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ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~  作者: 古都助
第三章『遊学』~魔竜の集う国・ガデルフォーン~
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ユキともふもふの出会い

「お、ユキ!! 勉強終わったか~?」

 

 勉強会の後、昼食に向かおうとしていた私達は、皇宮内の中庭に近い回廊を歩いていた。

 視線の先からは、暢気に欠伸をしながら歩いて来る……、サボリの人が約一名。

 今までどこに行っていたのか、自由気ままなカインさんは悪びれもせずに近寄ってきた。


「ほらよ。城下でお前の好きそうなモンが売ってたから土産に買って来てやったぜ」


 そう言って上機嫌に私の手に落とされたのは、小さな子犬のもふもふマスコット。

 確かに私の好みバッチリで可愛いけれど……。


「カインさん、明日からはちゃんと一緒に勉強会に参加しましょうね?」


「気が向いたらな」


 今朝の勉強会についてを咎める事はせず、前向きに明日のお誘いをかけたのにこれだもの……。

 本人が口にした通り、本当に気が向くか、強制的に連行しない限りは参加しないだろう。

 せっかく他国の地に来ているのに、どうしてこうも向上心や真摯な態度と無縁なのか。

 まぁ、ウォルヴァンシアに遊学していた期間も同じようなものだったので、私はこっそりと溜息を吐くだけに留めた。


「なぁ、そろそろ腹が減ったし、どっかに食いに行こうぜ」


「今日は皇宮でと考えているんですけど……、ん?」


「ユキ?」


 ちらりとずらした視線の先……、緑の木々や芝生が美しく整えられた中庭の、花壇の向こう。

 なんだろう、何かが……、ピョンピョンと飛び跳ねている。

 薄桃色の……、長い兎耳に、それを彩る宝石の煌めき……、多分、生き物。

 ふらりと中庭に出た私は、まさかという思いで足を速めてゆく。


「おい!! ユキ!! どうしたんだよ!!」


「あれは、何かに引き寄せられているというか……、ん? 奥にいるのは」


 私に制止をかける二人の声も聞こえず、黙々と奥に向かって進んでいく歩み。

 やがて近くなってきたそれは、薄桃色のもっふもふをいっぱいにして私の視界を埋め尽くした。

 

「「「ニュイ~?」」」


「あ、あぁっ、あああああっ」


 少しぽっちゃりとした薄桃色のボディ、長い兎のようなお耳。

よく見れば、根元にはまた別の、イヤリングみたいな宝石もついている。

 ふっさふさの巨大な尻尾。振り返ってきたお目々はとっても愛らしくて……。


「ファニルちゃん!!」


「「「ニュイッ!?」」」


 私の発した歓喜の声に、可愛らしいファニルちゃん達がビクリとそのぽっちゃりボディを震わせた。あぁ、いけない……、つい、興奮して。

 その場に膝を着き、怖がらせないように出来るだけ優しい声で囁く。


「ごめんなさい。貴方達に会えたのが嬉し過ぎて、つい……」


 ウォルヴァンシアの王宮図書館で見た、念願のガデルフォーン希少生物ファニルちゃん。

 それぞれに瞳の色が違い、中には何故か金髪のウィッグらしきものを被っている子や、眼帯をしている子もいる。個性の主張かな?

 ガデルフォーンへの遊学を決定づけた愛らしい動物との出会いに目を輝かせていると、後を追ってきたカインさん達が私の背後に立った。


「お前なぁ……、一体何をそんなに興奮しまくって……。なんだ、これ」


「我がガデルフォーン皇国の希少生物、ファニルです。可愛いでしょう? 最近はそれぞれにお洒落をする事にハマっているんです」


「お洒落……。では、ファニルの中に服を着ている物や、ウィッグを着けている者がいるのは」


「はい、私がそれぞれの好みを聞いて揃えてあげました」


「希少生物というよりも……、珍妙動物の宴会場のようだな。前よりも酷くなってないか?」


 ポカンとしているカインさんとレイル君の後ろから、ルイヴェルさんが興味深そうに一匹一匹を眺めに出てきた。

 一種のコスプレ会場のような光景だけど、可愛いから問題はない。

 私はシュディエーラさんに許可を取ると、その中で一匹だけノーマルのような姿のファニルちゃんに近づいて行った。


「ニュイ?」


 他のファニル達よりも少し小さい、子供……、かな?

 不思議そうな顔で私を見上げてきたその子に、私はそっと右手を差し出す。

 

「初めまして、触ってもいいかな?」


「ニュイ~、ニュイッ」


 元気よく頷いて貰えた私は、まずは試しにとそのもっふもふの頭を撫でてみた。

 あぁ、想像以上に柔らかくて、撫で心地抜群の気持ち良さ!!

 今度は両手にその薄桃色のぽっちゃりボディを抱き上げ、むぎゅっと胸に抱き締める。


「ふわぁ~っ、もっふもふっ!! 可愛い~!!」


「ニュイニュイ~!!」


 これはクセになる、いや、中毒になってしまうかもしれない危険な魅惑の触り心地だ。

 怖がらせないようによしよしと頭を撫でながら、そっと膝の上に乗せる。

 よし、今度はその小さなお手々を……。


「あ、言い忘れましたがユキ姫殿。そのファニルはまだ躾が終わっていない幼少期の子ですので、うっかり肉球を触ると」


「はい?」


 シュディエーラさんが私の膝の上にいるファニルちゃんを指差すと、こう言葉を続けた。


「飲み込まれてしまいますよ」


 そうニッコリ笑った美貌の宰相様の忠告は、同時にぷにっと押してしまったファニルちゃんの肉球の感触の良さを私に伝えた直後に、意味を成さなくなる。


「ニュィイイイイイイイイイイ!!」


「え?」


 獣の彷徨のように迫力のあるファニルちゃんのその声に驚いた私は、――次の瞬間には突然の闇とご対面する羽目になってしまったのだった……。

2016・02・12

改稿完了。

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