『Continue』
今日は寒波の第2波到来とラジオでは伝えていた。
マスターは家に滅多に帰ることはない。
奥の休憩室に毛布と枕などがあり、お客様が長居をして送り出した後、戻って寝ると言うのも面倒でそのまま仮眠をとることも多い。
昨日もそうで、仮眠をとると近くの銭湯に行き、糊の効いたシャツに着替えると身支度を整える。
そして、そう言えば、受験シーズンだったなとラジオで聞いていた内容を思い返し、今日は気分を変えてお客様をおもてなししようとCDを選んだ。
カラン……
ドアベルがなった。
物静かと言うよりも、落ち込んでいる様子の青年である。
「いらっしゃいませ。お客様」
マスターは銀のスプーンを磨きながら微笑む。
「寒かったでしょう。暖かいこちらにどうぞ」
「ありがとうございます」
滅多に雪は降らないが吹雪いていたのか、肩や頭が真っ白になっている。
「大丈夫ですか?タオルを……」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます」
コートを脱ぎ隣の椅子にかけると、席についた。
「ここは……雰囲気は趣があるのに、曲は……」
「あぁ、すみません。私のその日の気分で選ぶものですので……」
「そうなんですか……SEAMOのCDがかかっているとは思わなかったです」
「そうですか?」
クスッと笑う。
実は、このベストアルバムCDは、珍しく聞いて気に入って購入したものである。
「すみません……もしよければ、気分の晴れるようなカクテルと言うのはありませんか?目標を見失いそうで……」
青年の言葉に、マスターは頷いた。
「かしこまりました」
カクテルグラスを用意すると、分量を丁寧にはかり、シェーカーを振った。
そしてゆっくりとグラスに移し、青年の前に差しだした。
「どうぞ。曲と共にお楽しみ下さい」
「ありがとうございます」
青年はオレンジ色のカクテルを口にして、じっと見つめる。
「これは……」
「オリンピック(Olympic)というカクテルです。今流れている曲は『continue』。諦めず続けてこそ、世界にたてるのだと思います。不知火寛爾さんですよね?迷い悩んでも、貴方には未来があります。ですから、今日はここで愚痴をどうぞ。明日からは、未来を探して下さい」
「……ありがとうございます。今日一日だけ……甘えさせて下さい」
「良いですよ。お酒の上での話は、なかったことですからね」
マスターはウインクをしたのだった。
『オリンピック(Olympic)』
ブランデーベースのショートドリンクカクテル。
フランス産まれのカクテルで、「ホテル・リッツ・パリ」で作られたとされている。
1900年にパリで開催された第2回オリンピックを記念して作られた。
時代と共にレシピが変化してゆくカクテルがある中で、このカクテルのレシピは変わっていない。
標準的なレシピ
ブランデー : オレンジ・キュラソー : オレンジ・ジュース = 1:1:1
作り方
ブランデーとオレンジキュラソーとオレンジジュースをシェークして、カクテル・グラス(容量75〜90ml程度)に注げば完成。
オレンジジュースは、その場でオレンジを絞ったものを使用するのがベストであるが、市販のジュースを用いても良い。




