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あるバーのマスターの話  作者: 刹那玻璃
マスターの章
18/66

『三国志 愛のテーマ』

 マスターは珍しくほくほくとしていた。

 シングルCDだが、懐かしいCDを見つけたのだった。


 短い曲なので長い間はかけられないが、お客さんがくるまでとかけ始めた。


 すると、一人の女性がひょこっと顔を覗かせた。


「あ、あの……初めてなのですが、大丈夫ですか?」

「いらっしゃいませ。どうぞ。来て頂けて嬉しいです」

「ありがとうございます」


 大きな瞳と丸い顔に眼鏡をかけた女性が、ちょこまかと近づいてくる。

 荷物が異様に多く、リュックに肩にかけるバッグが二つ、そしてテディベアを抱いていた。


「どうぞ、こちらに……」


 カウンターの下に荷物を、隣の席にリュックをクッションにするようにテディベアを座らせる。


「……大きな……いえ、もしかして、テディガールのレプリカではありませんか?」

「あ、はい‼好きで好きで、ネットフリマやオークションで探していて……あっ‼」


 テディガールを抱き締めると、マスターの店に飾るテディベアに近づく。


「これって……シュタイフ社で1908年に作られたブルーベア、エリオットのレプリカではないですか?確か1994年にレプリカが発売された……」

「ご存知ですか?」

「はい‼私は、テディベアが大好きで、自分が探すだけではなく作るんです。でも、夢はテディベアやぬいぐるみの手当てをしたいんです……勉強したいのですが……」

「そうなのですか……」


 近づいてきたマスターは飾っていたテディベアを下ろすと、ケースを取り外す。

 そして、彼女に差し出す。


「あの……お客様に言うのは失礼だと思うのですが、このベアの傷を治すことは出来ませんか?」

「あ、あら?腕が外れてしまっているのですね?」

「大丈夫でしょうか?いつでも構いません……私は、傷ついたこの相棒を……」

「今からさせて頂きますね‼私、道具を持っています‼テーブル席を借りてもいいですか?」

「えぇぇ‼良いのですか?」


 テディガールを席に戻し、大きな荷物をテーブル席に持っていくと、


「お預かりしますね。わぁ……初めまして、エリオット」


と大事そうに受けとり席につくと、大きなバッグから、3段の木製の和風のミニ箪笥にプラスチックのケースなどを並べると、


「ごめんね?エリオット。縫い目をほどくから……痛いの我慢してね」


と言いながら、腕と背中の縫い目をチェックして、リッパー(糸を切る道具)や、刃先の細いハサミで丁寧に一目一目縫い目を切ると、詰め物を抜き、まずは接続部の部品を取り出す。


「あぁ……ここが……引っ張られたんですね」

「大丈夫でしょうか……」

「大丈夫です。部品を取り換えるのと、部品を丈夫にする為に、一つ部品をつけておきますね」


 彼女は微笑みながら、プラスチックケースから何かを取り出す。


「これは?」

「ハードボードジョイントと言います。腕側にこの部分を入れて、胴体に繋いで、このコッターキーという道具やペンチで巻いて留めるのです。そうすると元のように動かせることができますよ」


 手慣れたように腕側に部品を取付け、詰め物を戻すと、テディベアに似た色の糸を針に通し、綴じ始める。


「手慣れているんですね……」

「いえ、大好きなんです。それに、この曲も素敵ですね。私は、再々放送だと思うのですが、見ていました。『人形劇三国志』の曲ですよね」

「ご存知でしたか」

「えぇ。私は、三国志も大好きなんです‼」


 目をキラキラさせる女性の、無邪気でどことなく子供っぽい笑顔に微笑む。


「そうでしたか……曲が短いので、変えた方が良いかと思っていたのですが……」

「いえ‼このままで大丈夫です‼」


 体に金具を繋ぎ、接続するとフォークとナイフを持つように両手でコッターキーを持つと、割りピンの一方を外巻きに巻いていく。

 そしてもう一方を巻くと、動きをチェックする。


「大丈夫そうです」


 言いながら丁寧に詰め物を納め、丁寧にかがると糸を切った。

 玉留めにした部分は布の中に納めている。


「これでどうでしょうか?他の手足と同じ位の動きで……」

「ありがとうございます」

「いいえ。本当なら、シュタイフ社に送って手当て担当の職人の方の元に送られるのですが……私で良かったのかと思うのですが……」


 言いながら引き出しの中から紺色に模様の刺繍されたリボンを出すと、首に結ぶ。


「エリオットはブルーですが、他の色よりも深いブルーである紺のリボンが似合いそうなので……」

「ありがとうございます。お金は……」


 マスターに手渡すと、荷物を片付け始めた彼女は首を振り微笑む。


「いいえ、私もエリオットに会えるとは思わなかったですし、逆に私が治して良かったでしょうか?」

「本当に、助かりました……本当に……」

「良かったです」


 荷物を片付けると、席に戻る。


「では、カクテルを……」


エリオットをカウンターに置き、差し出した。


「これは……?」

「時代は違いますが、唐の楊貴妃から名付けられた『楊貴妃』というカクテルです。ライチが好きだったと言う伝説からライチリキュールを、そして青い着色料を用いているので……エリオットをイメージしました」

「まぁ‼素敵です‼」


 目をキラキラさせた女性は、自分の治療したテディベアとカクテルを見比べ、嬉しそうにカクテルを口につけたのだった。

『楊貴妃 (Yang kuei fei) 』


ショートドリンクに分類される、桂花陳酒をベースとするカクテル。

正式名称は、楊貴妃・カクテルだが、通常、楊貴妃と省略する。

なお、このカクテルには青系統の色が付いているが、これはブルー・キュラソーに含まれる合成着色料の青色に由来している。したがって、合成着色料の摂取を避けている場合は、注意が必要なカクテルである。


目次

標準的なレシピ


桂花陳酒 = 30ml

ライチ・リキュール = 10ml

グレープフルーツ・ジュース = 20ml

ブルー・キュラソー = 1tsp (約5ml)


作り方

桂花陳酒、ライチ・リキュール、ブルー・キュラソー、グレープフルーツ・ジュースをシェークして、カクテル・グラス(容量75〜90ml程度)に注げば完成。

グラスに花を飾ることもある。


カクテル名に関する話題


楊貴妃という名称は、中国の唐の時代の皇妃であった楊貴妃の好物がライチであったと伝えられていて、そのライチを原料の1つとするライチ・リキュールを使っている事が命名された由縁ではないかと考える。

しかし、才色兼備の女性の代名詞として楊貴妃の名前を使ったのではないかという説や、楊貴妃が、ライチを好んだと伝えられているので、 このカクテルにライチ・リキュールを使用することを決定したと言われる。


『三国志 愛のテーマ』は細野晴臣さんの曲で小池玉緒さんが歌っています。

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