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ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~  作者: 古都助
第三章『遊学』~魔竜の集う国・ガデルフォーン~
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ガデルフォーン皇家の悲劇

「――それでは改めまして、こちらは元、ガデルフォーン皇家第一皇子、ラシュディース・ガデルフォーン様でいらっしゃいます。本来であればこの方が皇帝となられる身であったのですが……」


「ははっ、元々縛られる身が苦手だったんだ。で、ルディーの母親に惚れたのをきっかけに、ぽーん、と、思いっきって皇族の立場も捨ててしまった、というわけだ。お陰で今はのんびりと自由な日々を過ごさせて貰っている」


「ラシュディース様……、ぽーん、と、貴方が簡単に捨ててしまった為に先代陛下がどんなにお気を落とされてしまったか、お願いですから忘れないでくださいませ」


 呆れ気味に息を吐きながら、シュディエーラさんが自分の隣に座っているラシュディースさんを恨めしげに睨む。


「相変わらずお前は会う度に小言が多いな、シュディ。あれか? 暫く顔を見せなかったから拗ねているのか? それとも、土産を忘れたせいか?」


「知りません」


 冗談めいた意地悪な笑顔でシュディエーラさんの頬をぷにっと指先でつついているラシュディースさんもあれだけど……、何だろう、この光景は。

 麗しの宰相様のお部屋に招かれて始まった、夕食代わりの軽食の席。

 そこで語られたラシュディースさんの肩書は予想通りだったけれど、目の前のソファーに座っている二人の関係は、主従というよりも友人関係のようにも見える。

 ただ……、少しご機嫌斜めの様子なシュディエーラさんが何だか子供っぽく見える上に、あのラシュディースさんの楽しそうな笑顔。ついでに……、触手ファミリーの皆さんが久しぶりに帰還したと思われる元皇子様の首にこれもまたやっぱり嬉しそうに巻きついて締め上げている。

 

「なぁ、……こいつら、仲良いん、だよなぁ?」


「しゅ、シュディエーラ殿……っ、触手達を止めた方がいいんじゃないのか? それ以上締め上げると、ラシュディース殿がっ」


「はははっ……、シュディなりの再会の喜びを表す仕様だから気にしなくても……、うぐっ」


「ら、ラシュディースさん!? ちょっ、顔が青くなってますよ!!」


 大丈夫大丈夫と手を弱々しく振ったラシュディースさんだけど、それ以上は本気で死亡ルート一直線だから早く触手達を振り払ってぇええええっ!!

 けれど、顔面蒼白で叫び手を伸ばす私達とは対照的に、元皇子様は朗らか一直線だ。

 触手に巻きつかれて笑顔でいられる事も凄いけど、この人は命の危機というものを感じないなのだろうか……、はぁ。

 ようやく触手達が満足して離れた時には、当事者よりも私達の方が疲弊しきっていた。


「しかし、久しぶりに戻ってみれば、まさかお前達がこの国に遊学中だったとはな。タイミングが良かったというべきか」


「ラシュディース殿と以前にお会いしたのは、一年程前ですね。お元気そうで安心いたしました」


「あぁ、もう少し顔を出せればと思うんだが、なかなか、な……。それに、俺がウォルヴァンシアに行くと、アイツが怒る」


「あの、アイツ、って……?」


 軽食のサンドウィッチをひと口食べて甘いジャムの味を堪能した後に尋ねてみると、ラシュディースさんはその朗らかな笑顔を消し、どよ~んと……、項垂れてしまった。

 どうやらラシュディースさんのウォルヴァンシアへの訪問をあまり快く思っていない『アイツ』というのが息子のルディーさんの事らしく、訪ねて行く度につれない態度で追い払われてしまうのだとか……。あぁ、それは確かに辛い。親としてはもっと歓迎の態度を取ってほしいところだろう。

