『夢であるように』
今日も寒い日だった。
首都圏や北陸東北地方等、出勤の人々は、猛吹雪で大変そうである。
冬になると、お客はやはり減る。
特にマスターのこの店は狭く、大人数は入りきれないし、常連客もいるが毎日来る訳ではない。
しかし、最新式のデッキに買い換え、こつこつと集めたCDはかなりの枚数になり、その上常連客が聞かなくなったと言っておいて帰る場合もある。
今日はあるお客が、
「大好きなんだけど移したから、貰ってくれないかしら?」
と置いて帰ったCDから、お気に入りの曲の入ったアルバムを見つけ、かけていた。
DEENのアルバムである。
ZARDの坂井泉水さんに提供して貰った曲などもあり、とても有名な曲が多く、それに声に癖がなく聞きやすい。
カラン……
ドアベルが響き、現れたのは一人の青年……。
清潔そうな身なりだが、表情は固い。
「いらっしゃいませ。寒いでしょう。どうぞ」
「ありがとうございます」
マフラーを外しコートを脱ぎ、近づいたのは30前の青年。
重苦しい表情でスマホをカウンターに置いて座った。
「エアコンの温度をあげましょうか?」
「いえ、大丈夫です。マスター、もしよければカクテルをお願いできますか?」
「かしこまりました」
微笑む。
そして準備を始めた。
「……あれ、この曲は……」
「あぁ、DEENのCDです。ご存知ですか?」
「えぇ‼この『ベストアルバム』を持っています」
楽しそうに笑い、そして陰る。
「……ドライブによくかけてました」
「そうですか……」
青年はカウンターに肘をつき、組んだ手の甲に顎をのせる。
「……彼女と別れちゃいました。新年早々。俺としては……結婚を考えてて、その為にも必死に残業をして……でも、彼女のことを忘れてはいなくて、ただ必死だったのに……いつから食い違うようになっちゃったんだろう……」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
青年は、グラスを引き寄せる。
「これは……?」
「ソウル・キスです」
「曲も?」
「いえ『夢であるように』ですね。ゲームの挿入歌になっていますよ」
「……そうなんですね……夢であるように……もう無理だと思った」
ゆっくりとグラスを傾ける青年は、
「ソウル・キスは少し今の自分には苦いですね……」
と呟いたのが、マスターには響いたのだった。
ソウル・キス(Soul Kiss)
ワインベースのカクテル。
標準的なレシピ
ドライ・ベルモット ・・・ 2/6
スイート・ベルモット ・・・ 2/6
デュボネ ・・・1/6
オレンジ・ジュース ・・・1/6
- デュポネはキナ樹皮を使ったフランス産のアペリティフ・ワイン。
他のレシピ
ドライ・ベルモット ・・・ 2/6
ライ・ウイスキー ・・・ 2/6
デュボネ ・・・1/6
オレンジ・ジュース ・・・1/6
作り方
シェークする。
カクテルグラスに注ぐ。
- 素材に合わせて、シェークではなくステアしても可。
備考
アルコール度数が高い(35度程度)。




