『みんな夢の中』
今回は、間章となります。
深夜に、寒さが堪えると思っていたが、玄関の扉を少し開けて外を見ると、雪が降ってきていた。
今日は高田恭子のアルバムを選んでかけていたが、寒さにエアコンの温度をあげて、カウンターに戻った。
マスターの携帯電話は、仕事用と私用を持っている。
お店の客や取引のあるお店からの電話は、すぐに取れるように、手を伸ばせる棚に置いている。
しかし、私用の携帯電話はカウンターの奥にある休憩室のテーブルの上に置いていた。
仕事中は絶対に取らないようにしている。
その為、友人でもあった高坂などは、店に来るようにしていた。
マスターの私的の携帯電話は、もうほとんど鳴らなくなっていた。
思い出したように充電をするだけで、見ることもない。
教えていた知人や友人も縁遠くなり、親族とも距離を置くようになった。
遺産相続、借金を頼み込むような電話も嫌になり、取らないままだ。
「もう、どうにでもしてくれ……!」
あの時、マスターはそう言い放った。
「何をいっているんだ! お前は……」
「うるさい! いつもそうだ、あんたたちは、じいさんたちの金目当てじゃないか! 面倒なことを全て俺に押し付けておいて、じいさんたちが病気が悪化している今になって、病院じゃなく、これか!」
「遺産相続権は平等だ!」
「遺産遺産……うんざりだ!」
今日は、誰も来ない……。
このような虚しい思い出を、繰り返し思い出すのは、過去の選択を後悔していると言うよりも、孤独が心を蝕みそうになる時があるからだ。
小さくため息をつき、思い出したように一つのカクテルを作る。
「……『午後の死』……ヘミングウェイに乾杯」
壁にあるのは愛読書のヘミングウェイの小説。
そして、スピーカーから流れるのは『みんな夢の中』……。
全て……夢であったら、良かっただろうに……。
私は、夢の中に微睡もう……。
『午後の死』
英語名「デス・イン・ジ・アフタヌーン」(Death in the Afternoon)とも呼ばれている。
有名な作家、アーネスト・ミラー・ヘミングウェイが作ったカクテル。
カクテルの名前は、ヘミングウェイの短編小説の題名でもある。
レシピ
・シャンパン(ヘミングウェイの指定によるとマムズ) - 3/5
・ペルノー - 2/5
元々は黒色火薬をシャンパンで割ったものだったが、余り一般的でなかったので、アブサンへと代わった。20世紀初頭アブサンが禁止になり、ペルノーで代用されるようになった。現在は、アブサンが禁止されていた国でも解禁されており、アブサンを使用するレシピが復活している。
・シャンパン(ヘミングウェイの指定によるとマムズのもの) - 3/5
・アブサン - 2/5
なお、ペルノーを使うレシピでもシャンパンとペルノーを 3:2 の割合でグラスに注ぐのではなく、ペルノーを45ml注いで適量のシャンパンでグラスを満たすレシピもある。
・ペルノー - 45ml
・シャンパン(ヘミングウェイの指定によるとマムズのもの) - 適量
作り方
シャンパン・グラスにペルノーを注ぎ、マムズを静かに加える。