 大変なんですね……、と、私が同情の言葉をかけると、私の右隣に座っていたカインさんがサンドイッチを獣めいた仕草で噛み千切りながら言った。


「あ~、なんかわかる気がするな……」


「カインさん?」


「ラシュ、お前の場合、……んぐんぐ、愛情表現がでかすぎるんだよ。会えばすぐに抱き締めにかかってくるわ、ガキ相手にするみてぇに撫でまわすわ、構いすぎだろ」


「あぁ……、確かに、ラシュディース殿はそういう面があるな。ルディーも、再会するとよく逃げ回っていた」


 子供の時ならいざ知らず、確かにそれは……、ちょっと。

親にとっては子供はいつまでも子供、とはよく言ったものだけど、流石に少し距離を取った方が良いと思う。ルディーさんも見かけは高校生くらいの少年でも、心は大人なんだもの。

 それ相応の扱いで接してあげた方が良い関係を築けるというか、何事も、ほどほどが大事。

 

「滅多に会えないから、顔を見た時ぐらいは親として愛情を示そうとしてるだけなんだが、なぁ……。そうか、俺はウザイか、鬱陶しいのか」


「あ、あのっ、え~と、つ、次からは、顔を見てもすぐに抱き着いたりせずに、距離感を掴みながら話をしてみたらどうでしょうかっ? そうしたら、ラシュディースさんの事を少しは」


「……顔を見ると、抑えられないんだ。可愛い息子をわしゃわしゃと撫でまわしたくなる衝動がっ」


「うっ……、そ、そう、ですか」


 息子さんに冷たくされるのがそれ程までに辛いのか、ラシュディースさんはソファーの上で膝を抱えて体育座りのていだ。妥協案も、努力はしてみるが多分無理、と。

 ……ウォルヴァンシアに戻ったら、一度ルディーさんに相談してみようかな。

 お父さんに少しで良いから優しくしてあげて下さい、って。


「ってかよぉ、そんな事はどうでもいいだろ。それよりも、ラシュ、お前何であの部屋に隠れてたんだよ? 気配も全部消してたろ?」


 焼いた分厚いお肉とソースたっぷりのサンドイッチを手に取ったカインさんが、それをひと口で頬張った後に忘れていた疑問へと戻った。

 ファニルちゃんの後を追って訪れた、あの皇家に纏わる美術品や肖像画の保管庫。

 鍵を開けて中に入ったのはラシュディースさんのようだけど、何故隠れる必要があったのだろうか? 


「別に深い意味はない。ただ、見知った気配が近づいて来たから、ちょっと陰から見守ってみようかと」


「絶対ぇ嘘だろ。大方……、タイミングを見計らって俺達を驚かす気満々だったくせによ」


「ははっ、バレていたか」


「昔よくやってただろうが。はぁ……、けど、それをやんなかったのは、俺達が女帝と他の皇子達の話を始めたからだろ?」


 意味深に細められたカインさんの真紅。

 落ち込んでいたラシュディースさんが姿勢を正し座りなおすと、「まぁな……」と悲しげに微笑んだ。元皇族であり、ディアーネスさんのお兄さんという事は……、今はこの皇宮にいないという他の皇子様達についても、何か知っているのだろう。


「あの女帝は誤魔化しやがったが、『殺した』なんて口にしたんだ。よっぽどの事情があったんだろ?」


「カインさん、それは……」


「お前達だって気になるだろ? あんな言い方されたんだ……。あの女帝に気なんか遣ったりはしねぇが、どうにもスッキリしねぇ」


 無邪気な好奇心からの追及というわけではなく、カインさんの声音には面白がっている気配も一切ない。私とレイル君も……、同じように、彼女が残した翳りが、心の奥底にわだかまっている。

