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クーリングクレジット:cooling credit 第四部  作者: マスター


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第51話 冷えすぎる待機所

第51話は、第50話のラストで届いた匿名メッセージを受け、ユウトたちが夜間配送待機所へ向かう回です。

「冷えすぎる」という不穏な言葉の正体と、追加0.100 CCの条件が少しずつ明らかになります。夜の現場ならではの緊張感と、次へ続く仕掛けを意識しました。

 午後七時。


 街外れの空は、まだ少し明るかった。


 けれど倉庫街に入ると、昼間とは空気が違う。

 大型トラックの低いエンジン音。

 荷物を運ぶ台車の音。

 遠くで鳴るバックブザー。


 ピッ、ピッ、ピッ。


 相馬ユウトは、スマホの地図を見ながら歩いていた。


『夜間配送待機所』


 目的地は、倉庫街の一番奥。

 古い配送センターの横にある、平屋の待機施設だった。


 昼に届いた匿名メッセージが、頭に残っている。


『あそこは“冷えすぎる”』

『止め方を間違えれば、今夜の配送が止まる』


「冷えすぎる、か……」


 待機所が見えてきた。


 灰色の壁。

 大きな自動扉。

 横には、配送員用らしい小さな入口。

 明かりはついている。


 そして、入口の上には、古い表示板があった。


『配送待機所

 休憩・点呼・夜間待機』


 ユウトのスマホが震える。


『限定チャレンジ・第2条件

 夜間配送待機所の負荷を確認せよ』


『追加推定報酬:0.100 CC』


『注意:当施設は現在利用中です』


「来ましたね」


 隣でハルが言った。


 今日は黒いキャップに加え、反射材付きのベストを着ている。


「安全第一、ですか」


「倉庫街は車が多い。

 見えない方が危ない。」


「正論です」


 少し後ろには、ナギと蒼真もいた。


 ナギは温度計と小型ライトを持っている。

 蒼真は以前より口数が少ない。


「先に言っとく」


 蒼真が言った。


「今日は勝手に機械室へ入らない。

 許可がない場所には触らない。」


「成長しましたね」


 ユウトが言うと、蒼真は少しだけ顔をしかめた。


「失敗を一回で終わらせるために来てる。」


「いい答えだ」


 ハルが短く言った。


 四人は待機所の入口へ向かった。


 中から、冷たい風が漏れている。


 外は夏の夜。

 湿った熱気が残っている。


 それなのに、入口の前だけ、少し寒い。


「……確かに冷えてる」


 ユウトは腕をさすった。


 自動扉が開く。


 中には、配送員らしい人たちがいた。


 制服姿の男性。

 荷札を確認している女性。

 椅子に座って缶コーヒーを飲む人。

 壁際で仮眠を取っている人。


 そして全員が、長袖の上着を羽織っていた。


「寒いな、今日」


「冷房、また強すぎない?」


「でも切ったら、今度は倉庫側が暑くなるんだよな」


 小さな不満が、あちこちから聞こえる。


 ユウトは、匿名メッセージの意味を理解した。


「冷えすぎるって……待機所の人たちが寒いくらい、冷却が回ってるってことか。」


 ハルが壁の表示板を見る。


『室温:18.2℃』

『湿度:43%』

『共同冷却ライン:接続中』


「十八度……」


 ナギが温度計を確認する。


「外気との差が大きすぎる。

 休憩するには低いし、出入りが多いなら体にも負担がかかる。」


「でも、なんでこんな設定なんです?」


 ユウトが言う。


 近くにいた配送員が、こちらを見た。


「見ない顔だな。見学か?」


「あ、すみません。

 Cooling Commonsの限定調査で……共同冷却ラインの確認に来ました。」


 配送員は、疲れた顔で笑った。


「調査?

