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ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~  作者: 古都助
第三章『魔獣』~希望を喰らう負の残影~
220/261

女帝の思案と王兄姫の我

 ――Side 幸希


「神の目とも呼ばれるエリュセードの月にまで干渉するとはな……」


 まだ完全には修復の終わっていない玉座の間で、国を治める君主が座すべきその場所に腰を据えているディアーネスさんが、珍しく感情の中に強い苛立ちの気配を滲ませた。

 そのすぐ傍には、憂い顔のシュディエーラさんが空中に『記録』と呼ばれるガデルディウスの神殿を取り巻く周囲を含めた映像を表示させ、首を横に振っている。


「エリュセードの三つの月を穢すあの黒銀の闇……。あれは即ち、神々の恩恵と守護の力からもこの皇国を隔てるという事です」


「ガデルフォーンと、表側のエリュセードを繋ぐ空間の力が強まったとの報告もきている……。そして、三つの月があれの干渉を受けた直後、新たな報告を受けた」


「報告っていうか、……皆、それなりに気づいてるよね。『自分の中の魔力の調整が難しくなってる』って……事」


 まだ気怠いその身体を壁側に預け、力のない声音と共にディアーネスさん達を見遣ったのは、漆黒の色に染まった騎士服を纏っているサージェスさんだ。

 皇宮内の医務室で目を覚ましたサージェスさんのそれは、青いラインと紫のラインが所々入っているのだけど、その生地の大半は白だったはず。

 それなのに、何故……、漆黒に変化してしまったのか。

 流石に気になったのか、カインさんが変化の理由を聞いてみたけれど、『心境の変化かな』と、苦笑と共にはぐらかされてしまい、結局わからずじまいだ。

 

「魔力の弱い子はあまり違和感を感じないかもしれないけど、俺や陛下達、ルイちゃんレベルになると、結構面倒なんだよね……」


「それだけじゃねぇだろ……。なんか、俺達の魔力が抑え込まれてるような、面倒な感覚がすんだよ」


「カインさん……、それって一体」


 私のすぐ右横で頭を掻きながら吐き捨てたその言葉に、首を傾げる。

 魔力の調整が難しくなり、力を抑え込まれている……。

 じゃあ、何も感じてはいない私は、力が弱いから影響がないのだろうか……。

 だけど、玉座の間で放出したあの不思議な力と魔力の事を思い出すと、あれで弱いのか……、とちょっとだけ怖くなってしまった。

 

「恐らく、一定量以上の魔力を抱く者は全員サージェス殿やカイン皇子のように感じているだろう。俺もそうだが……、ユキ、お前もそうだろう?」


「え……。私は、何ともないよ? 疲れてはいるけれど、それ以外は何も」


「異世界の人間との混血だからかなー……。陛下もシュディエーラも俺達と同じ状態のはずだよね?」


「うむ。我は宝玉の加護がある故、お前達よりは身軽いが……。ユキの存在は、この世界に縛られぬものと考えて良いようだ」


「希少な存在ですからね……、ユキ姫殿は」


「うんうん、その生態を調べる為に変な人から目を付けられないといいんだけどねー。とまぁ、ユキちゃんに何もないのなら何よりだけど……。陛下、魔獣が復活した後の事、上手くいくと思う?」


 魔獣の復活……、それは、すでに避けられない未来だった。

 私がガデルフォーンの皇子様達の魂と接触した後、ディアーネスさんと一緒に向かったのは、ガデルディウスの神殿の……、上空。

 最初は何も目にする事は出来なかったけど、彼らは教えてくれたのだ。

 私の中に隠れている力は、意識さえすれば、呼びかける事をすれば、ちゃんと応えてくれるものなのだと……。

 玉座の間で暴走を引き起こし、その後にも少しだけ私の中から滲み出した魔力と、別の力。

 それを思い出すと、正しく使えるのだろうか、自分で制御を出来るのだろうかと胸に不安を抱えたけれど、自分を信じる事こそが一番大事なのだと、ディアーネスさんが教えてくれたから……。