『殺した』と口にした理由。皇子様達の行方。聞きたいけれど、踏み込めないその道。

 ……でも、最初の日に見た彼女の無表情の中に隠れた悲しみの気配と、さっきの部屋での姿。

 それを思い出すと、このまま何も聞かずに話を忘れていいものかどうか、わからなくなって。

 無言になったラシュディースさんの綺麗なアメジストの輝きを見つめながら、膝の上においた両手を握り締める。


「あの……」


「「ユキ?」」


「ディアーネスさんの事、この皇宮にはいない皇子様達の事、聞かせては貰えませんか?」


「……何故? 一応言っておくが、ただの好奇心で踏み込んでいいような話じゃないぞ?」


「わかって、います……」


 ディアーネスさんの胸にあった酷い傷や、言葉少なに語った皇子様達の事……。

 彼女が何故、『殺した』と……、そんな事を口にしてしまうくらいに思い詰めているのか、私は、知りたい。知ったところで力になれない事はわかっているし、ディアーネスさんの負担となってしまう可能性もある。――でも、私は知っている。

 ウォルヴァンシアの皆さんや、元いた世界にいる大事な人達が私にそうしてくれたように、相手の悲しみや辛さを受け止めた上で、そっと寄り添ってくれるその温かな想いを。

 

「私は、ディアーネスさんの事が知りたい……。今のままじゃ、きっとあの人の胸の奥に抱えた思いが何なのかわからずに気になって、どう接していいかわかりません。皇子様達の事を、ディアーネスさんの『殺した』という発言を受け流す事も、出来ない……」


「…………」


「だから、ディアーネスさんの抱えている悲しみを受け止めた上で、私は正面から向き合いたいって、そう、思っています」


 たとえ一ヶ月間の遊学でも、それでディアーネスさんの事を忘れてしまおうとは思わない。

 私よりも遥かにずっと年上で、レイフィード叔父さんの学友でもあった人。

 出来る事なら、ウォルヴァンシアに戻ってからも、私はディアーネスさんと交流を続けたい。

 外見が幼い少女の姿をしているせいもあるけれど、私は純粋に、あの年上のお姉さんとお友達になりたいと思っているのだ。

 そう打ち明けると、ラシュディースさんとシュディエーラさんが真剣な顔で互いを見合い……。


「陛下のお友達に、ですか。ふふ、そうですか、お友達……、ふふふっ」


「あ、あの……」


「流石は、あのレイフィード王の姪というわけか。ははっ、面白い!」


 何で笑われてるんだろう……。カインさんとレイル君も私の両サイドで笑いを堪えているし。

 私、変な事を言ったんだろうか? 他国の女帝陛下様とお友達になりたいなんて、身の程が過ぎた? ちょっと心が挫けそうになった矢先――。


「自分の妹にこう言うのも何だが、あの性格だろう? 中々、友人というものに恵まれなくてな。大抵は、女帝としてしか見られず、心を許せる友人はとても少ない」


「まぁ、見るからにダチ関係ぼっちそうだもんなぁ……」


「カイン皇子、ストレートに言い過ぎだ」


「ははっ、構わん。本当の事だからな。特に、俺がディアに皇位を押し付けてからは、ガデルフォーンの統治に目を向けてきた。自分が友人達と楽しむ時間など、ディアにはなかったはずだ」


 しみじみと申し訳なさそうに苦笑したラシュディースさんに、シュディエーラさんも静かにうなずいて同意する。


「私やサージェスティンなどは、どんなにお傍に寄り添おうと、臣下という枠を外れる事が出来ませんからね……。それに、私達は男性ですし、女性の友人となると……」


 貴族の令嬢達は女帝陛下の御前では頭を垂れ、機嫌をとろうとしてくる事ばかりなのだそうだ。

 だから、損得勘定なしにディアーネスさんと友情を結ぶ者は稀だと、シュディエーラさんは語る。


「ですから、先程のユキ姫様のお言葉、とても嬉しく思います。陛下の事を一個人として心から案じ、嘘偽りのない目で歩み寄ろうとして下さっている……。あの方の臣下として、心よりお礼申し上げます」


「い、いえっ、私がディアーネスさんともっと知り合って仲良くなりたいなぁ~って思ってるだけなんですから!!」


「ユキの場合、こっちが壁を作っても頑固さで踏み越えてくるからなぁ……。俺の時もそうだったろ?」


「カイン皇子……、言っておくが、幼い時のユキはもっと凄かったんだぞ。気性の荒い野生の竜によじ登って友達になろうとしたり、昼寝をしていたルイヴェルの腹にダイブしたり……」


 ちょっと待ってレイル君!! それ、封じられている私の幼い頃の記憶なの!?

