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あるバーのマスターの話  作者: 刹那玻璃
マスターの章
21/66

『翼をください』

 マスターは古いCDをかけつつハッとする。

 今日は節分である。


 一応、節分は、各季節の始まりの日(立春・立夏・立秋・立冬)の前日のことを言うらしく、節分とは「季節を分ける」ことも意味しているらしい。

 しかし、江戸時代以降は特に立春(毎年2月4日ごろ)の前日を指す場合が多い。

と言うことらしい。


 一応情報としてマスターは、お客様と話す時の為に最低限の情報を得ておく。

 聞き上手は情報収集を欠かせないのだ。


 近くの神社には紅梅が開き始めた。

 春に近づいているらしい。


 ミモザはまだ元気である。

 紅梅を買うのはミモザの後にしよう……。


と、今日も開店にすると、瓜二つの青年たちが姿を見せた。

 背丈も変わらず、顔立ちも瓜二つ。

 着ているのは、眼鏡をかけた右分けの髪の青年は上品な着物姿。

 左分けの青年は眼鏡はなく、服装は少々チャラい格好である。


「いらっしゃいませ」

「こんばんは」

「おばんどす~」

「京都の方ですか?」


 イントネーションがはんなりとしている。


「あ、はい。洛西らくせいの方ですわ。シィ……弟がこの間、幼馴染みに聞いたと来てみたいて言うて」

「言いながら、サキも気になっとったやろ?」

「双子さんですよね?」

「えぇ。あてが兄の紫野むらさきの言います」

「あては標野しめの言います」


 名前に驚く。


「珍しいですね‼それは額田王ぬかたのおおきみの『あかねさす紫野行き標野行き野守のもりは見ずや君が袖振る』からでしょうか?それは、素敵な……」

「詳しいですね……昔はシィはまだましで、あてはよう変な名前やと……」

「いえいえ、素敵な名前です」


 おしぼりを二人に手渡す。


「お二人は、こちらに旅行ですか?」

「あ、あてはこっちにおるんですよ。サキは家継いだんで、あては暖簾別けしてもろて……」

「のれんわけ……」

「あ、あてらは京菓子職人で、10年前にあては独立しとるんです。サキは結婚して、上の娘が8才かなぁ?」


 ニヤニヤと兄を見る。


「嫁はんに『結婚して‼』言われたんよなぁ……」

「食べる為に着いていく‼お菓子食べたい‼頂戴頂戴‼言うて、鳥の雛がピヨピヨと鳴いてる……それに鳥籠の中の小鳥みたいで……飛びたいなら、好きなように飛べるように訓練でもと……」

「嫁はん、放すつもりやったんか……」

「言うか、小鳥を再び鳥籠にって出来ひんわ。ほら、この曲みたいに……」


 流れる曲を示す。


「『翼をください』……か。学校で歌ったなぁ……」

「……雛菊ひなぎくは辛い目に長い間おうてきたんや、自由にさせてやりたいわ……」

「……サキ。流石は、だいちゃんの兄やなぁ……デレデレやで?」

「シィもな」


 その言葉に標野は奇妙な顔をする。


「あては嫁はんには尻にしかれとるわ……」

ひめはんにもろてもろて、よかったやないか」

「あては、飛び回る嫁はんを捕まえる網が欲しいわ」


 首をすくめると、微笑みながら話を聞いていたマスターが、グラスを差し出す。


「どうぞ」

「これは……?」


 グラスを引き寄せた双子に、優しく微笑む。


「『エンジェル・ウイング』と申します。天使の翼……お二人の奥さまのことであり、お二人のことでもあるかと思います。京都でしたら、聞いたことがあると思いますが『比翼連理』と言うと夫婦仲のむつまじい、男女の離れがたく仲むつまじいことのたとえですし……仲良くなさって下さいね」


 顔を見合わせた二人はグラスをあわせ、優しい味のカクテルを飲んだのだった。

比翼連理ひよくれんり』夫婦仲のむつまじいたとえ。

▽「比翼」は比翼の鳥のことで、雌雄それぞれ目と翼が一つずつで、常に一体となって飛ぶという想像上の鳥。

▽「連理」は連理の枝のことで、根元は別々の二本の木で幹や枝が途中でくっついて、木理が連なったもの。男女の離れがたく仲むつまじいことのたとえ。


《エンジェル・ウイング(Angel's Wing)》


リキュールをベースとした、ロングドリンクカクテル。


標準的なレシピ


クレーム・ド・カカオ(酒を焙煎したカカオ豆と共に蒸留し、バニラの香りを付けたリキュール) - 1/2

プルネル・ブランデー(スモモを主原料とする醸造酒を、蒸留して作ったブランデー) - 1/2

生クリーム - 適量


作り方

いわゆるプース・カフェ・スタイルで作られる。


・リキュールグラスにクレーム・ド・カカオを注ぐ。

・混ざり合わないようにプルネル・ブランデーを注ぐ。

・生クリームを少量浮かべる。


備考

レシピのうち、クレーム・ド・カカオの上のプルネル・ブランデー、生クリームを別々に使うとエンジェル・フェイスになる。




すみませんσ( ̄∇ ̄;)


私のオリジナルのキャラには双子多いんですが、いつもならすぐに顔を出す、双子をあえて出さず、大人な双子にさせていただきました。

パッと思い付いてつけた名前ですが、双子兄の名前がお気に入りです。

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