 だから、私は初めて自分の中に眠る力に向かって声をかけた。

 私の中に在る力は、謂わば、私自身のようなもの……。

 一緒に生まれてきたこの力とわかりあえないはずがない。

 強く……強く、祈った。

 どうか、ガデルディウスの神殿に起きている不穏を、私達の目に映して……。

 そう願い続け、暫く経った頃、――変化は起きた。

 『蒼』、『黄金』、『白銀』、三食の光が交ざり合いながら私の身体を縁取り、私の手に触れているディアーネスさんへとその光の道を辿らせ始めたのだ。

 そして、私の瞳は黄金のそれへと変化し、見えなかった存在を眼前に晒し出した……。

 夢の中で見た光景と同じ、神殿の周りを、蜷局とぐろを巻く蛇のように蠢く……、黒銀の不気味な光。

 それは地中深くへと潜りながら、魔獣の封じられている空間へと魔の手を伸ばし、特殊な空間を通り、黒銀の光を纏う蛇のようなその姿で、少しずつ瘴気を送り込むパイプのような役割を果たしているのだと、そうガデルフォーンの皇子様達は教えてくれた……。

 ガデルフォーン皇国という世界の外にある瘴気だらけの空間から繋がっているそれは、魔獣の封じられている内側にいる者にしか感じ取るが出来ないらしく、静かに……、ゆっくりと時間をかけて、魔獣の封印を中から破壊しようとしているのだと……。

 膨れ上がった瘴気を中にいる魔獣が受け続ける事によって、やがてそれは……、想像もつかないほどの爆発的な威力を以て永きに渡ってその身を戒めてきた空間の封印を破る日がくる。

 何故その力を、片鱗でも感じ取る事が出来なかったのか、それはまだわからないけれど、ガデルフォーンの各地で起きていた小さな力だけを有する『場』に起きていた異変は、どうやらただの囮のようだった。

 瘴気を神殿の内部に注ぎ込んでいたそれは、強い力の在る場に根を張って、ここまで続いている。

 そして、小さな『場』の方は、魔術師団の人達の件があった後、新たに他の強き力を有する『場』からの干渉が始まり、神殿に瘴気を注ぎ込む役割を果たす通り道となってしまった。

 古の魔獣が……、間違いなく、再びこの世界にその獰猛な牙を剥く為に目覚めてしまう。あの子供達が望む、血の惨劇が……、永き歴史の果てにもう一度起こる。

 その為、ディアーネスさんは神殿から戻った後、万が一を考えて進めていた魔獣の再封印の準備を急がせた。

 宝玉の力がもたらす恩恵を魔術師団に与える為、皇宮の地下深くでその力を高める為にエリュセードの神々に祈りを捧げていたのだけど……。


「ディア、今戻った!」


 重苦しくなっていく玉座の間に、神殿から戻ってきたラシュディースさんが駆け足で飛び込んできた。神殿の奥深くに、魂の抜けたその肉体を生かす為の処置を施されている皇子様達の様子と、再封印に関する計画の進行状態を彼女に代わって見に行ってくれていたラシュディースさん。

 ルディーさんによく似たその面差しには、色濃い疲労の気配が浮かんでいる。


「弟達の肉体は皇宮の方に戻すよう手配が始まっているが、ユキ姫殿の力は凄いな……。その力に触れた者にも神殿に起こっている不穏が目に見えるようになった」


「お役に立てて良かったです。あの……、封印の間の様子は」


「そちらも、隠されていた内部の変化がはっきりと感じ取る事が出来るようになった。あの様子では……、確かに封印を守るよりも、一度それを破壊されるのを待って、それから再封印に望みをかけるほうがいい」


 私の中に在る力は、触れている間だけではなく、試しに皆にも見えるようにお願いしてみたら、なんと神殿内にいる魔術師団の人達にもその恩恵をもたらしたのだ。

 私に触れていなくても、神殿に起きている恐ろしい事態を目に映し、感じ取れるように……。

 暴走を引き起こした時は恐れる存在でしかなかったそれが、意識し、自分自身だと思う事で、この心を通わせる事によって、優しく穏やかなものへと変わった。

 ううん、元々は、最初からそうだったのだ……。

 けれど、その存在を知る事もなく、目にしてから怖がる事しか出来なかった私では意味がなかっただけで……。

 基本的には、ルイヴェルさんの魔力を借りた時にやっていた方法で合っていた。

 かと言って、あまり大盤振る舞いで調子に乗ってはならないと、ディアーネスさんから注意されはしたけれど。……誰かの役に立てるようにこの力を少しでも使えるようになった事は、素直に嬉しかった。

 

