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『また君に恋してる』

 つわりが始まり、朝が弱いはるかにとって辛い時期である。

 夏の暑さは外では汗をかき、買い物に行くとそのショッピングセンターはガンガンと冷房が効いている。

 汗が一気に冷えて、濡れた服が肌に貼りつく。


 それでも、余り冷房に当たりすぎてもと風鈴を買い、蚊取り線香を焚き、うちわで扇いで涼を取る姿に、


「遼?スイカでも食べるかい?」

「あ、えぇ。ありがとう。準備しますね」

「私がするよ」


スイカを切り、扇風機を持って行く。


「あ、涼しいですね」

「冷房の風は体を冷やすけど、扇風機は空気を循環させてくれるから、良いんだよ」

「それに、スイカの切り方、大きさがまちまちです」


 CDをかけながら、彰一が答える。


「テレビでやっていたんだよ。スイカを縦に切るより、横に切って見える繊維に沿って切ると、タネがすぐ取れるんだって」

「あ、本当。表面のタネを取ったら、食べてもタネがない。彰一さん凄いですね」


 冷えたスイカに嬉しそうな顔の妻に、彰一も頰を綻ばせる。


「まぁ、私もテレビで見ただけだけどね。それに、スイカの水分は多いので、脱水症状とか喉の渇きにいいんだよ」

「お塩をちょっと振りますね」

「取りすぎたらダメだよ」

「はーい」


 彰一にも遼にも初めての子供である。

 一から雑誌を読んだり、市内でのイベントに参加できる時は参加するようにしている。

 年の若い夫婦の中で、彰一達は浮いていた。

 いや、悪い意味ではなくいい意味で。


粟飯原あいばらさんのご夫婦、素敵ですね」

「旦那さん、絶対一緒じゃないですか、羨ましい」


同じママ友に言われ、頰を染めることも多い。


「彰一さんは、暑いの大丈夫ですか?」

「そうですねぇ。昔はこんなに暑くなかったですよね。私の実家は周囲が山に囲まれてのどかな風景でしたよ。小さい頃は山を駆け回ってカブトムシをとったり、川で泳いだり……夕立が降りだしたら、慌ててバシャバシャと家まで帰るのが日課でした」

「そうですねぇ。私の家では打ち水してました。父が1日2回。そうしたら虹が見えてキャァキャァ喜んでました」

「水を撒くと、2度程温度が下がるそうですからね」

「涼しいんですよね」


 にっこり笑う妻の頭を撫でる。


「いい歳したおばさんなんです〜」


と真顔で言うが、年齢に見えない童顔で、今は辛い時期で動けないが普段はちょこまかと動き回る。

 結婚と共に引っ越したこの家も、遼が彰一のことを考え居心地のいいものにしてくれていた。


「今度は、夕方にお祭りにでも行こうか?余り長い間は疲れてしまうから、少しだけ」

「お祭りですか?」

「近くの商店街の傍に小さいお社があるんだよ。そのお祭り」

「知りませんでした」

「じゃぁ、行こうか」

「あっ!そうでした」


 すると、遼が立ち上がり奥に行くと、何かを抱え戻ってくる。


「それは?」

「あ、浴衣です。彰一さんに似合うかなって……生地を選んで」


 風呂敷を開けると、青海波せいがいはの紋様の浴衣である。


「余り、上手く縫えてないかもしれませんが……」

「……ありがとう。本当に嬉しいよ」

「手を繋いで行きましょうね。えっと、私は方向音痴なので……」

「そうだね」




 その日は、アルバムを坂本冬美さんに選んだ。

 今日は奥でスヤスヤと眠っている妻にタオルケットをかけて、エアコンを直接当たらないようにしてある。

 客として来た宣子のりこ雄洋たけひろは、いつになく笑顔のマスターに、


「どうしたの?マスター」

「あぁ、顔に出てましたか……いけませんね」


少し照れくさそうに呟く。


「いえ、先日から、遼と公共のパパママ教室に行くようになったのです。周囲は皆さん、雄洋さん位のお父さんに、宣子さん位のお母さんが多くて、でもとても親切でしたよ」

「まぁ。マスターも行っているのね」

「そうなんです。遼一人で行かせられないでしょう?」

「そうね。でも、見て見たかったわ。マスターがその中にいるの」


 ふふっ。


楽しそうに笑う宣子に、


「これからも通える時は通うつもりです。あぁ、曲が変わりましたね。今日は遼には飲んで貰えないので、お二人に贈らせてくれませんか?」


差し出したカクテル。


「ギムレット?」

「いえ、中に入っているものは同じものですが、『ジン・ライム』です」

「ジン・ライム?」

「えぇ……。カクテル言葉が『色あせぬ恋』と言うのです。この曲にぴったりだと思いませんか?」


 宣子は、流れてくる曲に微笑む。


「マスターが惚気ているわ。でも、素敵ね」


 流れている曲に聞きいったのだった。




 ちなみに、夜市の日には、浴衣姿のマスターと手を繋いで歩く遼の姿があったのだった。

ジン・ライム(Gin and Lime)とは、ジンをベースにしたカクテル。材料が同じでも、シェイクしただけで、カクテル名が変わってしまうことで知られている。


作成技法ビルド

色無色透明、淡緑色透明

グラスオールド・ファッションド・グラス

アルコール度数

度数24度- 30度


標準的なレシピ


ドライ・ジン - (全量の)3/4

ライム・ジュース - (全量の)1/4


作り方


材料はシェイクせずオン・ザ・ロックのスタイルにする。

氷を入れたオールド・ファッションド・グラスに、まずドライ・ジンを、次にライム・ジュースを注ぎ、ステアする。


備考

シェイクすると『ギムレット』という別のカクテルとなる。

英語表記そのままの「ジン・アンド・ライム」と呼ばれることもある。

スライス・ライム或いはカット・ライムを飾っても良い。


ギムレットは、マイウェイの時に出しましたが、今回はカクテル言葉と曲でカクテルを選びました。

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