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ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~  作者: 古都助
第三章『遊学』~魔竜の集う国・ガデルフォーン~
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師弟関係誕生

「痛だだだだだだだっ!! る、ルイヴェルっ、も、もうちょっと、や、優しくっ!!」


「辛抱しろ。十分に優しく治療してやっているだろう? ほら、今度はこっちだ」


「ぎゃああああああああああああっ!!」


 室内に響き渡る残念な絶叫……。出来れば見たくなかった、この光景。

 全身ボロッボロの竜の皇子様を眺めていた私は、悪びれもせず同じ光景を見ている青い髪の騎士様の方をじろりと睨んだ。

 

「ん? 何かなー? ユキちゃん」


「サージェスさん……、少しは手加減というものをですね」


 鍛錬場で、これでもかと開始十分以内でカインさんをボコボコにしてしまった悪魔、もとい、ガデルフォーン騎士団長のサージェスさん。

 その実力差は、とんでもなくかけ離れ過ぎていて……、カインさんに勝てる見込みなど皆無だった。一撃もサージェスさんに与える事の出来なかったカインさんは、容赦なく返り討ちに遭い続け……、現在、ルイヴェルさんの治療を受けている状態だ。

 まずはカインさんの実力を正しく把握する為として行われた手合わせ。

 肩慣らしと称されたその戦いは、どこからどう見ても一方的なものだったのだ。


「ちゃんとしたよー。皇子君相手に本気とか、冗談でも出来ないよ。――死んじゃうからね」


「それならば、もう少し気遣いながら戦ってやってくれ。サージェス殿」


 はぁ、と、疲れた息を吐き出しながら額に手を当てたレイル君にも、サージェスさんはその笑みを崩す事がない。

 カインさんの部屋でマイペースに寛ぎながら、女官さんが運んで来てくれたお菓子に手をつける始末だ。まったく……、この人には罪悪感とか、弱……、もとい、怪我をしたカインさんに対する優しさのようなものはないのだろうか。

 

「ふふ、そんな怖い顔しちゃって……、俺の事、嫌いになっちゃったかな?」


「そういうわけじゃ、ありませんけど……」


「ごめんね? 俺的には、ユキちゃんにあんな光景を見せた事に関しては、結構反省してるんだよ」


「カインさんの方には?」


「全然」


 ……はぁ。物凄く良い笑顔で即答されてしまった。

 

「だってねー、陛下からの命令だったんだよ。皇子君に、今の自分の力がどれほどちっぽけか、それを骨の髄まで教えてやってくれ、って」


「ディアーネスさんが?」


「うん。皇子君はね、素材はかなり良いものを持ってるんだよ。それを中途半端にしか鍛えず、宝の持ち腐れにしているのは勿体ないからね。だから、本人に自覚をさせて、やる気を出させる為にも、って」


 女帝陛下の臣下である以上、逆らう事は出来ないでしょ? と、そう言われてしまっては、もう何も言えない。ちゃんと理由があっての事なのだから。

 でも、……そう頭では理解しても、心の方は素直に頷いてはくれない。

 今も辛そうに表情を歪めながら治療を受けているカインさんを見ていたら……。


「そんな顔すんなよ、ユキ」


「カインさん……」


「ボコボコにされたのは……、まぁ、悔しいんだけどよ。あの女帝と、そいつが言った通り、なんか改めて目が覚めた気分なんだよ」


「え?」


 自分の方が大変な状態なのに、カインさんは心配そうに自分を見ている私に優しい笑みを浮かべ、そう言った。痛みの先に、何かが見えたかのように……。

 寝台に座って治療を受けているカインさんに首を傾げると、彼はとても真剣な目をしてサージェスさんに顔を向けた。


「今からでも、間に合うか?」


「俺達みたいな種族の寿命がどれだけあると思ってるのかな? ――十分に、まだまだ間に合うよ」


「じゃあ、――俺を鍛えろよ。出来るんだろ?」


「ふふ、可愛くお願い出来たら考えようかなー」


「おい……っ」


 頼んでいる、にしては、ちょっと、いや、かなり、カインさんらしい俺様的な言い方だけど、相手も一筋縄ではないかない。

 あきらかにカインさんで遊ぶ気満々のサージェスさんが、茶化しながら微笑む。

 可愛くお願いするカインさん……、なんて、正直ちょっと怖い。

 予想通りぴきりと青筋を立てたカインさんが拳をぷるぷると震わせ、怪我さえなければ掴みかかっていきそうな怒りの気配を漂わせてしまう。


「なーんてね。――いいよ、やる気のある子は大歓迎だ。かなり厳しい訓練になるけど、耐えられる覚悟はあるかな?」


「当たり前だろうが……。痛っ、……やってやるよ、あの女帝の澄まし顔を、ぐちゃぐちゃに歪めてやれるぐれぇによっ」


「威勢は十分だねー。まぁ、君みたいな子は化けてくれる可能性が高いだろうし、教え甲斐もある。明日から楽しみだよ、ホント」


「その内、鍛えた弟子からぶっ飛ばされたりしてな?」


「ふふ、出来るのかなー? ひよっこな竜の皇子君」


 アイスブルーの双眸を楽しげに細めたサージェスさんだったけど、確実に容赦のない鬼畜仕様の先生が誕生したように思えるのは……、私の気のせい、かな?

 にっこりと微笑み続けるサージェスさんと、それを睨み返すカインさんのバチバチと散る水面下の火花に慄きつつ、私とレイル君は疲れ気味に肩を落とした。

2016・02・29

改稿完了。

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