 このエリュセードでの、小学校に上がる前の思い出……。

 もし、それが本当の事なら、今すぐにベッドの中に潜って現実逃避に入りたい!!

 どう考えても恐れ知らずな子供としか思えないもの!!


「なるほどな……。つまり、ガキの時はさらに頑固者で行動派だったわけか?」


「うぅ……っ、き、記憶がないのでわかりませんっ!!」


 ニヤリと笑いながらいじろうとしてくるカインさんの真紅の双眸が、物凄く楽しそう!!

 

「今は随分と落ち着いた性格になったようだが、俺の知っている幼い頃のユキ姫は、レイルの言う通りの子供だったな。だが、どんなに時が経とうと、その心根が変わっていない事、俺は嬉しく思うぞ」


 本当に、本当に嬉しそうに……、ラシュディースさんとシュディエーラさんが私を見ている。

 ただ、ディアーネスさんの事を知って、受け止めて、お友達になりたいと言っただけの私に。

 

「ユキ姫殿、どうぞ」


「あ、ありがとうございますっ」


 からになっていた紅茶のティーカップ。

 それに温かな流れを注いでくれたシュディエーラさんにお礼を伝えていると、ラシュディースさんが表情を改めて口を開いた。


「話そう。我が異母妹の心に寄り添うと誓ってくれたその心に、ガデルフォーン皇家に起きた……、忌まわしき悲劇の記憶を」


「いいんですか?」


「あぁ、それに、カインとレイルも、ディアの事を心配してくれているようだからな」


 そっと視線を流したラシュディースさんが捉えたのは、そっぽを向いて否定しているカインさん。

 そして、「女帝陛下の御心を少しでも理解出来るのなら」と、頷いたレイル君の姿。


「これは、今から百年近く前に起きた事なんだが……、俺とディア、そして、弟達の父親である先代のガデルフォーン皇帝が、ある夜に惨殺されてしまった事が発端だった」


 惨殺……。物騒なその言葉に、私達は生じ始めた緊迫感を肌と心に感じながら息を呑む。

 

「俺達家族は本当に仲が良くてな……。俺も、皇家を出たとは言っても、時々は顔を見せに戻って来ていたんだ。いつも、ディアや弟達が歓迎してくれて、本当に……、幸せだった」


 けれど、その幸せはある日の晩、何の前触れもなく打ち砕かれてしまった。

 里帰りをしていたラシュディースさんが皇宮に顔を見せ、城下に出掛けていたその晩……。

 

「酒場で飲んでいた俺は、異変を感じ取った……。親父の、当時の皇帝の気配が急激に弱まっていく感覚。嫌な予感を覚えた俺は、すぐに皇宮へと戻った」


 そして、真っ直ぐに皇帝陛下の気配が感じられる私室へと急いだ、その先で……。

 ラシュディースさんは同じく異変に気付いたシュディエーラさんと一緒に、見てしまったそうだ。

 

