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ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~  作者: 古都助
第一章~狼王族の国・ウォルヴァンシアへの移住~
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騎士団と女性騎士さんと!

 レイフィード叔父さんから聞かされた、――狼王族ろうおうぞくの話。

 人と狼、ふたつの姿と共に生まれた彼らは、人でもあり獣でもあった。

 現実では、私の生きていた今までの世界ではあり得ない……。

 そんな不思議な話を聞いた私は、やっと疑問が解けた気がした。

 何故あの人が……、アレクディースさんが、私をあんな切なそうな眼差しで見つめていたのか……。それは、彼が……、私の傍に寄り添い、心の支えとなってくれた狼さんだったから……。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あの話から数日後。

 今、私は……、ウォルヴァンシア王宮内にある、騎士団の訓練場へと来ている。

 訪問理由は勿論、あの人に、アレクディースさんに会ってお話をする為だ。

 数日前の騒動の後、あれから一度もアレクさんには会っていない。

 いつも傍にあった、銀色の毛並みの狼さんのぬくもり……。

 あんな事があったのだから、姿を見せられないのはわかっているのだけど……。

 それでも私は……、あの人にもう一度会いたいから……。

 だから、勇気を出して騎士団までやってきた。


「すごい、こんなに広いんだ……」


 騎士団の訓練場がある入り口付近で立ち止まると、私はその中の光景に目を大きく見開いた。その場所はとても広々としていて、大勢の人達が剣技を磨く為の訓練に熱心な様子を見せている。

 互いの動きを探り合いながら、何度も剣を打ち合ってはそれを繰り返しているようで、男性だけなのかと思っていた騎士団には、意外な事に女性の姿もあった。

 男性に負けることなく繰り出される剣技は華があり、とても美しい。


「あ、見惚れてる場合じゃなかった。アレクディースさんを探さないと……」


 今日はアレクディースさんと会って、お話をするというのが私の大事な目的だ。

 それを成し遂げる為にも、誰かに声をかけて彼の居場所を聞かないと……。

 でも、皆さん凄く集中して訓練を行っているから、どうにも声を掛けにくい。


「あの、失礼ですが、騎士団に何か御用でしょうか?」


 その時、中に入る事に気後れしていた私の背中に、少し低めの綺麗な女性の声がかかった。吃驚びっくりして肩を揺らした私は、小さく悲鳴を上げてしまった。


「申し訳ありません、驚かせてしまいましたか?」


 クスリと、私の反応に苦笑を漏らした女性が申し訳なさそうに謝ってくれる。

 剣を腰に帯剣しているから、きっと彼女も騎士さんなのだろう。

 彼女は歩みを進めると、私の前で立ち止まった。


「私は、この騎士団にて副団長補佐官を拝命しております、ロゼリア・カーネリアンと申します」


「あ、あの……、は、初めまして! 私は、幸希といいます。実は、副団長のアレクディースさんにお会いしたくて……」


「……ユキ、あぁ、ユキ姫様ですね。ご帰還されたという話は聞いておりましたが、中々ご挨拶にあがれず、大変申し訳ありませんでした」


「い、いえっ、そんな気にしないでくださいっ」


 私に声をかけてくれた女性、ロゼリアさんは二十代前半程に見える、夕陽と共に煌めくよな髪色の、とても綺麗な人だった。

 後ろ頭の高い位置で髪を結んでいるようで、下に向かって逆扇のようにそれが広がりを見せている。美しい女性という魅力の中に、凛々しい気配を兼ね備えた、魅力的な女性だ。礼儀正しい物腰がとても好印象だし、こんなに素敵な女性だったら、きっと同性にも人気があるに違いない。傍にいて守ってほしくなるような、そんな包容力がある。


「有難うございます。ユキ姫様はお優しい方ですね。この不肖ロゼリア、貴方様を守る騎士の一人として、誠心誠意お仕えしたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします」


「こ、こちらこそ、ありがとうございます! えっと……、それで、アレクディースさんの事なんですが」


「あぁ、そうでしたね。副団長との面会を希望されておられるようですが……、申し訳ありません。現在、副団長は騎士団長の命により、ユキ姫様とはお会いする事が出来ないのです」


