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ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~  作者: 古都助
第一章~狼王族の国・ウォルヴァンシアへの移住~
6/261

プロローグ~それは始まりの記憶へと想いを運ぶ~

2018・11・25 改稿。



『――な、さいっ。私には』



 ――愛しき想い出(記憶)の宝箱。

 今はもう、深い、深い……、眠りの底にある『幸福』と、『後悔』。


 世界を舞う穏やかな風、頭上に淀みなく澄み渡る爽やかな大空。

 漣さざなみのように足元を擽ってくる青々とした地上の緑と、美しく咲き誇る花々。

 可愛らしい小さな命達が戯れている微笑ましい姿を見守っているのは、数多の白い柱達。

 気が付けば、すぐ傍には愛する温もりが在って、その人達の微笑みに心を抱かれていた。

 ……だけど。


『――けた事を言うな! お前は、お前はっ!!』


 全てが幸福で満たされていたわけじゃなかったけれど……。

『私』には愛する人達がいた。幸せな日常と呼べるものが、確かに、その記憶の中にはあった。

 いつまでも続く、平穏な日常。約束されていた。変わる事はなかった、『私』の、幸福。


『ごめんなさい……っ。ごめん、な、さっ』


 どうにか保たれていた、平穏な時間ときの終焉。

 不吉にも思える程の暗雲が世界を覆い尽くした、その晩――。

 危うい均衡は決定的な、決して取り返しのつかない亀裂によって砕け散り……。

 様々な人の心に、酷い傷を刻んでしまった。


『――じゃないっ! ……る、……お前、はっ、……何故っ』


 何度も首を振り、泣き崩れそうになりながら、謝罪ばかりを口にするしかない『私』。

 裏切った。逃げた。……怖がりで、臆病なこの心が、大切な人達を傷つけ、歪みを生み出す原因になった。

 叩きつけられる悲哀と、憎悪、怒り……、恨み。

『私』の選んだ道がもたらしたものは、収束や平穏とは程遠い……、どれだけ泣き叫んでも消えてくれない、絶望の凶刃だった。

 

『――し、て……? 何故、……どうしてっ!!』


『――ら、……な、い。どうして、……お前、が。……こうな、……った、はず、だっ』


『――めだっ!! 今の君にはっ!!』


『――だっ!! 嫌だっ!! ……めっ、……俺達を、俺達を……っ!! うわぁああああああああああっ!!!!!』


 ――『私』の愚かさが招いた悲劇。

 日々、大きく膨れ上がっていた、不安と危惧。

 そして、臆病すぎる心が引き起こした、……『最後』の記憶。

 










 かけがえのない場所、愛おしい人達。……決して、失いたくないと願った、『私』の全て。



 ――この手で壊した。引き裂いた。大切な人達に辛い思いをさせ、絶望に叩き落したのは、自分自身。

 胸の奥を苛む、狂おしい罪苦と切なさ、何度も繰り返す……、悲哀の声。

 許される事のない罪を抱えながら……、このまま泡のように消えてしまえたら、と。

 そう望んでしまうのは、『私』の中に、弱くて臆病な浅ましさがあるから……。

 何もかもから感覚を塞ぎ、膝を抱える愚かな私……。

 終わりを感じる事の出来ない閉じられた世界の中で、……やがて聞こえたのは、誰かの優しい声。



 ゆっくりと開いた視界の中に、一条の小さな光が見えた……。



 とても、小さな小さな……、けれど、それを見ていると落ち着く事の出来る、優しい光。


 けれど、『私』にはそれを求める資格がない……。そうやって、再び視界を閉ざそうとしたその時。






 ――また、あの優しい声が聞こえた。遠くからだった小さなそれが、やがて私のすぐ傍に寄り添うかのように……。






 まだ何も終わってはいない、終わらせはしない、もう一度……。

 その人の姿は、柔らかな光に包まれていて誰かはわからなかった。

 ただ、私を抱くその優しい温もりと、光へと向かう勇気を授けてくれる懐かしい声音が、徐々に『私』を絶望の深淵から掬い上げてくれて……。

 先に光へと歩み出したその人が、私へと手を差し伸べてくる。

 一人で歩けない道も、誰かの温もりと一緒なら進んでいける、だから……。






『もう一度、始めよう』






 怯えながら差し出した私の手を、力強い励ましの感触が前へと連れ出してくれる。怖がらなくていい。

 これから歩んで行く道は、皆で手を取り合って進んで行く道だ。そう、顔も姿も光に包まれているその人が、希望の道へと一緒に消えるその瞬間、優しく微笑む姿が見えたような気がした。






『一緒に行こう……。絶望を抱える世界から、新しい、【始まりの記憶】へと』






 後悔も悲しみも、――今度こそ、幸せの色へと変える為に。


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