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ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~  作者: 古都助
第三章『序章』~女帝からの誘い~
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国王執務室での話し合い~レイフィード視点~

ウォルヴァンシア王国、国王レイフィードの視点で進みます。

――Side レイフィード


「あぁあああっ、もうっ!!!!!!」


 お茶会の仕様となっているテーブルに打ち付けられる僕の両拳。

 普段なら行儀が悪いと自分で自分を叱っちゃうところなんだけどね……。

 今回ばかりは事情が別、そう、別なんだよ!!

 テーブル上に飛び散った紅茶の滴も、白い皿の上で跳ね飛んだ焼き加減バッチリのクッキーも。

 何もかも、今は些細な事だ。


「レイフィード、ユキとの接触を許したのはお前だろう? 悔やむぐらいなら仲介役を引き受けなければいいというのに」


「うぅっ、ぼ、僕だって……!! 僕だって自分の意思でユキちゃんとそこの友人を引き合わせたわけがありませんよ~!! あぁっ、辛いっ、逆らえなかった自分が心底憎くて、辛いっ」


「はぁ……」


 隣に座っているユーディス兄上から、当然の指摘と一緒に溜息を貰う。

 そして、僕の怒りと絶望を宿した視線は、斜め右前の……、ナーちゃんと仲良くしている魔竜の女帝陛下の少女バージョンの姿へと向かっている。

 イリューヴェル皇国皇帝グラヴァードと同じく、エリュセード学院時代の友人。

 あの晩、迷子のふりをして鳥肌の立つような演技でユキちゃんと接触したディアーネスを回収した僕は、さらなる追い打ちをかけられた。

 

「よりにもよって……、ユキちゃんをガデルフォーンに寄越せ、なんて……、横暴にもほどがあるよ!! この横暴魔竜女帝!!」


「ふぅ、騒々しい奴だ……。何故実の兄弟でこうも違うのか……、ユーディス殿、同情申し上げる」


「大事な姪御を要求されて、平静でいられるわけがないよね!? 僕の反応普通だよね!?」


 しかも、最初は一か月じゃなくて、一年間じっくり自分が預かりたいとか言ってたんだよ!!

 手元に戻って来てくれた可愛い姪御を一年も!! 絶対に許さないょおおおおおおおお!!

 と、凄まじい押し問答の末に、ようやく一か月の妥協案を引き出せたわけだけど……。

 僕としては、一か月でもかなりの大ダメージだよ。はぁ……。

 行くか行かないかについては、ユキちゃんの意思に任せる。

 さらに妥協を見せてくれたディアーネスだけど、静かに佇む彼女のアメジストの双眸は、すでに望む答えを得ているかのようだ。


「はい、ディアちゃん。こっちのロール巻きも美味しいわよ~」


「うむ。かたじけない、ナツハ殿」


 すっかり和んじゃってまぁ……。

 ユキちゃんのお母さんであるナーちゃんと仲良しモードで楽しいお茶会に興じているディアーネスが、勝ち誇ったように笑みを向けてくる。

 たとえ今は他国という未知への戸惑いが大きくとも、最後にはその道を選ぶだろう、と。

 あの子なら、ユーディス兄上とナーちゃんの愛の結晶たるユキちゃんなら、必ず自身の成長を望み、ディアーネスに評された箱庭……、このウォルヴァンシア以外の世界を知りたくなるはず。

 それは彼女だけの見解ではなく、ここにいる全員がわかっている事だ。


「だ~け~どぉおおおおおお!! 早すぎ!! 早すぎだからぁあああああ!! ユキちゃんに遊学なんてまだ早いよぉおおおおお!! あ痛っ!!」


「ユキの事になると、自分の子供以上の過保護さを見せるお前は本当に困りものだね。いや、過保護というよりも、姪御への依存だな。それも重度の……。良い機会だ。一か月間頭を冷やしなさい」


「そんなぁあああああああ!! あ、兄上だって、愛娘のユキちゃんが他国に行っちゃったら心配でしょう!? 遠慮せずに本心を言っていいんですよぉおおおおお!!」


「はぁ……。他国に行かせる事は確かに心配の種となるが、私はお前ほど過保護じゃないよ。あの子が望むなら、父親として笑顔で送り出す気でいるのだからね」


 そりゃあ僕だって、姪御の成長を妨げるような真似なんかしたくないよ!!

