね? 頼りないけどおばあちゃんの私や彰一しょういちさん、優子さんや宣子のりこさんがいるから、相談してね?」

「はい……はい!」


 二人は写真と映像を焼いたDVDを持って帰る。


 リムジンは処分したが、代わりに大型ワンボックスカーを購入した。

 運転手は雇っている。

 理央も祐実も運転は日本でしていたが、怪我をして障害者となった上に、不自由な身体で運転をして、危険な場面の判断が遅れ、事故になっては困ると話あったのだった。

 それに、運転を頼むと色々と車の中で仕事もできる。

 本当にありがたいものである。


 そして、これからは2人だけじゃなく赤ちゃん達も増える。


「お母さん。運転はどうすれば良いでしょう?」

「赤ちゃん達にはチャイルドシートね。ここにいる間はレンタルかリサイクルショップでいいと思うのよ。運転は私も運転できないし、日本では彰一さんや大輔さんやともえちゃんにお願いしましょう」


 大輔は理央の親友で、巴は夫の理央の妹で、大輔と結婚し、男の子ばかり二人が生まれている……巴はおっとりとしているのだが、しっかり者の女性で、結婚する前から、


「お兄さん、お姉さん。何かあったら連絡して下さいね。それに海外で大変だと思うので、必要なものがあったら言って下さい。すぐ送ります」

「巴ちゃん……」

「お姉さんもお兄さんも細身なので、きっと服がないと思うんです。それに、タオルです!」


 ビシッと言い切る。

 巴は留学経験があり、巴も祐実のように小柄で細身だったので大変だったらしい。


「一応日本のお店が出店してますが、サイズが見つからないと思うんですよね。こちらで買って行くか、私達が送るかにしますね。それと下着やタオルは絶対日本製です!」


と言う、おっとりした巴のマジ顔に大輔は、


「巴、落ち着け!」

「落ち着いてますよ。肌に直接密着するものは日本製おすすめです。タオルとかは高くても絶対日本製です。定期的に送りますね!」


と拳を突き上げる義妹が、ベビー服などをどう選んでくれるのか、楽しみだと思う。




 微笑む娘に、無意識にまだ動く気配のない赤ん坊がいるはずのお腹を撫でながら、遼は歌い出した。

 ミュージカルの『オズの魔法使い』の『Over the Rainbow(虹の彼方に)』である。

 日本語訳をお腹に囁くように優しく歌う遼を、祐実はうっとりと見つめる。


 何度か歌を歌う声を聞いた。

 でも、今歌ってくれているのは、我が子達の為……。


「赤ちゃんに沢山愛してますよって、伝えるのは声……お話や歌。今はまだ小さいから聞こえないかもしれないけれど……きっと覚えているわ」

「じゃぁ……赤ちゃん達を一杯撫でて、一杯お話しします!」

「そうね。音楽も聴かせてあげると喜ぶわ」


 顔を見合わせた二人が微笑む。




 その日以降、絵本やCDを沢山祐実は買ってきて、時間があると、お腹に手を当てて絵本を読んだりするようになった。


「祐実〜。教育ママにならなくて良いよ?」

「大丈夫よ。理央。私、お義父さまみたいに素敵で、理央みたいな優しい男の子が欲しいの」

「僕は、祐実やお義母さんみたいな、笑顔の可愛い赤ちゃんが欲しいなぁ」


 エコー映像を幸せそうに見ながら理央は笑う。


「こんなに可愛い子達が、どんなに大きくなるんだろう……」

「お義母さんが色々な歌を歌ってくれるのよ。本当に上手よね。私も絵本を読んであげようかと思っているの」

「えぇぇぇ! じゃぁ、僕は、何をしようかな?」

「お話ししてあげたら?」

「そ、そうする! それに、次から一緒に病院に行く!」


 夫婦は幸せそうに笑い合ったのだった。

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