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ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~  作者: 古都助
第三章『遊学』~魔竜の集う国・ガデルフォーン~
157/261

希望と『宝玉』

☆ガデルフォーン皇国元第一皇子、ラシュディースの視点で進みます。

 ――Side ラシュディース


「アルフェウス!! アルフェウス!! しっかりしろ!!」


「はぁ、……はぁ、っ、ら、ラシュ、ディース、兄、上……っ」


 鍵の掛かった部屋を蹴破り飛び込んだその部屋は、俺のすぐ下の弟、アルフェウスの私室だ。

 そして、そこで見たものは……、寝台で息も絶え絶えに血を吐いている弟の姿だった。

 正気には戻っているようだが、この大量のぶちまけられた吐血と、アルフェウスの苦しみ方は一体。全身を震わせて謝罪の言葉を口にするアルフェウスを宥め、治癒の術を行使する。


「大丈夫だっ、必ず、必ず助けてやる!!」


「兄上……、はぁ、はぁ、……わ、私、は、何という、恐ろしい、事をっ」


「喋るな!!」


 アルフェウスの手を握り締め、必死に治癒の術を掛け続ける。

 だが……、どれだけ手を尽くしても弟の苦痛は和らがず、服越しに出血の気配が出始めた。

 アルフェウスは持病などは持っていなかったはずだ。なら、これは……。

 突然の病かとも思ったが、何かが違う。

 

「ラシュ兄上!! 部屋にいる兄上達がっ、兄上達が……!! ――アルフェウス兄上!?」


 他の部屋を見て回っていたディアが飛び込んで来ると、冷静さを完全に欠いた焦り様で涙を浮かべていた。今苦しんでいるアルフェウス同様、他の弟達も全員、同じ症状に苦しめられていると……。全員が同じ瞬間に同じ病を発病するわけもない。

 だとしたら、これは恐らく――。


「ラシュさん、かなり不味い状況だよ……。弟さん達全員瀕死に近い。一応それぞれの部屋に治療用の術を仕掛けてきたけど……」


「ラシュディース様、このままでは……」


 あの少女が、その消滅の間際に残した置き土産、というべきか……。

 弟達を苛んでいる病、いや、呪いにも似たこの症状は……、普通の治療法では追いつかない。

 その上、アルフェウス一人だけではなく、何人もの弟達が同じ状態だ。


「……ディア、頼みがある」


「ラシュ兄上……?」


 兼ね備えている気丈さも、冷静に何かを考える思考も、今のディアにはないようだった。

 まるで幼子にでも戻ったかのように涙を零し、座り込んで胸を抑えている異母妹。

 俺はディアの前に膝を着き、その両肩に手を置いた。

 

「ガデルフォーンの、女帝となってくれないか?」


「……我、が?」


「そうだ。アルフェウスを、弟達を助けるには、『宝玉』に込められた神の力が必要だ。多くの者を一度に救い上げる、絶大な力が……。だが、俺は皇家を、皇帝としての立場を捨てている。だから、俺では資格がないんだ」


「だから、……我に継げ、と?」


 押しつけがましい事だとはわかっている。

 だが、親父が生きていた頃に、俺はその体内に宿る『宝玉』に断りを入れてしまっている。

 それを、今更になって頼んだところで、気位の高い『宝玉』が俺を受け入れるわけもない。

 その点、ディアであれば問題はない。責任感もあり、次代の王としてその責務も立派に果たせる事だろう。


「そうすれば……、兄上達を助ける事が、出来るのか?」


「あぁ。『宝玉』の力を使って、俺や魔術師達の魔力を倍増させ、アルフェウス達を救う。その為に、俺やシュディ達は『ガデルディウスの神殿』にアルフェウス達の身体を移動させる」


「ラシュディース様、ですがあの場所は……」


『ガデルディウスの神殿』……。それは、古の昔に、国を荒らしまわった魔獣を地下の奥深くに封じている『場』のひとつだ。

 その場所を利用すれば、ディアが受け継ぐ『宝玉』の力と合わせて、弟達を一度に助けられる可能性を飛躍的に上げる事が出来る。

 封じられている魔獣を呼び起こさない様、『場』の力を調整すれば大丈夫のはずだ。

 ディアは躊躇いの気配を僅かに見せたが、すぐに頷いてくれた。


「兄上達を、必ず助ける……」


「有難う、ディア。――サージェス、皇宮に仕掛けた薬の効果を解いてくれ。魔術師団の者達を起こして、アルフェウス達の移動を始める」


「りょーかい」


「それでは、私はディアーネス様に……、いえ、次代の女帝陛下に付き従います」


 ディアは臣下としての礼を取ったシュディに頷き、足早に部屋を出て行く。

 その華奢な背中には……、もう、次代の女帝たる者の覚悟が、強く宿っていた。


「ラシュさんの妹さん、頼もしいねー」


「あぁ、自慢の妹だ。俺などよりも、何倍も王に相応しいだろう?」


「ふふ、確かに。ラシュさんは自由と愛の為に生きたけど、あの人は国や民の為に生きてくれそうだね」


 その通りだ。俺は第一皇子としての教育を受けながらも、常に外の世界を求めていた。

 こんな俺では、ガデルフォーンの民を導くには足りなさすぎる。

 だが、あの異母妹ならば……、俺達の思い描いている期待以上のものを、民に与えてくれる事だろう。

2016・10・06

改稿完了。

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