 じゃあ、ちょうどいい。冷房、なんとかしてくれよ。」


「やっぱり困ってますか」


「寒いよ。

 でも止めると、今度は荷物の仮置きスペースが暑くなる。」


「荷物の?」


「この建物、待機所と荷物の一時保管庫が同じラインなんだ。

 片方を下げると、もう片方に影響が出る。」


 ユウトは、待機所の奥にある扉を見た。


 その先には、荷物の仮置きスペースがあるらしい。


「荷物のために冷やしてるのか」


「一部は温度に弱い商品がある。

 夜の配送で受け渡すまで、ここに置くんだ。」


「じゃあ、待機所だけ冷やしすぎても、簡単には下げられない……」


 そのとき、ハルの端末が震えた。


『共同冷却ライン:負荷状況を検出』

『夜間配送待機所:高出力稼働中』


 続けて、ユウトの画面にも通知が出る。


『現場確認を開始しますか?』


『開始する』

『利用者の許可を得る』


「許可を得る、だな」


 ユウトは迷わず後者を押した。


 ハルも同じ選択をしたらしい。


 ナギはすでに、施設の責任者らしい人物を探している。


「話せる人がいる。

 あの人、多分、夜勤の責任者。」


 壁際でタブレットを操作している女性がいた。


 四十代くらい。

 青い作業服。

 腕には責任者用の腕章。


 ナギが近づく。


「すみません。

 共同冷却ラインの確認で来た者です。

 少しお話できますか?」


 女性は、四人を順番に見た。


「誰の許可で入ったの?」


「Cooling Commons地域観測チームから、限定チャレンジとして――」


「限定チャレンジ?」


 女性の表情が変わる。


「ここ、ゲームの舞台じゃないんだけど。」


 空気が一気に重くなる。


 ユウトはすぐに頭を下げた。


「すみません。

 そういうつもりで来たわけではありません。」


「でも、報酬は出るんでしょう?」


 女性は、ユウトのスマホ画面を見た。


 そこには、消し忘れた通知があった。


『追加推定報酬:0.100 CC』


 ユウトは言葉に詰まる。


 否定できない。


 報酬を狙って、ここへ来た。


 でも、目の前の配送員たちは、夜の仕事を支えるために休んでいる。


「……出ます」


 ユウトは正直に言った。


「俺はCCを稼ぎたいです。

 だからここに来ました。」


 ハルが、少し横目で見る。


 ナギも蒼真も何も言わない。


「ただ、皆さんが寒いままなのに、勝手に何か変えて報酬だけ取るつもりはありません。

 冷却を変えるなら、仕事に影響が出ないやり方を、まず一緒に探したいです。」


 責任者の女性は、しばらくユウトを見ていた。


 やがて、短く息を吐く。


「名前は?」


「相馬ユウトです。」


「私は片瀬。夜勤の現場責任者。」


 片瀬はタブレットを閉じた。


「冷えてる問題は、こっちも気づいてる。

 でも、設定を動かした人間が責任を取らされる。

 荷物が傷んだら困るし、配送が遅れたらもっと困る。」


「分かります」


「分かるなら、まず現場を見て。」


 片瀬は奥の扉を開けた。


 待機所の奥には、仮置きスペースがあった。


 小型の保冷コンテナ。

 バーコードの貼られた箱。

 荷台から運ばれてきた荷物。

 そして、壁に沿って走る太い冷却配管。


 冷たい空気が、ここでは必要だった。


「ここに置かれているのは、食品だけじゃない」


 片瀬が言う。


「医療用の冷却パック。温度管理が必要な検体輸送用の容器。

 夜間に動くものほど、遅れを出せない荷物もある。」


 ユウトは、軽い気持ちで“冷房を弱める”と言えなくなった。


「待機所を暖かくするには、ここの冷却と切り分ける必要があるんですね。」


「そう。

 でも切り分け用の設備は、何年も前から調子が悪い。」


 ハルが配管を見る。


「待合所の共同ラインと似てるな。」


「似てるどころじゃない」


 片瀬は低い声で言った。


「この待機所は、共同冷却ラインの中継点なの。」


 ユウトたちの顔色が変わる。


「中継点……?」


「ここを雑に止めれば、旧待合所も会場も、ほかの拠点も影響を受ける。

 だから、今まで誰も触りたがらなかった。」


 ユウトのスマホが震える。


『隠し情報を確認』

『夜間配送待機所:共同冷却ライン中継拠点』


『追加評価条件を更新』

『待機所の快適性と、物流冷却の両立案を提示せよ』


「ただ調べるだけじゃないんだ」


 蒼真がつぶやく。


「両立案を出せ、ってことか。」


 ナギは、待機所と仮置きスペースの間にある扉を見る。


「空気が混ざりすぎている。

 ここに何か仕切りや導線があれば、待機所側だけ調整できるかもしれない。」


「でも、設備を止めずに?」


「たぶん。」


 そのとき、外でトラックのブレーキ音が響いた。


 キィィ……。


 待機所の空気が、急に慌ただしくなる。


 片瀬が端末を確認した。


「予定より早い。

 大型便が来た。」


「何時の便ですか?」


「二十一時のはずだった。」


 壁の時計は、まだ七時二十分。


 片瀬の顔が強張る。


「おかしい。

 しかも、冷却が必要な荷物が多い便だ。」


 通知音が鳴る。


 今度は、ユウトの端末ではない。


 施設全体の警告音だった。


『共同冷却ライン:需要急増を検知』

『中継拠点の余剰冷却容量:残り9%』


 ハルが、表示板を見る。


「また負荷が上がる。」


 ナギが言う。


「待機所は寒い。

 でも荷物はもっと冷やさなきゃいけない。

 このまま大型便を入れたら、ラインが持たないかもしれない。」


 片瀬は、決断を迫られる表情をしていた。


 そのとき、ユウトのスマホに、また匿名メッセージが届く。


『匿名:

 入口の上を見ろ。

 古い“空気分離ダンパー”が残っている』


 ユウトは顔を上げた。


 待機所と仮置きスペースをつなぐ扉の上。


 そこには、ほこりをかぶった金属のレバーがあった。


 表示は、ほとんど消えかけている。


『空気分離

 手動切替』


 ユウトは息をのんだ。


 大型便の到着まで、あとわずか。


 そして、そのレバーには赤い封印タグが付いていた。


『緊急時以外、操作禁止』

第51話では、夜間配送待機所が単なる“寒すぎる休憩所”ではなく、共同冷却ラインを支える重要な中継拠点であることが明らかになりました。


今回のポイントは、以下です。


待機所は18.2℃と冷えすぎている一方、隣の仮置きスペースでは温度管理が必要な荷物を扱っている


ユウトは0.100 CCの報酬を狙っていることを隠さず、その上で現場と協力する姿勢を示した


夜勤責任者・片瀬の案内により、待機所の冷却と物流冷却が簡単に切り離せない理由が分かる


予定より早い大型便によって、共同冷却ラインの余剰容量が残り9%まで下がる


待機所と仮置きスペースを分けられるかもしれない「空気分離ダンパー」が見つかるが、そこには操作禁止の封印がある


ユウトにとって、この夜の勝負は、これまでのように「快適にする」だけでは勝てません。

配送員の体調、温度管理が必要な荷物、物流の遅延、共同冷却ラインの安定。その全部を崩さずに、待機所の寒さを解決する必要があります。


次回は、封印された空気分離ダンパーを誰が、どんな責任で操作するのかが焦点になります。

大型便が到着する前に選択を誤れば、冷却ラインだけでなく、今夜の配送そのものが止まるかもしれません。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

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