「だが、まさか……、エリュセードの神々の目とも言うべき月に干渉されるとはな。神殿に残っている魔術師団の者達が、力の調整が上手くいかず焦りだしている」


「魔獣が解き放たれた際に、私達が後手にまわるようにという……、あの者達の企みでしょうか」


「シュディエーラよ、たとえそうであろうとも、狼狽える事はない。魔獣復活の際は、我が宝玉の力を揮い、封印を邪魔させぬよう取り計らう」


「陛下……」


 ラシュディースさんとシュディエーラさんからの案じる気配を乗せた視線が、冷めた瞳の中に決意の光を宿す女帝陛下へと向かう。

 ガデルフォーンの至宝……、世界を支える神秘の宝玉。

 その力は、持ち主以外にも恩恵をもたらし、魔力の増幅などにも効果がある。

 けれど、……私はそこで、ある疑問を抱いた。

 口にしていいのかはよくわらかない。だけど、……宝玉は、その中に在る力は、果たして無限のものなのだろうか。

 前にシュディエーラさんから聞いた話では……。


「あの、……宝玉の力は、使いすぎたら、どうなるんでしょうか」


「ユキ姫……」


「ユキ姫殿……、もしかして、私が以前にお話しさせて頂いた時の事を思い出されましたか?」


「はい……」


 宝玉の主な機能は、ガデルフォーンの世界維持と制御、安定。

 確かに恩恵として、力の増幅的なものもあるらしいけど……。

 底のない湧き水のような効果を発揮し続ける事は可能なのだろうか。

 魔獣と対峙し、神々の加護を失った者達の魔力バランスを調整し、再封印に導けるのか……。

 シュディエーラさんは憂い顔で下を向くと、ディアーネスさんに問うような視線を向けた。


「結論で申し上げますと……、宝玉にも力の限界はあります。ただ、どれだけの力を引き出そうと、最後には世界を維持する力だけは保護されると、そう……、古来の文献より情報を得てはいますが」


「それが残ろうとも、魔獣がこのガデルフォーンの地を喰らい尽くせば、全ては無駄な事……。ユキよ、お前は我に、魔獣を封じるまでに宝玉の力を持続させられるかと、そう聞いておるのだろう?」


「はい……。でも、正確に言うと、少し違います。ディアーネスさんの宝玉の力があとどれぐらい残っているのかはわかりませんけど、それが尽きた後……、魔力を調整出来なくなった皆さんの取るべき行動についてです」


「確かにそうだよな……。ユキの言う通り、この状態じゃ術を行使するのも面倒だ。その上、力を抑え込まれていくようなこの感覚だ。状況的にヤバイだろ」


 緊迫した声音と共に、カインさんが傍にいる私やレイル君と頷き合う。

 神秘の宝玉が力を失った際に、世界を維持出来ても、魔獣を封じるすべを安定し行える方法が損なわれれば、混乱が起きるのは必至だ。

 

「案ずるな……。宝玉の力はお前達が考えているよりも、まだまだ底は在る。だが……、万が一そのような事態に陥れば、我は宝玉の導きにより、この力を揮う事としよう」


「ディア、それは……」


「陛下、どうか……、早まったお考えは抱かれませんように」


「そうだよー、陛下。まだまだ陛下の為に頑張ってくれる人材はいっぱいいるんだし、一人だけカッコイイ事しようとするのはやめておきなよー」


 宝玉の導き……。ガデルフォーン側の皆さんの会話から察すると、ディアーネスさんにはまだ奥の手があって、それをする事によって、状態を打破出来ると、そういう言っているように聞こえる。

 そしてそれは……、間違いなく、彼女の命を犠牲にするような行為に違いない。

 国を、ひとつの世界を治める統治者としては当然の判断なのかもしれないけれど、そんな事……。


「あの、ディアーネスさん、さっきの会話から思ったんですけど……。私は、エリュセードの月があの黒銀の闇に覆われても、特に変化を感じていません。それどころか、皆さんよりも身軽というか、その……、私の中に在る力を、皆さんの役に立てる事は出来ないでしょうか?」


