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『あの夏を忘れない』〜TMN〜

 ため息をつく。


 一応、子供のこともあり、特別定額給付金を申請した。

 そのお金はきたが、マスクはこない。

 まぁ、それはそれ。

 妻が作ったものと予備のマスク、息子には幼いのもあり、人混みが多いところ以外は主治医と相談し、外すことにした。


 コロナの騒動も落ち着いていたので、お酒の持ち帰りは続けつつ、お店の再開の準備をすることにした。




 その前に、少々鬱っぽい妻を静養させようと遠出は避けて、財閥の使われていない別荘に避難させた。


『育児うつ』ではなく『コロナうつ』というものである。


 行きたがらない妻を病院に連れて行き、診察させると、睡眠導入剤と幾つかの薬を処方された。

 どれもこれも、乳離れと離乳食を開始しているので、飲める薬である。


 落ち込み泣きそうな声で、


「ごめんなさい……彰一しょういちさん」


と涙目になる妻を抱きしめ、


「何言っているんだい。君は本当に頑張ってくれているよ。私の最愛の妻であり、遼一の最高のお母さんだよ。先生も言っただろう? 普通の生活なら、病気は起きなかった。今のコロナで、普段の数倍疲れたんだよ。だから、2週間くらいゆっくりしてきなさい。途中で、合流するからね」


 引越しの準備はほぼ終えたので、悪友の妻の優子と三人でゆっくりして貰う予定である。

 テレビもスマホもない生活で、時間も忘れのんびりさせてやりたい。




 今まではるかは頑張ってきた。


 昼夜逆転の生活をする夫の為に掃除洗濯料理、そして、高齢出産、子育て、それだけなら楽しめただろう。

 最後のわざわいに、普段の倍も頑張りすぎて疲れたのだ。

 本当は遼一りょういちも、自分が面倒を見ると言えればいいが、マザコンの気がある息子は父である自分に懐かない。

 一時間は何とかなるが、それ以上は母を探し泣いて暴れて手がつけられなくなる。

 父親よりもまだ、優子やともえに懐いているくらいである。


 その為、優子が付き添ってくれることになった。

 巴も仕事がなければついていってくれていただろう……しかし、リモートの仕事から元の職場に戻ると、仕事が増えたように感じ、疲労が酷いらしい。

 コロナにかかってなくとも、コロナによって人々が疲れ切っている。




 妻や娘、それに周囲に、何かを返したい。

 言葉だけじゃなく、品ではなく……。




 ある日、妻を店に連れてきた。

 眠った遼一は、優子とその嫁である宜子のりこに頼んでいる。


「彰一さん?」

「お客さま、どうぞ……と言うと、何か気恥ずかしいね」


 カウンターの椅子を引いて勧める。


「どうしたの?」

「ふふふっ。余りテレビもネットも疲れたなぁと思っていたんだけど、再開するのに新しいカクテルを探していたんだ。君の好きな曲だよね」


 流されているのはTMNのCD。


「まだ時期は来てないけれど、きっと君ならと思って作っておいたんだ」


 出されたのは、ラムネの瓶。


「えっ? ラムネ? 私、大好きだけど……」

「開けてみて。でも溢れないようにね?」

「うん」


 恐る恐る昔したように、上のビー玉を落とすと、あふれてあわあわと慌てる妻に、おしぼりで手を拭いてあげながら、彰一は、


 元々、こんな人だったな。

 そそっかしいと言うか、本当に素直な、表情のコロコロ変わる可愛い人。

 それが目が離せない、愛おしいと思った。

 自分が思い出した記憶。




 愛情は消えることはない。

 彼女への愛情は、深く深く私の心に積み重なっているのだ。




 微笑むその前で飲み始めた、遼の顔を見つめていると、びっくりしたように、


「まぁ! ラムネの味はするけれど、違う味」

「ネットで見つけたんだよ。このカクテル。ネットに載っていたのは瓶だけで、詳しい分量は分からなかったけれど、使われているリキュールは載っていたから、調節して、他のものもそれにプラスしてみたんだよ」

「すごい……彰一さん。美味しいです。それに私、ラムネって好きなんです。この中のビー玉を取り出したくなるわ。あ、これは……」

「最近、上側がプラスチックだから、開けられるでしょう? ビー玉を、遼一が間違えて口にしないなら持って帰ろうか?」

「綺麗に洗って、お店に置きます? 彰一さん。ほら、あの器に入れて」


 今度、相棒を飾る棚の別の段に、小物を入れるガラスの器がある。


 それには昔、マッチやライターなどを入れていたが、今は遼と巴が、引越しの準備をしていて見つけた、昔、彰一の仕事で行っていた時に持って帰った外国のコインを、口の大きな酒瓶や、この器にも数枚入れていた。


 新しく飾る……自分の店ではなく、家族の店になっていくのは嬉しいと思えるのはやはり父親だと自覚が出たからか……自分が成長しているのか。


「ふふふ……また一つ、遼との思い出ができた」


 ラムネの瓶を見ながら、妻に笑いかけると、遼は目を見開きそして、ほおに涙が伝う。


「えっ? 遼?」

「……彰一さんの言葉が私の心に響くこと、知っています?」

「それより、君が好きなこのTMNの曲の中で、『大地の物語』とこの曲が私は好きだよ」

「『あの夏を忘れない』……ですね」

「そう、サビの部分。今まで遼には沢山甘えてきてごめんね。私も、遼と遼一と理央りおう、巴のいない世界は絶対に嫌だ。永遠は無理だと分かってるけれど、幾つもの四季を君と子供達と過ごして行きたいと思ってるよ」


 カウンターを回り、妻を抱きしめる。


「君だけを愛しているよ」

「彰一さん!」


 腕を伸ばしボロボロと涙ぐむ。


「ありがとう……私も、貴方を愛しています」




 新装開店前に、二人は幸せな時間を過ごしたのだった。

一応、ネットで見つけたカクテルだったので、名前忘れました。

確か、ラムネとハッカのリキュールともう一つは何かのリキュールだったのですが……。

すみません。


この曲は、サビの、


『あの夏を忘れない

守りたいのは一つ

君のいない1秒は

まるで永遠のよう』


こんな一言が言える夫婦にと、疲れたこのコロナ禍に伝えてあげてください。

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