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あるバーのマスターの話  作者: 刹那玻璃
マスターの章
3/66

『少女A』

 今日のマスターは機嫌が良かった。

 好きな歌手である中森明菜のCDをかけている。

 カラン……ドアのチャイムベルが鳴り、現れたのはびしょ濡れの女性。


「いらっしゃいませ、どうぞ……タオルをお出ししましょう」


 カウンター席を勧めると、はにかむように微笑む。


「ありがとうございます」

「いいえ、今日は天気が悪いですね……」

「はい、雨が……朝は晴れていたのに……」


 雨音はこちらに届かない……その代わり、独特の深みのある声が店内に広がる。


「あら? この曲……」

「『少女A』ですね……中森明菜さんの曲です」

「あ、そうなのですね。あ、えっと……何をお願いしたらいいのか……どんなお酒がありますか?私は余り、お酒に詳しくなくて……」


 気恥ずかしげに告げる若い薄化粧の女性に、提案する。


「では、サンドリヨンを……」

「サンドリヨン?」


 目を丸くする。


 サンドリヨン、もしくはサンドリオン(どちらもつづりはCendrillon)……英語読みではシンデレラ(Cinderella)である。


 手際よく冷蔵庫から3種類のペットボトルを出してくると分量を計り、シェイカーに注ぎ入れるとゆっくりとシェイクし、カクテルグラスに注ぐと氷を入れ、オレンジで飾る。


「どうぞ」

「綺麗……」


 しばらく見つめていた彼女は、そっと手を伸ばし、ゆっくりと口に含んだ。


「……おいしい……けれど、あら?」


 目をパチパチとさせた彼女はマスターを見る。


「お酒、苦手なのですけど……」

「……実は、そのカクテルはお酒が入っていないのです」

「えぇ?」


 マスターとサンドリヨンというカクテルを交互に見る。


「オレンジジュース、レモンジュース、パイナップルジュースなのです。炭酸ソーダで割ることもあるのですが、そのままお出ししました」

「お酒ではないのですか……?」

「カクテルの一種でノンアルコールです。特にお酒をたしなまれない方や、一息つきたい方が……それに、女性に喜ばれるのですよ。可愛らしい名前だと」

「だまされたのかしら……?」


 考え込む女性に微笑む。


「楽しんで戴けたらと思いまして……お酒と言うよりも、カクテルの奥深さを……如何です?」


 もう一口口にした彼女は、サンドリヨンを見つめ呟く。


「もっと敷居が高いのかと思ったわ……本当に思ったよりも身近なのね……」

「では、ガラスの靴を探しにいかれますか?」

「今日は雨ですもの。もう少しこのままで……」


 後日、祐実と名乗った女性は、無邪気にウインクをしたのだった。

サンドリヨン(Cendrillon)もしくはシンデレラ(Cinderella)


オレンジジュース、レモンジュース、パイナップルジュース各60ml

をシェーカーを振り、そしてそのままカクテルグラスに注ぐ。

もしくは上記をソーダで割る。

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