「ユキ……」


 アレクさんが私の肩を抱き、無理をさせるわけにはいかないと制止の言葉を挟んでくる。

 だけど、唯一影響を受けていない私の存在がもし、何かの役に立てるのなら……。

 調子に乗っているわけじゃない。ただ、私の中に在る力が少しでも、ディアーネスさんに最悪の結末を選ばせる可能性を減らせるのなら……。


「ユキよ、お前の気持ちは有難く思う……。だが、その本質をまだ把握しておらぬ以上、お前の力を当てにするわけにはいかぬ。神殿の異変を見せてくれただけで、十分だ」


「ディアーネスさん」


「それに、お前にもしもの事があれば、レイフィードが黙ってはおらぬだろうからな。魔獣を封じ、無事にお前をウォルヴァンシアへと帰す。それが、我があの男と交わした、違える事があってはならぬ誓いだ」


「そうだね……。これから起こる事は惨劇どころの騒ぎじゃなくなるだろうし……。ウォルヴァンシアの人達には、避難用の空間に入って貰うべきだろうね」


 避難用の空間。それは、ガデルフォーン皇国内に住まう人々が自分達の安全を図るために身を隠し、危険を回避する為の別空間。

 きっと今頃、これから何が起こるのか、無事に自分の家へと帰る事が出来るのかと、皆さんは不安になっている事だろう。

 私も、足手纏いになる可能性を考えると、……勧めに従って避難すべきだとはわかっているけれど。

 だけど……、それは出来ない。私の頭の中で、ディアーネスさんの傍を離れてはいけないと、そんな不思議な警鐘が鳴り響いているのだ。

 

「ディアーネスさん、お願いします。決して邪魔になる場所にはいないようにしますから、どうか……、私をこちらに残してください」


「出来ぬ……」


「お願いします!! 絶対に、邪魔は……、しません、から」


 自分でもわかってる。何を我儘な事を言っているのだと。

 だけど、どうしてもディアーネスさんの傍を、ううん、傍にいられなくても、その姿が見える位置にいなきゃいけないという衝動が湧き上がってくるのだ。

 そんな私を理解出来ないと訝しむ面々の視線も当然だとは思う……、だけど。


「私はここで、ディアーネスさんから、あるがままの姿を見るようにと言われました。この皇国で体験した事、目にした事、感じた事……、全てを自分の糧にするように、と。私は、全部、見て帰らなきゃ、この心に刻んでいかないといけないって、そう思うんです!」


「ユキ、お前がそう思う気持ちは尊い。だが、戦う力のないお前をここに残すわけにはいかないだろう」


「レイル君……、確かに、私はまだ自分の力を扱いきれないし、出来る事も少ないよ……。だけど、さっきから……、何か変なの。隠れてはいけない、逃げちゃ行けない。これからの事を全て、目にするべきだって……、頭の中で音にならない声が聞こえるの」


「声……?」


「うん。それに……、まだ目を覚まさないルイヴェルさんの事もあるし」


「はぁ……、お前、言い出したら頑固だもんなぁ。おい、レイル。もう好きにさせてやれよ」


「だが……」


 私の頑固さを以前に目の当たりにしているカインさんが、私の頭をポンポンと軽く叩いて、まさかの同意をしてくれた。

 呆れを隠さない表情だけど、何だか微笑ましく見られているような気もする。

 カインさんのその表情に安堵していると、反対側からアレクさんの反対の声が上がった。


「駄目だ。安全な場所があるのなら……、ユキにはそちらに避難して貰うべきだ」


「俺もアレク君に賛成……と、言いたいところだけど。何だろうね。俺も何だか……、ユキちゃんはこっちにいた方が良い気がしてきたよ。俺の勘って、結構当たるんだよね」


「無責任な事を言わないでくれ、サージェスティン……。ユキは、その身の内に途方のない力を抱いてはいても、戦うすべは持たないんだ。古の魔獣を相手に……、俺達が最後まで守ってやれるかどうかも」


