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クーリングクレジット:cooling credit 第四部  作者: マスター


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第44話 街外れの先客

第44話は、第43話で示された「週末の街外れ」へ、ユウトが初めて足を踏み入れる回です。

これまでの駅前や商店街とは違う、支援が届きにくい場所での小さな勝負。そして、予想外の“先客”との出会いを描きます。

 土曜日、午後四時。


 相馬ユウトは駅を出て、いつもの商店街とは反対方向へ歩いていた。


 通知に出ていた言葉が、ずっと頭に残っている。


『次候補:週末の街外れ』


 街外れといっても、完全に人がいない場所ではない。


 駅から二十分ほど歩いた先。

 古い工場跡地。

 大型倉庫。

 物流センター。

 幹線道路沿いの中古店。

 そして、休日だけ人が集まるフリーマーケット会場。


「……確かに、ここは今までの支援エリアと違うな」


 駅前にはベンチがある。

 商店街には店がある。

 図書館や役所には屋内の休憩場所がある。


 でも、街外れにはない。


 あるのは、広い道路と、照り返しの強い駐車場。

 立ち止まる場所も少ない。

 暑さから逃げる場所も少ない。


 そして今日は週末だった。


 フリーマーケット会場には、思った以上の人が集まっている。

 古着。

 雑貨。

 中古の家電。

 屋台。

 子ども向けのくじ引き。


 にぎやかだ。

 けれど、会場の端では、疲れた顔の人たちが立ったまま飲み物を飲んでいた。


「座る場所がない……」


 ユウトは、会場を見渡した。


 簡易テントはいくつかある。

 だが、どれも出店者用。

 休憩用の椅子は少ない。

 しかも日陰は、ほとんど埋まっている。


 スマホが震えた。


『重点条件:

