『サウスポー』
年末に酔っぱらっていた高校時代の友人、雄堯の息子の雄洋が今日はやって来ていた。
大人しい印象の雄洋だが、ビックリしたのは一緒に来たのは宣子である。
「こんばんは。マスター。お久しぶりです」
「こちらこそ、お元気そうで何よりです」
今日は、女性デュオのピンク・レディーを選んでかけている。
独特の色気とダンス、歌声にいまだファンは多い。
「マスター。篠に会ったんでしょ?元気だった?」
「えぇ。宣子さん。雄洋さんがビックリしてますよ」
「あぁ、雄洋くんは後輩なのよ。去年入ってきたの。経理の知識は豊富なんだけど、余り人と話さないから、お局様がからかっちゃおうと思って……」
「宣子さん。駄目ですよ。後輩と言っても、年が変わらない筈ですよ」
マスターの声に、
「それはないでしょう。この童顔ですもの」
「あ、えっと、今年30になります……」
「えぇぇぇ‼私より3才上‼」
「アハハ……よく言われるんです。でもそれに、実家の手伝いをしていたので、就職って言うのは初めてで……まだまだ新米ですから……」
「そう言えば、マスター。どうして古西くんの事を知っているの?」
興味津々の宣子に、苦笑する。
「雄洋さんは、私の高校時代の悪友の息子なんです。昨年、会いに来て下さったんですよ」
「へぇ……そうなの。マスターの友人って言うと篠と、酒屋さんの高坂さんしか思い浮かばないわ」
「そうなんですか?マスターは友人が多いのかと……」
「……」
珍しく苦笑するマスターに、宣子は、
「マスター?ねぇ?今日は珍しいのね?私の母が好きでかけてた曲よ?」
「あぁ、ピンク・レディーの曲ですね」
「そうそう。私も歌えるわ。ほらこの『ペッパー警部』とか」
流れてくる曲に、マスターは今度は微笑む。
「では、少々お待ち下さいね?」
と、手際よく準備を始める。
そして、『サウスポー』に曲が変わると、二人にカクテルを差し出す。
「これは?」
淡いピンク色のカクテルを見つめ、雄洋が問いかけると、
「『ピンク・レディー』と言います。イギリスで1912年上演された『ピンク・レディー』と言う舞台の打ち上げで、作られたカクテルなのだそうです。日本の『ピンク・レディー』は、この舞台名から取られているそうです。どうぞ」
「ありがとうございます」
「じゃぁ『ピンク・レディー』はデュオだから、お局様と新人で同士として、よろしくお願いします」
「お局様どころか、優しいじゃないですか……よろしくお願いします」
二人は目を合せ、そしてマスターに微笑むと、カクテルに口をつけたのだった。
後日、二人から、付き合うようになったと揃って挨拶に来たのはご愛敬である。
『ピンク・レディー』
ジンをベースとするカクテルでショートドリンクに分類。
グレナデン・シロップと卵白を使うため、ピンク色に見える。
由来
発祥の地はイギリスで、1912年に上演されていた同名の舞台にちなんでおり、主演女優のヘーゼル・ドーンに対して打ち上げパーティの席上で捧げられたのが最初。
なお、日本のアイドルデュオ・ピンク・レディーの名前は、このカクテルからとられた事で有名。
一般的なレシピ
・ドライ・ジン - 45 ml
・グレナデン・シロップ - 20ml
・卵白(鶏卵) - 1個分
手順
材料をシェイカーに入れ、きれいなピンク色になるよう、グレナデン・シロップの量は微調整する。
氷と共に強くシェイクする。卵白が入っているので、特に強くシェイクする必要がある。
ソーサー型のシャンパン・グラス、またはカクテル・グラスに注ぐ。