「アレクさん……」


 私を自分の方へと抱き寄せ、断固として避難の選択肢を選ばせようとするアレクさんに、この人を悲しませてしまうつもりではないのに、と心の奥が鈍く痛んだ。

 アレクさんを悲しませたくない、困らせたくはない……。

 他の人達にも、本当は迷惑なんてかけたくはない。

 きっと私が本来とるべき最善の道は、邪魔にならないように別の安全な場所にいる事。だけど……、私の中に、譲れない衝動が衰えず奥底で息づいているのだ。


「すみません、アレクさん……。私は、ガデルフォーンに残ります」


「ユキ!!」


「おい、ユキが決めた事だぞ? 危ない目に遭う事も、全部承知の上だ。そこまでして決意するって事は、俺達にはわかんねぇ何かがあるって事だろ。たまには見守ってやれよ」


「お前は黙っていろ……。これから起ころうとしている事は、俺達の手に負える問題じゃない。自分の身を守る事も危うくなるかもしれないのに、もしもユキに何かあったら」


「そん時はそん時だろ」


「貴様!!」


 アレクさんが、私から離れ、カインさんの胸倉を掴みあげてしまう。

 レイル君が止めに入るけれど、その怖い程の気迫とカインさんを睨み付ける眼光の鋭さは弱まらなくて……。私も急いで止めに入った。


「やめてください、アレクさん!! カインさんは、私が言い出したら聞かない事をよく知っているからっ」


「俺だってなあ!! 気持ち的にはユキを避難用の空間に放り込みてぇんだよ!! だけどな……、普段は物わかりのいいユキが、珍しく我を張ってんだ!! それを無視して俺達の勝手で閉じ込めちまったら、絶対こいつが後悔すんだろうが!!」


「カインさん……」


 あくまで私を守り通す方法を選ぶと主張するアレクさんと、私の意思を尊重してくれるカインさん……。どちらの発言も、私の事を想ってくれての事だ。

 だから……、自分の我儘で二人を困らせて喧嘩させてしまう事が、本当に申し訳ない。私が折れてしまえばいいのに……、心の奥底で避難所には行きたくないと声が響き続ける。


「ユキ……。魔獣は、全てを喰らい尽くす存在だ。お前がどんな覚悟を持っていたとしても、その眼光に定められたら最後、お前はその身を引き裂かれてしまうかもしれない……」


「……正直、怖いです。とっても。いいえ、怖いどころの騒ぎじゃないと、そう思います。アレクさんが心配してくれる気持ちも、凄く有難いです……。だけど、私は……、ここにいなくてはいけない、そんな気がして仕方がないんです」


「ユキ……、俺は、うっ」


「え、アレクさん!?」


 不意に、再度私に何か言おうとしたアレクさんが、自分の頭を押さえたと思った瞬間、前触れもなく玉座の間の中央で倒れ込んでしまった。

 カインさんもぎょっとその場から飛び退いて「お、おい!!」と、焦りの声をあげる。

 レイル君とサージェスさんがアレクさんの傍に膝を着き……、その身体に起きた異変を診はじめると、「どういう事だろうね……、これ」と呟く声が聞こえた。


「サージェスさん、あ、アレクさんに一体何がっ」


「凄い勢いで体調が悪くなってる……。体内の魔力値も下がりきってるし……、突然、というか、これ、前から変調があったんじゃないかな」


 身体つきの良いラシュディースさんが駆け寄り、アレクさんをその腕に抱き上げると、サージェスさんの指示に従って玉座の間を大急ぎで出て行く。

 私もそれを追って出て行こうとしたけれど、ディアーネスさんに止められその場に残されてしまった。

 私とカインさん、シュディエーラさんとディアーネスさんの四人だけになった玉座の間……。

 早くアレクさんの後を追いたいのに……。


「ユキよ。お前の決意は十分にわかった。この地に残る事を許そう」


「本当ですか!?」


「お前の中で眠る未知数とも言うべき力……。それの意図が働いているのかもしれぬが……、覚悟を抱いておるなら我に言う事はない。レイフィードには恨まれそうだが、お前の事は我が最後まで守ってみせよう」


「ですがユキ姫殿、くれぐれも無理はなさいませんように……」


「は、はい!!」


 この地に残ると駄々を捏ねた以上、私はディアーネスさん達の邪魔にならないよう、守るべき約束事を弁えなくてはならない。

 足手纏いにならないように、ディアーネスさんが再封印の際に余計な気をまわさないように、私は在るべき場所で、しっかりと起こるその事態を見守る。

 それをしっかりと約束し、運ばれて行ったアレクさんの後を追うべく、私はカインさんと共に玉座の間を後にした。

普通に考えれば、ただの女の子が激戦区に残ろうとするのって、どう考えてもおかしいのですが、幸希が残りたいと強く思った考えの根底には色々と理由があります。

ひとつは、ガデルフォーンの皇子達の魂から託された最後の『伝言』。

そして、もうひとつは……。

これについてはお話がまた先に進んだ時に明らかとなります。

一応自分の意思もあるんですけどね(*'ω'*)

(アレクが倒れた事には触れないのか!!)

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