『若者のすべて』
彰一の怪我は数カ所酷いところもあったが、ガラスを取り除き縫って、後日検査をしたところ健康体であることが分かった。
ちなみに、頭部だけではなく全身の人間ドックもついでに受け、実年齢よりも若いと言われたらしく、真顔で、
「妻と息子を養いますので、後50年は生きたいと思います」
「後50年……マスター。遼一の孫まで面倒見るのか?」
大輔はからかうが、ニヤッと笑う。
「あ、遼には伝えたんですが、養子と養女を迎えることにしました。それに、面倒だなぁとは思ったのですが、1つマンションを貰ってしまいまして……」
「マンションの一室ですか?」
雄洋が、お茶を渡しながら問いかけると、
「いえ、今、店の近くに建てているでしょう?16階建のマンション。あれ、全部です。固定資産税とか困るなぁと思うのですが、叔父の会社の社員が住むので、その家賃収入である程度賄えるそうです。えと、16階は私の家になるそうですが、10階から上は分譲なんですよ。誰か買いませんかね。一応、森田くんには伝えるつもりです。ここに戻ってもホテル住まいはきついでしょう。それに、森田くんも私の息子ですから」
「高いんじゃないんですか?」
「ここの地価相場を考えてください。それに言ったでしょう?10階までは叔父の会社に貸しているので、お安く分譲しますよ。雄洋さんも、雄堯がいたらいかに宜子さんでも大変じゃないですか?広い部屋ありますよ」
「そ、そうなんですか?」
「それに、大輔さん?一応言っておきますけど、巴は私の娘ですので、簡単にあげませんから」
突然の言葉に硬直する。
「えっ……マスター?」
「だから、森田くんと巴です。養子に迎えようと思っています。森田くん……理央くんには一応先日手紙を送ったんですよ。巴の方は……」
にっこりと笑う。
「靫原と縁を切ろうと思いまして。陽平に巴を引き取ると。で、叔父が今までの様々なことの代わりにとマンションをくれたので。あぁ、高坂さんの娘さんも2年したら受験ですからね。セキュリティの不安なアパートより、家で預かるつもりです」
「えっと、一番小さい分譲はどれくらいの大きさですか?」
ダラダラと汗をかきながら大輔は尋ねる。
「10階からは3LDKからですね。一つの階に二つか三つの家がありますし、15が森田くん夫婦と巴の家になりますね。14の一つが雄洋さんの家に。もう一つは誰に貸しましょうか……」
ふふふ……。
楽しげに微笑む。
「巴の家に転がり込みますか?」
「それはしません!ちゃんと買いますよ!……分割払いでお願いします!それに、巴にプロポーズもしてないのに、転がり込めません!ちゃんとしてからです!」
大輔の一言に二人は笑う。
「な、何で笑うんですか!」
「……大輔、後ろ」
雄洋は示す。
振り返ると、ペットボトルをいくつも抱えた巴が真っ赤になっていた。
「あ、あの、あの……」
「良かったね、巴。大輔さんのことは、よく知っているし、応援しているよ」
「そうそう。大輔は……」
「マスターも、雄洋も何言ってるんだよ!マスターは安静にしてるんじゃないのか?と、巴もほら、ペットボトル……」
大輔は取りに行き、巴の手を引いてくる。
その様子に、
「あぁ、この間、遼が、CDをかけたいと言っていたんですよ」
「どのCDですか?」
「フジファブリックのです」
「あぁ、私は『若者のすべて』好きですね……あ、ありがとう。巴さん、大輔」
雄洋は大輔に渡されたコーヒーのキャップを外す。
「『若者のすべて』?」
「この曲だよ」
スマホを操作し、曲が流れる。
「この曲と共に、テネシークーラーを作って飲んでいただきたかったですね。早く元気にならなくては……」
彰一は、スポーツドリンクを巴に開けて貰いながら呟いたのだった。
テネシークーラーのカクテル言葉は、あの日の約束
テネシー・クーラー(Tennessee Cooler)は、ウイスキーをベースとするカクテルであり、冷たいタイプのロングドリンク(ロングカクテル)に分類される。なお、使用するウィスキーは、テネシー・ウイスキーに限られる。しかし、テネシー・ウイスキーの銘柄は決められていないが、テネシー・ウイスキーの蒸留所はジャックダニエルとジョージ・ディッケルのみである。
テネシー・クーラー
種別:ロングドリンク
作成技法:シェイク
色:緑色
グラス:タンブラー
アルコール度数
度数:15度
レシピの一例
ベース:テネシー・ウイスキー
装飾材料
スライス・レモン、スライス・ライム、マラスキーノ・チェリー
レシピ
テネシー・ウイスキー = 45mL
クレーム・ド・ミント(グリーン) = 20mL
レモンジュース = 20mL
シュガー・シロップ = 1tsp
ジンジャー・ビア = 適量
作り方
テネシー・ウイスキー、クレーム・ド・ミント(グリーン)、レモンジュース、シュガー・シロップをシェイクして、氷を入れたタンブラー(容量240〜300ml程度)に注ぐ。
それを、よく冷やしたジンジャー・ビアで満たす。
あとは、カクテル・ピンに刺した、スライス・レモン、スライス・ライム、マラスキーノ・チェリーを飾れば完成。
なお、レモンジュースは、その場でレモンを絞ったものを使用するのがベスト。
備考
マラスキーノ・チェリーや、スライスしたレモンやライムを飾るのを省略することもある。
ストローを添えることもある。




