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結婚行進曲に載せて

作者: 海豹

祭壇を照らす陽の光が優しい。

稲穂を撫でるような風が、悪戯に教会の鐘を微かに鳴らしている。

その心地よい響きは、直下の礼拝堂を包み、穏やかな空気を纏わせた。


そんな穏やかな雰囲気に馴染めていない、僕。

僕だけが、この場所で一人体を強張らせている。

慣れないタキシードで身を固め、右手に持った手袋を汗で濡らし、泳がせてしまう目線が客席の友人とぶつかる――もう何回目かも覚えていない。


行き場のない視線を祭壇に向ければ、神父が微笑んでいた。

僕の視線に気づいた彼は、なぜが慌てた様子で前方に手を差し伸べる。

釣られて指し示す方をへと、目を向けた時。


reulich geführt ziehet dahin,wo euch der Segen der Liebe bewahr’!

≪誠実な気持ちで進み行かれよ 愛の祝福に満ちた場所へ≫


パイプオルガンと、讃美歌の美しい調べが一気に礼拝堂を包み込んだ。

そして、長い長い通路の先。大きく開け放たれた扉。


君がいた。


お義父さんと腕を組み、歩み寄る君の顔はベールでうかがえないはずなのに。

物凄く真顔でいることが、不思議と分かった。

なんだ緊張しているんだな。僕も、君も。それにお義父さんも。


Streiter der Jugend, schreite voran!

≪若き勇者 歩み行かれよ≫


思わず零したような僕の笑みを見て、君は微かに首をかしげる。

僕は穏やかな気持ちで彼女に手を取った。もう、恐れは無い。


「幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います」


強張った君の指に輪を通し、誓いを口にする。

君はまだどこか気を張り詰めた様子で、僕になされるがまま。

ベールを上げて顔を伺うと、君は下唇を軽く含み目を泳がせている。

やっぱり。笑いそうになるのをこらえ、彼女に顔を近づける一瞬に、信じて と囁いた。


え? と彼女の顔に疑問符が過ぎった。僕はそんな半開きの唇にやさしく、口付ける。


「君を幸せにする」


Siegreicher Mut, Minne so reineint euch in Treue zum seligsten Paar.

≪誠実なる勇気と愛の恵みにより 汝等は貞淑で祝福された夫婦となろう≫


再び見つめ合う。

君はようやく、陽だまりの様な笑みを浮かべた。

久々の1000文字制限描写練習の文です。

結婚式の写真を選ばれた時には、どうしてやろうかと悩みましたが、なんとか形になってよかったです。

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