 週末の街外れにおける

 “立ち止まれる場所”の発見・改善』


「発見・改善……」


 ユウトは通知を読み返した。


「ここに新しく何かを作る、っていうより……まず、使える場所を見つけろってことか」


 そのときだった。


「そこ、邪魔」


 低い声が聞こえた。


 ユウトが振り返ると、大きなリュックを背負った若い男が立っていた。

 黒いキャップ。

 首元には冷却タオル。

 片手には、使い込まれた小型端末。


「……すみません」


 ユウトが道を空けると、男はそのまま通り過ぎる――かと思った。


 男は数歩先で止まり、ユウトのスマホ画面をちらりと見た。


「重点条件、見えてるのか」


 ユウトは、少し身構えた。


「あなたも?」


「まあな」


 男は首元のタオルを直した。


「俺はハル。

 このへんは、先週から見てる。」


「相馬ユウトです。

 先週からって、もう改善に入ってるんですか?」


「入ってない。

 入れないんだよ」


 ハルは、フリーマーケット会場の奥を指差した。


「あそこ。

 会場の外れに、使われてない荷捌きスペースがある。

 屋根があるし、風も通る。

 でも、管理側が“休憩場所としては開けられない”って言ってる。」


「なんでですか?」


「出店者の搬入ルートだから。

 人を集めると、通行の邪魔になる可能性がある。」


「……なるほど」


 ただ休める場所を作ればいいわけではない。

 街外れでは、物流や車の動きが近い。

 下手をすると危ない。


「じゃあ、別の場所を探すしかないんじゃ」


「探した。

 でも、ここより条件がいい場所はない。」


 ハルは少し苛立ったように言った。


「だから、動かせないまま今日も人が立ってる。」


 ユウトは、荷捌きスペースの方を見た。


 確かに、屋根がある。

 壁際には使われていないパレットが積まれ、奥には数台の台車。

 人の導線と重なりそうで、確かに危ない。


 だが、完全に使えないようにも見えなかった。


「……時間帯を分けたらどうですか」


「は?」


「搬入が多いのって、ずっとじゃないですよね?」


 ハルが少しだけ目を細める。


「午前と、閉店前。

 それ以外は少ない。」


「なら、その間だけ休憩エリアにする。

 パレット側にロープを張って、人が車道側に出ないようにして。

 短時間だけ使える場所として案内すれば……」


「簡単に言うなよ」


 ハルの声は厳しかった。


 しかし、その目は完全には否定していなかった。


「人を誘導するスタッフもいる。

 ロープもいる。

 案内もいる。

 誰がやる?」


「……やれる人を探します」


「それが一番難しいんだろ」


 ハルはそう言うと、会場の奥へ歩き始めた。


 ユウトも、少し迷ってから後を追った。


「待ってください。

 俺も話してみます。」


「なんで?」


「重点条件に出たから、だけじゃないです。

 あそこ、使えそうだから。」


 ハルは立ち止まった。


「……その答え、嫌いじゃない」


 二人は会場の管理テントへ向かった。


 中では、腕章をつけた中年の男性が、無線機を片手に出店者の対応をしている。

 忙しそうだ。


「すみません」


 ユウトが声をかけると、男性は振り向いた。


「はい。落とし物ですか?」


「違います。

 休憩場所について、少し相談があって。」


「休憩場所?」


 ハルが横から言った。


「荷捌きスペースを、搬入の少ない時間だけ使えませんか。

 ロープで区切って、短時間の休憩場所にする形で。」


 男性の表情が、すぐに固くなる。


「危ないよ。

 あそこは車両が入る。」


「ずっとではないですよね」


 ユウトは続けた。


「搬入の時間を避けて、三十分か一時間だけでも。

 人が倒れたり、具合が悪くなったりするよりは、安全に休める場所を作った方がいいと思います。」


「でも、人手が足りない」


「案内なら、俺たちがやります」


 ハルが言った。


 ユウトは横を見た。


 さっきまで、“誰がやる”と言っていたハルが、自分から口にしている。


「……あなた」


「いいから続けろ」


 ハルは小さく言った。


 管理者は、二人の顔を交互に見た。


 無線機から、誰かの声が聞こえる。

 会場のどこかで、子どもが泣いている。

 外では、強い日差しを避けるように、人がテントの影へ集まり始めていた。


「十分だけだ」


 管理者が言った。


「え?」


「次の搬入まで、十分だけ試せる。

 人を車道側に出さない。

 何かあったら、すぐ閉じる。

 それでいいならやってみろ。」


「……やります!」


 ユウトは即答した。


 その十分は、あっという間だった。


 ハルがロープを探しに走る。

 ユウトは案内用の厚紙とペンを借りる。

 使われていないパレットを端へ寄せ、通路を確保する。


 ユウトは急いで書いた。


『休憩できます

 あと10分

 無料

 無理をしないでください』


「文言、悪くない」


 ハルがロープを張りながら言った。


「時間制限は、書いた方がいいと思って」


「正解。

 期待させすぎると、閉じるときに揉める。」


 二人は、初対面とは思えない速さで動いた。


 最初に入ってきたのは、小さな子どもを連れた母親だった。


「ここ、座っていいんですか?」


「はい。

 ただ、次の搬入まで十分だけです」


「十分でも助かります……!」


 母親は、子どもをパレットの端に座らせ、自分も壁際に腰を下ろした。


 続いて、買い物袋を抱えた高齢の女性。

 汗をぬぐう若いカップル。

 会場で働いていた出店者。


 十分のはずだった。


 けれど、その短い時間で、八人が休んだ。


 九分を過ぎたころ、ユウトのスマホが震えた。


『臨時滞在ポイントを確認。

 重点条件の一部を達成しました。』


「来た……!」


 だが、喜ぶ間もなかった。


 無線機を持った管理者が、急いで近づいてくる。


「終わりだ。搬入車が予定より早い!」


「分かりました!」


 ユウトとハルは、すぐに利用者へ声をかけた。


「すみません、車が入るので、一度こちらへお願いします!」


 休憩していた人たちは、驚きながらも素直に立ち上がった。


 しかし――。


「ママ、靴……!」


 子どものサンダルが、パレットの下に入り込んでいた。


 搬入車のバック音が近づく。


 ピッ、ピッ、ピッ。


 ユウトは息を止めた。


「俺が取る!」


 ハルがロープの内側へ飛び込もうとした、その瞬間。


「待って!」


 ユウトはハルの腕をつかんだ。


 パレットの隙間。

 荷車の影。

 そして、車のバック音。


「……俺が行く」


「何言って――」


 ユウトは、すでに一歩を踏み出していた。


 スマホが、強く震えた。


『緊急イベント発生。

 対応行動を確認しますか?』


 画面に表示されたのは、見たことのない選択肢だった。


『安全優先支援:

 即時アクションを選択してください』


 ユウトの指が、画面の上で止まる。


 搬入車の音が、さらに近づいた。

第44話では、「週末の街外れ」をこれまでとは違う舞台として描きました。

駅前や商店街のように整った支援エリアではなく、物流・人手不足・安全管理といった現実的な壁がある場所です。


今回は、起承転結を次のように意識しています。


起:ユウトが週末の街外れへ向かい、休憩場所の少なさを知る


承:先に現地を見ていたプレイヤー、ハルと出会う


転:荷捌きスペースを十分限定で休憩場所にする小さな勝負


結:改善は成功しかけるものの、搬入車と子どものサンダルという緊急事態が発生する


ユウトは今回、ただ提案するだけではなく、現場で走り、交渉し、初対面のハルと即席で協力しました。

そして最後には、これまでにない「安全優先支援」の選択肢が現れています。


次回は、ユウトがどの行動を選ぶのか。

その判断が Cooling Credit だけでなく、ハルとの関係や、街外れエリアでの評価にも影響する展開になります。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

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