 必要な時期がくれば、それ相応の対応をとは思っているし……。

 その手始めとして、先日の舞踏会の場を使ってユキちゃんのお披露目をしたっていうのにっ。

 

「ユキの安全は我が保障すると何度も言っておるというのに……。姪御ではなく、お前にこそ学び成長するという言葉が似合いではないか?」


「僕は僕なりにユキちゃんの今後を考えているだけだよ!! そっちには女帝皇帝の座を狙う挑戦者も多いし、闇町の存在や魔物の件もある。万が一の事を考えるのは当たり前じゃないか!!」


「その万が一を前にしても、自身の力で切り拓けるように我が教育を始めてやると……、これも何度言えばわかるのだ。姪御馬鹿も大概にせよ」


 お茶の席であるにも関わらず、僕の方へと突き出された鋭い長槍……。

 それを寸でのところで鷲掴み、容赦のない一撃を食い止めた僕は、表情を変えない女帝を睨み返す。そんな事は言われなくてもわかっている。

 時が来れば、段階を経てユキちゃんにも身を守るすべや戦う方法を教えようと思っていたさ。けれど、まさかこんなに早く、姪御の成長を急かされるとは思わなかった。


(いや……、ディアーネスからすれば、ユキちゃんを取り巻く環境は、『ベタ甘』、なんだろうね)


 それは嫌悪という負の情ではなく、彼女なりの気遣いの形だ。

 この地に根付こうとしている、無垢なる花が枯れ果てないように、よりよく咲き続ける事が出来るように、他国の地で学ばせ、その成長を促す。

 悪い事ではないし、僕もあの子の成長の手助けが出来ればと、そう考えている。

 だが、し・か・し!!


「ディアーネスぅ~!! 尤もな事言って、本当は自分がユキちゃんと遊びたいだけなんだろ~!! 僕の可愛い姪御ちゃんを着せ替え人形にして、記録シャルフォニアを撮りまくる気なんだ~!!」


「あらあら、レイちゃんたら重度の情緒不安定になっちゃって~。ユーディス、宥めてあげてちょうだい」


「はぁ……。お前と一緒にしてどうするんだい。ディアーネス、すまないね。弟はユキの事になるとどうにも……。ディアーネス?」


 ほら、見てご覧よ!! 僕がズビシッ!! と指を差してやれば、ディアーネスは無表情ながらもその両手をわきわきとさせて「着せ替え人形……、それも良いな」だってさ!!

 絶対に無意識下でユキちゃんと遊びたかったに決まってるんだ!!

 伊達にエリュセード学院時代からの友人やってないんだからね!!

 ユーディス兄上もそんな彼女の様子を見て引き攣った笑いを零しているし、ナーちゃんにいたっては、愛娘の記録シャルフォニアの横流しを頼んでいる。

 ディアーネス自身は自分が着飾ったりするのを面倒臭いとよく口にするけれど、他人は別なんだよねぇ……。


「コホンッ……。ともかく、ユキ・ウォルヴァンシアには遊学に関する選択を委ねる。そして、イリューヴェル皇家が三番目の子、カイン・イリューヴェルは」


「ディアーネス~……、それ不味いよ。何度も言うけど、グラヴァードが黙ってないからね?」


「ふん、あ奴の事など気にする事はない。強き竜の血筋を無駄にせぬよう、我が道を示してやるのだからな」


 うん、だからその問答無用で連行決定するのが大問題だって言ってるんだけどねぇ。

 ディアーネス自身は女帝としての仕事も多いから、ずっとカインに就いているのは無理があるとして、となると……。


「『あの子』をつける気でしょ? 実力は申し分ないけど……、折れるよ?」


 カインの心が。そうジト目でやめるように睨んでみたけれど、ディアーネスは自信ありげに微笑み返してくるだけだ。

 その目ってあれだよね? 「折れたら鍛え直せば良いだけ」的な……。

 一歩も引かない女帝陛下を心強く思えばいいのか、それとも、今頃仕事とカインの事で胃を痛めているだろう友人と対策を練るべきなのか、……どちらにしても、一人はガデルフォーン行き決定だろう。


(せめて……、選択の自由が許されているユキちゃんだけでも……)


 そう情けなく祈ったところで、零れ出たのは自嘲の音。

 

(いや、僕が知っているあの子なら、きっと……)


 胸の奥で常に確信として抱いていた答えが、僕に次の行動に移るようにと命じてくる。

 今僕がやらなくちゃいけないのは、あの子を説得したり、他国に行かせない為の妨害でも、女帝への苦情でもない。


(必要なものを、準備しておくべきだよね)

2015・12・22

改稿完了。

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