「え……」


「詳しい事情はご説明できないのですが、騎士団を束ねる長の命は絶対ですから……、本当に申し訳ありません。ただ、あと一週間ほどすれば、面会は可能となりますので、その時までお待ちいただきたく……」


「そう……、ですか」


「それに……、今はお会いにならない方が副団長の為と申しますか」


「え?」


 ロゼリアさんの表情が翳りを帯びたと思ったら、地面に視線を落として、どこか遠くに意識が飛んでいるような様子になってしまった。

 吐き出された溜息と、その憂い顔は一体……。


「あの……、アレクディースさんに、何かあったんですか?」


「い、いえ、大した事ではないのですが、副団長もお一人で考えたい事があるようですので、暫くの間はそっとしておいて頂けると助かります」


 私の問いかけに、ロゼリアさんの視線が不自然に泳いでいる。

 何かを隠しているような……、誤魔化そうとしているような……。

 そんな雰囲気のロゼリアさんを見ていたら、きっと何か深い訳があるんだろうなと思えた。色々聞きすぎて、困らせてはいけない。


「あの、じゃあ……、ひとつだけ、お願いしてもいいですか?」


「はい、副団長との面会以外であれば、なんなりと」


 私は手提げ袋に入れてきた、手作りの焼き菓子をラッピングした袋入りのそれをロゼリアさんに手渡した。この王宮の料理長さんにお願いして、厨房の一角を貸してもらって作ったお菓子。

 料理が凄く得意、というわけではないけれど、地球から持って来たお菓子のレシピを見ながら、一生懸命に想いを込めて作った焼き菓子。

 同じような調理器具や機械に関して心配はあったけれど、電気の代わりに魔力で動く便利な道具や機械によく似た物があったから、特に問題はなかった。

 その際に、メイドさんと料理長さんにも手伝ってもらったから、味は多分大丈夫なはず。あの有名店の焼き菓子とは味も形も違うけれど……、私はアレクさんと仲直りをしたいから……。今までお世話になったお礼と、私に出来る精一杯で焼き菓子にその想いを込めておいた。

 だから……、せめてこれだけは、アレクさんの手に渡ってほしい。


「あの、これを副団長さんに渡していただけないでしょうか? 会う事が出来ないなら、……せめて、これだけでもと思って……。それと! こっちの大き目の袋の中身は、騎士団の皆さんでどうぞ!! 何人いらっしゃるかわからなかったんですけど、とりあえず、たくさん作っておきました!!」


「私達のぶんまで……、ですか? ユキ姫様、本当に有難うございます。このロゼリア、ユキ姫様よりお預かりしたこの品を、必ずや副団長の許にお届けいたしましょう」


「はい! お願いします!!」


 アレクさん用の袋と、騎士団の皆さん用の袋を抱えたロゼリアさんが、私に恭しく一礼し、快く頷いてくれた。

 女性的な魅力を感じるのに、その洗練された動きと気配の中に、男性とはまた違う力強さみたいなものを感じる。なんというか、女子高でよくある、『お姉様~!!』的なときめきが私の胸にっ。


「ユキ姫様、どうかなさいましたか?」


「あ! い、いえっ、何でもありません!! じゃ、じゃあ、私、これで失礼しますね!!」


「ユキ姫様、もしお時間があるのでしたら、騎士団の訓練の様子を見て行かれませんか? 団員達が喜ぶと思いますので」


「いいんですか?」


「はい、ユキ姫様のご帰還を皆喜んでおりましたので。お姿を拝見できれば、訓練の励みにもなるかと」


 ロゼリアさんの優しい笑みに誘われて、私は騎士団の訓練場へと足を踏み入れる事になった。

 最初は、剣がぶつかり合っている様子を間近で見てしまってビクビクしてしまっていたのだけど、団員の皆さんはとても良い人ばかりで、陽が傾く頃にはすっかり打ち解けて話が出来るようになっていた。本来の目的であるアレクディースさんには会えなかったけれど、皆さんのお蔭で楽しい時間を過ごせたと思う。

2014年、5月4日。改稿しました。

2015年、3月28日。文章の揃えなど、その他修正しました。

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