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あるバーのマスターの話  作者: 刹那玻璃
マスターの章
11/66

『青い珊瑚礁』

 今年は暖冬だと言うのに、今日は大型の寒気が居座り、一気に寒くなった。

 マスターは今日はホットカクテルを提供しようかと、出入り口の看板をopenに変更しながら思っていた。


 曲をかけたのはミュージカル女優で、有名なアニメ映画の声を演じた神田沙也加さんの母である松田聖子さんのアルバムであり、可愛らしい声と有名な作詞家、作曲家に提供された曲もあってファンは多い。

 ちなみに、マスターは渋めの曲が好きなので、今日かけるのは躊躇った事実もある。


 カラン……ベルが鳴り、現れたのは去年から来るようになった祐実ゆみである。


「マスター、こんばんは!」

「あぁ、祐実さん。こんばんは。年末年始はいかがでした?」


 渋い顔になり、


「……もう。酷いです。マスター。思い出したくなかったのに……」

「あ、そうだったのですね。すみません」

「あ、ごめんなさい。ちょっと新年早々イライラというか、ちょっと不安定なだけ……」


今度はため息をつく。


「実は……実家に帰ったら弟が結婚するって彼女連れてきて、そうしたら、向こうのお父さん方は小姑わたしがうるさいんでしょ? 見合いを紹介するって……」

「……お疲れ様です」

「良いですよ。本当に小うるさいおばさんですから。それに、実はこのお店を見つけたのは、好きだった人……結婚を意識して付き合っていた相手に『会社の上司のお嬢さんと結婚することになった』って言われたんです」


 ニッコリと笑う。


「もう半年前から距離を置かれ始めて、しかもあの日、その婚約者さんが一緒に来て……ほら、ね?」


 バッグから出したのは、結婚式の招待状と年賀状である。


「でも、良かった。あの時はショックというよりも、あぁやっぱり……と思って、でもボーッと歩いていたらお店の明かりが優しくて……引き寄せられるように扉に。そうしたら、マスターの優しい声にホッとして……」


 バッグからスマホを取り出すと、操作をする。


「……これで終わり。この葉書も破って燃やそうかと……」


 マスターがそっと灰皿を出すと、


「ありがとうございます」


言いながら丁寧に破る。

 ライターをマスターに差し出されると、躊躇いもなく火をつける。

 火を見つめつつ、


「前を向きたいと思うんです。もう、ベソベソ泣くのは嫌だし……ただ、楽しい一年にしたいです。マスター。わたしの将来に向かって笑える。楽しい一年に……」


炎を本当に真剣にみいっていたが、マスターはそっとカクテルを差し出した。


「……まぁ……綺麗ね」

「少しアルコールが強いのですが、楽しんで下さい」

「今回は、どんな名前です?」

「この曲と同じですよ」

「えっ?」


 いつの間にか曲は代わり、『青い珊瑚礁』になっている。


「曲から考えられたのかしら?」

「いいえ、実はこの曲は、1950年に日本名は『青い珊瑚礁』。英語では『Blue Coral Reef』として生まれたので、曲の方が後ですね。でも、こちらは冬ですので普通のグラスの回りにレモンだけでなく、グラニュー糖を」

「綺麗ね……私の心もこんなに綺麗だったら……」


 目を伏せると、頬に一筋涙が伝う……。


「ありがとうございます。戴きます」



 曲が流れる中、静かに涙を流しながら祐実は、前を向こうと決意したのだった。

材料


ドライ・ジン - 40ml

グリーン・ペパーミント・リキュール - 20ml

マラスキーノ・チェリー - 1個

レモン - ハーフカットのものを用いる。


作り方


カクテル・グラスのエッジ(縁のこと)をレモンで軽く濡らす。

材料をシェイクしグラスに注ぐ。

チェリーをグラスの底へ沈める。


備考


オリジナルのレシピでは、カクテル・グラスのエッジをレモンで濡らすだけだが、最近ではグラニュー糖でスノー・スタイルにすることもある。

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