「あまりにも残酷な手口で身体を傷つけられ、息絶えようとしている親父の姿……。そして、その光景を呆然と立ち尽くしながら見ていた、ディアの姿を」


「陛下は……、ディアーネス様は、見てしまわれたのです。私達と同じように、父君をその手にかけた者の姿を」


「殺された、って……、言いました、よね? 一国の皇帝陛下を、一体誰が」


 代々、ガデルフォーンの地を守る皇帝様達は、『宝玉』と呼ばれる神様が与えてくれた至宝を受け継ぎ、並居る挑戦者達にも絶対に負けない強さを持っていたという。

 そんな相手を……、誰が、どうやって、手にかけたというのだろうか。

 続きを待っている私達に見えているのは、先を話す事に躊躇いを感じているお二人の辛そうな表情。


「……親父を手にかけたのは、俺の弟達だ」


「なっ!!」


「おい、どういう事だよ……。お前らの家族、仲良いって言ってたじゃねぇかっ」


「いいや、俺達家族の仲が良かったのは本当の事だ。だが……、弟達の中の数人程が、親父を殺したのも事実なんだ」


 仲睦まじい家族。けれど、殺されてしまった先代の皇帝陛下……。

 ラシュディースさんの話では、血溜まりの中に沈んでいた自分達のお父さんを冷たく見下ろし、皇子様達は助けの手さえ差し伸べなかったらしい。

 そして、そんな自分のお異母兄さん達の姿を目撃してしまったディアーネスさんは辛い現実からその心を逃がすように身動きも取れず……。


「親父を手にかけた弟達は、次に狙いを俺達に定めた」


「私とラシュディース様はディアーネス様を連れ、必死に逃げ延びました……。皇都の中ではなく、国内の遥か遠き地へ……。そうしなければ、きっと私達は先代陛下のように殺されていたでしょうからね」


「あの時の弟達は……、正気じゃなかった。何かに操られているかのように平然と俺達に攻撃の手を仕掛けてきたからな。……お陰で、俺は殺された親父を助ける事さえ出来ず、親不孝を犯した」


 心痛な面持ちで膝に両肘を着いて組み合わせた手の甲に額を乗せたラシュディースさん。

 零れ落ちたその吐息は、後悔と悲しみが滲むものだった。

 大切なお父さんを助けられず、その場から逃げる事しか許されなかった過去の記憶。

 それがどんなに辛く、後悔に溢れたものであるのか……、私の心にもその波が押し寄せてくるかのようだ。


「そうしなきゃ、ラシュ達が殺られてたんだろう? なら、親父さんだって大事な息子達が逃げ延びてくれた事を喜んでくれてるさ。そうだろ?」


「カイン……、あぁ、そうだな」


 信じ難い光景と、向けられた殺意の念。

 私もカインさんと同じように頷き、天国にいるラシュディースさんのお父さんもそう思っているはずだと言葉にして伝えた。

 突然起きた異変と、その犯人である一部の皇子様達……。

 それを目の前にして、家族を大事に想っているラシュディースさんが応戦出来るわけもない。

 

「……ディアを連れて逃げた俺達は、翌日、追い打ちをかけてくるような事態を味わう羽目になった」


 惨殺された先代の皇帝陛下。その事実は皇都に伝わり、民の心を大きく動揺させた。

 一度自分一人で皇宮へと戻ったラシュディースさんは、玉座の間で棺に納められたお父さんを陰から見守り、葬儀の後……。――恐ろしい言葉を聞いてしまった。


「親父を殺したのが……、ディアだという報を、弟達が国中に流した」


「自分達でやった事を……、ディアーネスさんに? 何でそんな事にっ」


「勿論、親父の殺害に関わっていなかった方の弟達も反論した。だが、俺のすぐ下の弟……、アルフェウスが独断専行をしてしまってな。国中に手配書がばら撒かれた」


 それを聞いてしまったラシュディースさんはすぐにディアーネスさん達の許に戻り、濡れ衣を着せられた事実を伝えた。

 けれど、その時のディアーネスさんはお父さんを殺されたショックと、その犯人がお異母兄さん達だという事実の二つに打ちのめされ、人形のようになってしまったらしい。

 

「ディアーネス様は異母兄君達に構われ過ぎる事を面倒だと仰っておられましたが、本当は違うのです。本当は、皇宮での生活に、家族との在り方に、確かな幸せを感じておいででした。だからこそ、あの晩の光景を容易には信じれきれず、正気を取り戻されるまでには暫しの時がかかりました」


「俺はシュディにディアを預け、情報の収集に奔走した。親父を殺したのは弟達で間違いないが、自分達の意思でやったとは到底思えなかったからな。そして、情報を集めている内にディアもどうにか立ち直り、その矢先に……、あの娘が現れた」


 瞬間、ラシュディースさんの双眸に抑えきれない激しい憎悪の炎が揺らめいた。

 それはきっと、誰かに対する殺意の情だと、聞かなくてもわかってしまうもので……。

2016・10・04

改稿完了。

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