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あるバーのマスターの話  作者: 刹那玻璃
マスターの章
25/66

『白雪姫』

 今日は風が強く、雪が舞った。

 その上、地域によっては風の強さと雨が降らない日が続き、乾燥注意報が報じられ、火事で家が燃えたとニュースで報道していた。


 マスターは珍しく家に帰り、掃除をして洗濯物を干し、クリーニングに出すものを纏め、クリーニング店に預けると店に戻ろうと歩き出した。

 一人暮らしのワンルームマンションの自分の家とバーとだと、居心地は断然バーの方がいい。

 雪が舞う空を見上げて、息を吐いた。


 咲き始めの梅の花びらが風と雪に舞いあげられ、踊っている。


「白い肌と赤い頬……黒髪の美しい白雪姫のような妖精がいるのかな……私も、ファンタジーの頭になったか」


 苦笑しつつ出勤する。

 そして、前に来ていたお客様の一人に、


「自分は要らないし、マスターにあげる」


と渡されたCDの一枚を取り出した。

 Flowerのアルバムである。

 世代が世代だけに余り解らないが、聞いてみようと思ったのだった。




 かけてしばらくして乱暴に扉が開き、一人の女性が、何故か純白のウェディングドレス姿で姿を見せる。

 息が荒く、裾は後ろが長い為、たくしあげている。

 しかし、肩の大きく開いたドレスはこの時期には寒いだろうと、奥から毛布を持ってくる。


「いらっしゃいませ。失礼します。こちらはクリーニングをしたものです。お使い下さい」

「あ、ありがとうございます……」

「それに、こちらに……暖かいですよ」


 カウンターを勧める。


「本当に、すみません……突然……」

「いいえ、今日はお客様が、いらっしゃって下さって嬉しいですよ」


 寒いだろうとおしぼりと昆布茶を差し出す。


「ありがとうございます」


 おしぼりを顔にあて、


「あっ!化粧が……」

「大丈夫ですよ。ご安心下さい。まずは温まって下さい」

「い、頂きます」


涙をぬぐいながら昆布茶を口にする。


「ふぅ……暖かいです」

「良かったです。今日からさらに冷えると天気予報でありましたので……」


 マスターが微笑むと泣き笑う。


「ありがとうございます」

「構いませんよ。逆に、私の普段飲んでいるもので申し訳ありません」

「マスターの私物だったんですか?いいんですか?」

「お茶や梅昆布茶、昆布茶は良く行く茶舗で選ぶんですよ。お茶のカクテルもありますし」

「そうなんですね……」


 女性は周囲を見回すと、苦笑する。


「あぁ、貸衣裳さんに怒られてしまうわ。クリーニング代幾らかかるかしら……買い取りとか」


 つまんだドレスの裾のレースを見つめ、悲しげに顔を歪める。


「……解っていたけど……もっと前に言って欲しかった……。結婚式の招待状が出来て、ドレス選びの今日に……」


 瞳が潤み、一筋涙が頬を伝う。


「どうして……言ってくれなかったの。信じていたのに……途中で何も言わず居なくなって……戻ってきてくれなかった」


 顔を覆うとすすり泣く。


「車で何も言わず出ていって……戻って……」


 曲が変わる。

『白雪姫』である。


 マスターはゆっくりと作り、カクテルグラスを差し出した。


「いかがでしょう?お召し上がり下さい」

「……あぁ‼バッグを持ってくるのを、忘れてしまいました‼お金……」

「構いませんよとお伝えしても気になされるでしょうから……いつでも構いません。今日は雪が綺麗でしたので、雪をイメージしました『ホワイト・レディ』と言います」

「……『ホワイト・レディ』……私も埃と砂だらけですけど、ホワイト・レディですね」


 自嘲するように顔を歪め、一口飲むと、


「この歌の『白雪姫』のように、眠っていたいわ……もう、永遠に……」


と、呟いたのだった。

《ホワイト・レディ (White Lady)》


ジンをベースとするショートドリンク(ショートカクテル)。



誕生


このカクテルが、いつどこで誕生したかということには諸説あり、作者はシローズ・クラブ (Ciro's Club) のハリー・マッケンホルン(Harry MacElhone 、1919年、ロンドン)。当初はペパーミント・リキュールをベースとしていた。

しかし、パリのハリーズ・ニューヨーク・バー (Harry's New York Bar) に移りジンベースに変えた。なお、ジンベースに変更されたのは、1925年のこととされる。


また、サボイ・ホテル (Savoy Hotel) にあるアメリカン・バー (the American Bar) によると、ハリー・クラドック (Harry Craddock) が1920年代に作ったとされている。


標準的なレシピ


ドライ・ジン - 2/4

ホワイト・キュラソー - 1/4

レモン・ジュース - 1/4



作り方

ドライ・ジン、ホワイト・キュラソー、レモン・ジュースをシェイクする。

カクテル・グラス(容量75〜90ml程度)に注ぐ。



備考

サイドカーのバリエーションであると考えて、ジン・サイドカーとも呼ばれる。



バリエーション


ジンの代わりにブランデーを使うとサイドカー、ラムを使うとX-Y-Z、ウォッカを使うとバラライカ、ウイスキーを使うとウイスキー・サイドカーになる。

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