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平穏、あとその終わり

小説ってほんっと難しい

とある地方都市にあるここ桜花学園には、部員数二名の第二文芸部があった。

その存在は生徒に広く知られており、彼らの間ではこう呼ばれていた

「朝霧兄妹部?そのまんま過ぎるうえに、語呂悪すぎるだろ」

大体情報のソースが弥生って時点で真偽のほどは怪しいものだ。

「でも、確かにお隣の席の斉藤さんと新田さんが話してたもの」

「お前…また盗み聞きか?」

「違うもん!勝手に聞こえてくるだけだもん!」

「はいはい、そうですか」

哀れ妹。どうしてお前の情報源は盗み聞きばっかりなんだ。

頼むから、友達の一人でも作ってくれ。

それはともかく、斉藤さんと新田さんの言ってることが本当なら――

「いやすぎる通り名だ…」

どうせならもっとカッコいい名前にしてくれ。

これではまるで、兄弟仲がめちゃくちゃいいみたいじゃないか。

「弥生ちゃん、口元チョコレートついてんぞ」

「えっ、ほんと」

「あー違う違うそっちじゃない…いいや、こっちこい」

「ちょ…兄さん、痛いってば」

ゴシゴシ

ほんと、ふざけてる

「とれたぞ」

「ん、ありがと、兄さん」

朝霧弥生。朝霧三兄妹の三番手。友達は少ない、もしくはいない。

そもそもこの第二文芸部を作った理由は、こいつの友達を作ることだ。

生徒会長である俺の強権を発動させて、無理やり作った。

文芸部なのは、こいつが無類の本好きだから。

妹のついでに。

朝霧修。朝霧三兄妹の二番手。男友達はいない、全くいない。

ハイスペック人間と思ってくれて、たぶん大丈夫。なぜ自信がないかというと、一番上の姉に勝てたためしがないから。

「何読んでんだ?」

「今回はね~、司馬遼太郎」

「まったマニアックな…」

「そんなことないよ!私たち位の年齢の人たちにはぜひとも読んでほしい作品ばかりだよ!」息を荒くして言う妹。

「へえ、初めて知ったよ」次貸してもらおう。

用事のない日はいつもここでくつろいでる。

僕の方はほとんど、妹は毎日。

それにしても。

弥生の方をちらっと見る。

こいつは本当に人見知りで、僕なんかが相手の時以外は大抵完全に委縮してしまうかそれとも――

こんこん

ノックの乾いた音がする。

来客のようだ。

しかし、この部屋を訪ねてくるやつと言ったらたかが知れてる。

弥生が身構えてることからもわかる。

「――」

いや、身構えるっていうかむしろ戦闘ポーズじゃね?

「ひつれいしま――ッムガ!」

扉の向こうの人物が言い終わる前に、弾丸のように飛び出した弥生が半開きの扉にとび蹴りをかます。

それはもうすごい勢いで。

扉のしまる音と人間がつぶれる音、二つ同時に部屋に響き渡る。

たぶん、むこうで気絶してる。

親の仇でも見るような目で扉を射抜く妹様は放置して、ドアノブに手をかける。

はたしてかわいそうな犠牲者はわれらが幼馴染の小村坂ゆいだった。

小村坂ゆい。幼馴染。弥生とは昔から仲が悪い。彼女らの間に友情は存在しないだろう。

というのは言い過ぎか。

だって、一方的に弥生が嫌ってるだけだし。



気絶しているゆいを部室に運び込んでから十分。

回復した彼女は先ずおれに泣きついてきた。

「痛かったよ~、修~」

「おーよしよし、かわいそうに」

「鼻つぶれちゃってない?」

「大丈夫、いつも道理の日本人らしいかわいらしいサイズの鼻だよ」

「あざになっちゃったら嫌いになる?結婚破棄?」

「婚約した覚えなんてかけらもないのはともかくとして、弥生が今にもとびかからんとしてるからも少し離れてくれ」

純粋に怖い。

そもそも弥生とゆいは相性が悪い。

俺は二人とは一対一で話すようにしているのだがこれは参った。

要件だけ済ませてとっとと家に帰ろう。

「それで、どうしたんだ今日は?」

「用事がなきゃきちゃいけない?」

「ないのか?」

「あるけどぉ…」不満そうな顔のゆい。

「あのね、勉強教えてもらおうと思って…」

「勉強?」

「うん、英語の」

ふむ。

「別にかまわんが、一時間だけな」

「ほんと!ありがと!」

抱きついて来ようとするゆいをひきはなす。

弥生も、泣きそうな目でこっちを見てくるな、俺が悪いみたいじゃないか。

それからきっちり一時間、ほとんど何事もなく勉強をしてゆいは帰って行った。

…ほとんど、というのは、弥生が癇癪を起したり、泣いたりしたのがそれだ。


「さて、そろそろ帰るか」

「うん」

何とか機嫌を持ち直した弥生に帰宅を促す。

今日もいつもどうりの一日だった。

そうだよ。

俺たちの日常はこれでいい。

ちょっと退屈かもだが、平穏が一番。

「兄さん。けーたい鳴ってるよ?」

「え、あ、うん」

自分のケータイを取り出す。

鳴っていない。

あれ?

「俺のじゃないぞ」

「嘘。じゃあ、私?」

慌てて携帯を取り出す妹。

妹に電話がかかってくるなんて先ずない。

するとしたらそれは俺か――

「姉さん?」

「――ッ」

「あ、うん、うん…うん、今日?急だね、わかった兄さんにも伝えておく」

「あ…あ…」

「はい、それじゃ後でね」

「………」

「兄さん」


「今日、姉さん、帰ってくるって」


あの人が帰ってきた、つまり俺の平穏は終わった。


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